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第26話:俺と、激昂のラナ

 俺の返答を受けてです。


 ラナはぐっと眉間にシワを寄せました。ものものしい顔つきのラナと、俺はしばし見つめることになり。


『じゃ、やーめた』


 で、結局のところのラナさんでした。ぷいと俺から目をそらしてきまして。


 や、やっぱりこうなりましたか。俺は納得するしかありませんでした。こんなことになる気はしていましたが、やはりこうなってしまって。


『え、えーと、ダメでしょうか?』


『ダメ。もう無理。協力なんてしてやんない』


『ど、どうしても? 良かったらさ、これから毎日遊ぶとか、そういうことだったら俺も出来るけど……』


『んなこと望んでない。いや。私はもう、アンタに二度と協力なんてしないから』


 俺のさきほどの返答の何がそこまでラナを怒らせたのか? そこがさっぱり分からないので、俺は二の句を告げることも出来なくて。説得の道筋がさっぱり思いつかないよなぁ、これ。遊びの提案がダメであれば、俺はもはや無策でしかないのでした。


 ま、まいったなぁ。ラナには是非とも協力して欲しかったんだけど。


『まぁ、いいんじゃないか? 飛んでるだけでいいだろ? だったら、俺とサーバスで十分だろ』


 アルバはそう口にしてきましたが。うーん、でもなぁ。やっぱり、ラナに協力して欲しいよなぁ。そんなことを思ってまごまごしていますと、アルバはさらに一言。


『諦めろ。今のお前にな、ラナに頼み事をするのは無理だ。お前がまったくラナの思い通りじゃないからな』


 これにサーバスさんも『だよね』と納得を見せられていて。う、うーん。俺にはさっぱりなのですが、ドラゴンのお二方はラナの内心について理解を得ておられるらしく。自身の対人……対竜? そんなスキルが、ドラゴンたちより劣っていることを自覚せざるを得ませんが。


 それはともかくとして、アルバとサーバスさんの見解では、俺がラナにいくら頼んで無駄っぽいですが。


 しかしなぁ。ううーむ……


『そんなにラナが必要なのか?』


 アルバの問いかけには、もちろん同意を返します。


『それはうん。必要と言うか、頼りにしているって言うか』


『ほぉ、そうか。頼りにしてるか……ラナ。ノーラはお前を頼りにしてるってさ』


 えーと、何でアルバはこんなことをラナに告げたんですかね? ラナは無言で、ただ眉間のシワがより深くなったようで。俺は少しばかり以上に怖い思いをさせられてしまっているのですが。


 ともあれ、今度は俺でした。アルバは俺に尋ねかけてきます。


『しかし、何でだ? ぐるぐる飛んでるだけって話だったろ?』


『そうなんだけど、アルバもサーバスさんも単身で飛ぶのに不慣れなのは間違いないだろ? でもラナは経験あってさ、いてくれたらすごく心強いなって思ったんだよ』


『なるほどな』


『敵の騎竜だって、もしかしたら襲ってくるかもしれないし。その時に任せられるのはラナだけだよなって』


『ラナだけか。そうか、ラナだけか』


 アルバはラナへと視線を移すのでした。俺もまた釣られてラナを視界に写すのでしたが……こ、怖ぇ。眉間をピクピクとさせて爆発寸前の感じ。いつ俺の喉笛が食い破られるのかって、そんな心配をしてしまうのですが。


『しかしな、お前は本当にラナのことを信用してるんだな』


 そして、アルバの尋ねかけでしたが。そ、そうねぇ。ラナの暴力性についてはかなり信頼していますが、それ以外にももちろんのことね。


『そりゃ信頼してるよ。俊敏で賢くて、俺なんかよりはるかに優れたドラゴンだし。特に戦闘に関してはね、ラナより頼りになるドラゴンなんていないよ』


 素直なところを口にしたわけだけど。


 アルバは『なるほど』として、ラナへと再び視線を向けました。


『だ、そうだが。どうする?』


 どうするって何? ラナの意思はもう決定していて。どうするもこうも無いような気がするんだけど。


 しかしです。ラナには確かに反応があって。眉間のシワがさらに深くなり、さらにはブルブルと体を震わし始め。

 

 あ、ヤバそう。


 爆発寸前って、そうとしか見えなくて。そして、


『グギャアアアアアッ!!』


 身の毛のよだつような叫びがラナの大きく開かれたアギトから響き。そんで、あ。これ、久しぶりかもしんない。


 パクっと。


 いや、ガブグシャっと。俺の首がどうにも噛み潰されているらしく。いやぁ、なんか懐かしいなぁ、この感覚。そんな感慨に浸っていられたのはほんの一瞬であって。


『ぎ、ぎやぁぁぁぁっ!?』


 これまた久しぶりに悲鳴を発してしまったのでした。痛いっ! って言うよりは、怖いっ! 命の危険が間近に迫っているこの感覚と言うよりは感触。俺は当然、必死に逃れようとするわけで。


『ら、ラナっ!? ちょ、ちょっと待ってっ!! 死んじゃうっ!! 死んじゃうからっ!!』


『ぐぅるるるるる……』


 ダメだ、命乞いが通用する気配が微塵も無い。ラナさん、理性を捨て去って俺の抹殺に従事しているみたいで。


 えーと、何で?


 そこがさっぱりですが、そんな疑問は命の危険の前では大した問題では無いです。誰か助けて。他力本願にそんなことを思うのですが、それを思えるだけの信頼できる友人が俺にはいるわけで。


『ラナ。気持ちは分かるが、そろそろ止めとけ』


 もちろん、それはアルバです。俺とラナの間に、強引に身を割り入れて来てくれて。た、助かった。大事な一戦を目前に控えてますし、これは本当ホッと一息です。


 ただまぁ、一方のラナは安堵とは当然縁は無く。蛮行を防いでくれたアルバに対し、猛烈な怒りを見せるのでした。


『邪魔すんなっての!! アンタもかみ殺してやろうか!!』


『良いから落ち着け。お前の気持ちは分かるがな』


『分かるって何さ!! アンタが私の何を分かるって言うのさ!!』


『協力するつもりなんて無かったのに、なんか協力したくなってきたんだろ? で、そう思ってしまった自分が何とも腹立たしいって。分かってる分かってる』


 ん? でした。俺は恐怖を忘れて、まじまじとラナを見つめてしまいます。


『そ、そうなの、ラナ?』


 今までの流れで、ラナがそんな結論を得るとは思えなかったし、そもそもそれは俺に都合が良すぎるしで。なかなかに信じがたいのですが、それでも協力してくれるのならば、それほどありがたいことは無くって。


 で、やっぱりアルバの勘違いだったかもしんない。


 ラナは絶対怒りによるもので顔を歪ませて。そして、吠えられました。


『あぁもうっ!! ガァァッ!! ウガァァッ!!』


『え、えーと?』


『グガァァッ!! ウガァウッ!! ギシャァァッ!!』


『ら、ラナさん? あのその、少し理性を取り戻して頂けるとありがたいのですが……』


『そんなものは捨てたっ!! ここには無いっ!!』


 さ、左様でしたか。それは何とも交流の難しさをヒシヒシと感じさせてくれるのですが。でも、ラナが協力してくれたらなぁ。その期待があって、交流を止める気にはなれなくって。


 もう一度とにかく頼み込もう。


 そう思った俺にです。ラナはぼそりと呟きをもらしてきて。


『……私を一番信頼しているって言ったわよね?』


 へ? となりましたが、確かにあの、そんな感じのことを言いましたような。質問の意図は分かりませんが、とにかく頷きます。


『う、うん。そんなことを確かに言ったけど』


『……はぁ』


『ラナ?』


『はぁぁぁぁ……っ! ……まぁ、良いわよ』


『へ?』


『手伝ってやるって言ってんの。そうして欲しいんでしょ?』


 それはまったく予想外で。しかし、驚いてばかりはいられないほどに嬉しい返答でした。


『あ、ありがとう、ラナっ! 本当に助かる!』


 とにもかくにもお礼を伝えます。


 ラナは俺と目を合わせること無く、いぜんとして不機嫌そうにブスッとして応じてきました。


『……はぁ。でも、やる気は無いからね? 飛ぶ以上のことはするつもりは無いけど』


『いやいや、それで十分以上だから。これで俺も安心して挑めるよ』


 ラナが協力してくれれば、アルバとサーバスさんの安全についてはまず心配せずにすむわけで。本当に安堵でした。ラナが協力してくれて、これで後顧の憂い無く救出に臨めそうで。


 ただしかし、ラナは何故俺に協力してくれるつもりになったのか。本人の言う通り、ノリ気ではまったく無いらしく。ラナのアギトからは、再びのため息でした。


『はぁ……まったく、しょうがない。もう、しょうがない。そんな気分になっちゃったのよねぇ……はぁ』


『ラナ? ど、どうしたの?』


『あの、ウザいヤツを助けるためにねぇ? はぁ。ま、協力してやるわよ。アンタの大好きなアイツを助けるためにね? ふん』


 イライラしていると言うよりはうんざりしているといった感じでした。それも多分、俺にでは無くラナが自分自身に。


 本当さっぱりでした。


 何故ラナは、こんな状況にあるのか。不機嫌であったり、俺にかみついて来たり、うんざりしながら協力を約束してくれたりしてくれたのか。


 分かりませんが、ありがたいことこの上無く。


 大切な娘さんを救出するためにです。ラナは俺が大好きななんて口にしていましたが……どうなんだろうね。


 実際に目の当たりにした時に。


 娘さんと再び出会うことが出来た時に、俺は一体何を思うことになるのか。


 そこが少しばかり不安の思いと共に気になりましたが……それもこれも、救出を成功させないとですね。


 そろそろ夜が明けます。


 人間の皆さんはすでに動き始めているのですが。俺もまた、動き始めるとしましょうかね。




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