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第7話:俺と、アルフォンソ・ギュネイの思惑

 正直、俺は娘さんが今どんな状況にあるのかで頭が一杯なのですが。動機というものは、一応知っておきたいことのような気はします。


 その思いは、拘束されたカミールさんの家臣として、この人が特に強いようでした。


「そこが私が非常に気になるところですが」


 マルバスさんが困惑によるものか、眉をひそめながらに声を上げられるました。


「何故、ギュネイ様は当家に対して実力行使に訴える気になられたのか? ギュネイ様はカミール・リャナスに穏やかではないものを覚えておられたのかもしれません。しかし、まさか本当に実力行使に出られるとは思っておりませんでしたが」


 俺もまた、まさかという感じでしたが。


 拘束なんて、いきなりの実力行使に出てきたようで。嫌っているような感じではありましたが、そんな感情的な理由で行動に出たということになるのでしょうか?


 アルベールさんは、同情に似た視線をマルバスさんに送られます。


「リャナス家の方々にとっては、まさに晴天の霹靂だったでしょうね。そこは本当に申し訳ない思いしかありませんが。正直、その理由は私にも承服しかねるもので」


「その理由について、お尋ねさせて頂いても?」


「はい。親父殿が言うには、カミール閣下は陛下の重臣としての責務を果たされていないようで」


 ん? としかなりませんでした。


「……カミールさんが責務を果たしていない?」


 思わず声に出してしまって。


 アルベールさんは俺に苦笑を向けて来られました。


「はは。ドラゴンでもそう思われるわけで。ですよね。その疑問は、本当至極当然のものだと思いますよ。俺も、初めて聞いた時に意味が分からなかったですし」


 当主の四男すら、その発言に理解は示せなかったようですが。アレクシアさんもまた、怪訝そうに首をひねられていて。


 ですよね。先日の戦でも、総大将として戦地におもむかれていて。色々と王家に配慮もされているようでしたし、責務を果たしていないかと言えば、俺はそうは言えないと思うのですが。


 一方で、マルバスさんでした。心当たりが無いわけではないようで、しかめ面をされながらに頷きを見せられました。


「なるほど。確かに、当家に対するそのようなそしりの声はあることにはありますが」


 そう頭に置いて、マルバスさんは言葉を続けられて。


「王家の権威と権力は衰退の一途を辿っている。その中で、カミール・リャナスは王家の近縁であり信頼される重臣として、その責務を果たしていない。王都に逗留することも無く、王佐の責を果たすことも無く、ただ自らの領主の保全に腐心している。そんなそしりは、時折耳にすることがありますが……」


 アルベールさんは「まさに」と頷かれました。


「親父殿の言い分はほとんどその通りでした。陛下からの信頼を裏切っていると。ふさわしい働きをしていないと。だから排除しなければならないと、妙な論法を駆使されておられましたが」


 妙と、アルベールさんはおっしゃっていましたが。


 俺にも疑問しかありませんでした。


 ギュネイ家の当主の言い分は、まぁある意味正しいような気はしましたけど。カミールさんの政治的な深慮に基づいたふるまいは、一方で責務から逃げているようにも見える。それは何となく理解出来るような気はしましたが。


 だからと言って排除。


 それは極論だと言うか、うーん。アルベールさんは妙な論法だとおっしゃっていましたが、やはりどこか奇妙な違和感があるような。


「ふむ。アルベール様のお父上は、一体どんな立場のつもりでそのようなことをおっしゃったのか。それが気になるところですが」


 アレクシアさんが首をひねりながらに、そんなことをおっしゃいましたが。


 あー、それですね、それ。


 働いていない。けしからん。そう思うのは、どんな立場であれ自由だと思いますが。しかし、排除しなければならないって。それは何とも。


 アルベールさんは苦笑で頷かれて。


「まるで自分が王家の長老のような……いや、王家すら下に見ているような。そんな風に私にも思えましたが。不甲斐ない息子に対する父親のようなと言いますか。王家のために排除してあげようって、そんな感じでしたね」


 実の父親をそう見たらしい四男殿は、少し呆れたような目をされまして。


「元より、慇懃に見えて多少尊大なところのある親父殿でしたが。王国一等の大貴族として、ふさわしい責務を果たさなければならないと自認されていましたが。それにしても、王国の柱石たるカミール閣下を排除。明らかに行き過ぎた発言で、分不相応なものに思えまして」


「確かに。しかもそれは、おそらく陛下の意思とは違うものでは?」


「ははは。まさにその通りのようで。陛下のご意思はと尋ねる私に、親父殿はその件に関してはこれからご説明するとのことでしたので」


 アルベールさんはどこか悩ましげに自身のあごをさすられるのでした。


「しかもです。それでいて、陛下は必ず納得して頂けると確信しているようで。王国への責務を晴らすこともなく、なおかつ……あー、私が思っているわけではありませんが、あの無作法で無礼な男のことなのだから、と。陛下も内心忌避されておられるのは間違いないだろうと」


「多分に、希望的観測が混じっているような気がしますが」


 アレクシアさんの呆れたような響きの感想に、アルベールさんは苦笑いを浮かべられまして。


「そうですね。ただ、結果としては親父殿の言っていた通りになるでしょう。頼りにされていたカミール閣下が拘束された上で、同格の親父殿が排斥すべきと迫ればですね。あの少しばかり気が弱くあらせられる陛下のことですから。頷かれることになるのは間違いないかと」


「それは確かに。そして、カミール閣下の後釜には貴方のお父上が座ると?」


「そのつもりのようでしたね。まぁ、親父殿は色々と大義らしきものを語っておられましたが。つまるところ、カミール閣下が陛下に気に入られて、なおかつ相応の影響力を持っていることが我慢ならず。だからこそ、カミール閣下を排除したいとそれだけのことのようでしたね」


「ただの政争であると?」


「そうとしか言えませんよね、正直」


 確かにまぁ言ってしまえばです。


 ギュネイ家の当主が、政敵であるカミールさんを排除しようとした。それだけのことのように思えました。


 ただ……実際に武力がふるわれたということで。


 それにカミールさんはもちろん、クライゼさん、そして娘さんが巻き込まれたわけで。ただの政争だなんて、俺にはまったく思えなくて。


 あの人たちは無事なのか。


 それを俺はすぐにでも尋ねたかったのですが。しかし、アレクシアさんはまだアルベールさんに疑いの目を向けておられて。


「しかし、アルベール様はそれでギュネイ一門を裏切られたのでしょうか? 順調にカミール閣下の身柄を押さえることが出来て。おそらくは、カミール閣下の一派と思わしき諸領主の下にも、使者ないし兵を送っているのでは?」


「ですね。親父殿は王都にひそかに軍勢を集めていたようで。説得は難しいだろう領主の館はすでに強襲されているらしく。多数派工作も、親父殿らしく几帳面に進めているようで」


「もはやギュネイ家の策略は成功したようなものでは? 閣下の身柄を押さえられて、リャナスの一派はもはや死に体なのですから。それで何故、アルベール様は裏切ろうと思われたのでしょうか?」


 疑っていると言うよりは不思議に思っているという感じでした。


 それは確かに。すでにカミールさんの身をギュネイの当主の手に落ちていて。それで、カミールさんを失脚させることも出来そうな状況で。


 何故、このタイミングでアルベールさんはギュネイ家を裏切ろうと思われたのか?


 アルベールさんは何故か不意に笑みを浮かべられたのでした。



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