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第44話:俺と、流れ

 流れなんて話になりまして。


 カミールさんはそれに納得を見せられるのでした。


「なるほど、流れか。まぁ、ギュネイ殿の敵意同様、裏切られたうんぬんも確証の無い話ではあるが」


「しかし、閣下はほとんど確信されていたと聞いておりましたが?」


「まぁな。俺の肌感覚では、間違いなく裏切られていたと思うが」


「そして、裏切り者は判明していないと聞いております」


「そうだな。だからこその流れか? 次があるだろうと、そういうことか?」


 カミールさんのおっしゃった内容が、およそ俺の思ったことそのままでした。


 二度あることはって言えるほどに、まだ数は重なっていませんが。ともあれ、前回のアレが裏切りであれば、それは間違いなく失敗したということになりますので。


 次があるというのは確かに不思議では無い気はするような。アレクシアさんは真剣な表情で頷かれました。


「はい。そして、今回は良い機会になるはずですので」


「良い機会か」


「普段は領地におられるカミール閣下が、今はわずかな手勢と共に王都に滞在されているのです。良い機会かと」


 そう言えば、こんな話も聞いていましたね。大貴族にして軍神と呼称されるカミールさんは、色々な懸念があって普段は領地におられるとか。


 そのことを考えますと……なるほど、良い機会ですか。


 カミールさんもまた同意の頷きを見せられるのでした。


「確かにそうだな。俺を始末しようと思えば、ハーゲンビル以来の絶好機かもしれん。で、警戒しろということだな? ハーゲンビルのあの戦場にいた、裏切り者かもしれんギュネイ殿のことを?」


 アレクシアさんは静かな瞳をされて応じられます。


「カミール閣下に敵意を抱いておられるかもしれないギュネイ閣下をです。サーリャ殿は、ハルベイユ候についても裏切り者かと疑っておられましたが。ともあれ、警戒は必要かと」


 最初の、俺についてあーだこーだ言っていた時の空気はどこへやらでした。


 今はどこか鋭く冷たい空気が立ち込めていて。


 俺もまた、ドラゴンながらに居ずまいを正さざるを得ませんでした。


 俺としては、ハルベイユ候はともかく、あのギュネイさんがかつての裏切り者だったり、今後カミールさんに実力行使をしてくるとは思えませんが……しかしながら、これは真面目に考えざるを得ないことだとは理解出来るのでした。


 カミールさんはいつになく鋭い目をして、しばらく黙り込まれて、


「……流れか。あながちバカには出来んものかもしれんな」


 そう呟かれて、大きく鼻息をつかれるのでした。


「ふぅむ。まぁ、あくまでこれは、ギュネイ殿やらハルベイユ候やらを裏切り者だと仮定しての話ではあるがな。だが、これも俺の肌感覚だが、あってもおかしく無い気は確かにする」


「なにかしらの対策、警戒をして頂けますか?」


「可能性は低いとは思うがな。今は王家の由来を祝う式典の直前だ。ここで俺一人を殺すために騒ぎを起こすのは、損が大きいことは間違いない」


「王家ににらまれますでしょうか?」


「当然な。で、ギュネイ殿にしてもハルベイユ候にしても、間違いないの無い勤王の家柄だ。ギュネイ殿は、貴族として王家に忠誠を誓うことを第一としている。ハルベイユ候にしてもだ。アレは王家の命令とあって、ハーゲンビルに代役も立てずに老躯を押して参戦した人物でな。両者共に、式典を汚してまで何か騒ぎを起こすとは思えんが……」


 カミールさんは、静かにたたずむマルバスさんに目を向けられました。


「留意しておいても、悪くはあるまい。マルバス」


 お前も腹に入れておいてくれ。そんな感じでしょうか。マルバスさんは「御意に」と真摯な表情で返事をされて。


「とにかく、悪くはない提言だった。感謝するぞ、アレクシア」


 この話は一区切りだと、そういうことのようでした。


 なんか、えらい話になりましたね。もちろん、事実は不明だということで、あくまで想像上の話ということにはなりますけど。


 しかし、本当に、ハルベイユ候はともかくギュネイさんがそんなことを……って、まぁ、やはり予想でしかないので。あまり事実のように考えるのは良くないような気がしますし、とりあえずのところは、そういう可能性はある程度の話として受け止めておきましょうかね。


 で、アレクシアさんですが。これ以上は告げる言葉は無いようで。カミールさんの感謝の言葉に喜ばれているようでした。


「いえ、感謝などとおっしゃられましても。感謝させて頂きたいのは私の方であります。私のような若輩の半ば妄想のような話に付き合って頂きまして。まことにありがとうございます」


 そうおっしゃられながらも、顔にはこの人がなかなか浮かべないような、気恥ずかしげな初初しい笑みがありまして。カミール閣下のお褒めの言葉は、なかなか胸に染みるものがあったようですね。


 ただ、カミールさんはそんなアレクシアさんのほほえましげな様子を気にされてはいないらしく。


 にわかに大きく首をかしげられるのでした。


「そう言えばだがな。お前は、アルベールに妙な態度をとっていたな? それはこれが原因か?」


 そう言えばとおっしゃいましたが、確かにそう言えばそんなこともありましたっけね? アレクシアさん、無愛想ばかりとは言えない妙な態度でアルベールさんに接しておられましたが。


 娘さんもそれには気づいておられましたが、カミールさんもまた気づかれていたんですねー。しかし、どうなんですかね?


 これが原因のこれって、ギュネイさんにカミールさんに敵意があって、もしかしたら実力行使にも出てくるのでは? って話のことだと思いますけど。


 親子だからってことですかね? アルベールさんもまた、カミールさんに敵意を持っているのかどうか。そんなことをアレクシアさんは気にしたりされていたのかな?


 アレクシアさんはカミールさんに苦笑で応じられました。


「はい。まったくもって、その通りです。先ほどカミール閣下に伝えさせて頂いたことが頭にありまして。どうやらそれが態度にも出ていたようで」


 とりあえず、カミールさんの予想は正しかったようで。カミールさんに敵対するかもしれない人の息子さん。それを念頭にして、アルベールさんに接しておられたようですが。

 

 しかし、具体的にはどんなことを思っておられたのでしょうね? そこがちょっと気になりますが、言い出しっぺのカミールさんはも然そうらしく。


「何を考えていた? 親子そろって俺への敵意はあるのかだとか、そんなことを思っていたのか?」


 俺と同じような予想をぶつけられるのでした。正直、それぐらいしかないような気がしますしねぇ。


 しかしです。アレクシアさんは引き続き、何故だか苦笑のままで首を横にふられるのでした。


「いえ。敵意があるのだろうとした上で、その先のことを考えていました」


「その先?」


「はい。アルベール殿はサーリャ殿に好意を示されていましたので。これはカミール閣下に対する敵対行為の一貫なのでは? そう私は疑っていたのです」


 ……はて?


 一気に話についていけなくなりました。アルベールさんが娘さんへの好意を示して、それが何でカミールさんに対する敵対行為になり得るのか?


 さっぱり分かりません。ですが、カミールさんはどうやら理解されているらしく。


「ほぉ? なかなか面白いことを考えたものだな、お前は。引き抜き工作とでも思ったか?」


 引き抜き?


 ここでも理解が及ばずでして。ただ、それは正解だったらしく。アレクシアさんは表情に苦笑をたたえたままで頷かれました。


「はい。その通りです」


「なるほどな。サーリャは、俺が擁している凄腕の騎手の一人と思われているだろうからな」


「カミール閣下から、凄腕の騎手を引き抜くための謀略。アルベール殿の態度を、ギュネイ閣下に命じられたものではと疑っていたのです」


 とのことでした。


 えーと、ちょっと分かってきたような。


 ギュネイさんがカミールさんに敵対しようとしている。そう仮定した上でですが。


 娘さんを引き抜くことによって、カミールさんの力を削いでやろう。そう思ったギュネイさんが、アルベールさんに命じて娘さんを口説き落とそうとしていた。自分の陣営に引き入れようと画策していた。


 そうアレクシアさんは疑っていたと、そういうことなのでしょうかね?


 ……う、うーむ。理解は出来ました。ただ……えぇ? それはちょっと邪推と呼べるもののような気がしましたが。


 そんな下品なことをねぇ? ギュネイさんもしそうになければ、アルベールさんはもっと出来なそうで。


 あの若者がねぇ? ちょっと、うーん。ありえないんじゃないのかな?


 カミールさんも俺に似たような意見なのでしょうか? 少しばかり、苦笑いよりの皮肉な笑みを浮かべておられました。


「その発想力はなかなかのものだと褒めておこう。だがな、それは少し考えすぎのように俺には思えるがな」


 根拠は分かりませんが、意見としては同じであるようで。そして、アレクシアさんもまたでした。


「はい。私もそう思います」


 同意を口にされるのでした。


 そこには今まで通りの苦笑がありまして。ふーむ。今までの苦笑はそういうことだったのでしょうか? 考えすぎての邪推をしていたことへの苦笑だったということっぽい?


 アレクシアさんは苦笑の色を深められまして。


「肝心の人について考えていなかったような気がします。アルベール殿がそんなことを出来る方かという話なのですが」


「まぁ、お前はよく知らなかっただろうから仕方あるまい。俺とて、そこまで知っているわけでは無いがな。だが、そんな男には思えまい?」


「はい。まったく」


 アレクシアさんは、苦笑にほほえましげな雰囲気を漂わせておられました。




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