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第42話:俺と、アレクシアさんとギュネイさん

 カミールさんはもちろん用事があって、アレクシアさんを訪ねて来られてようでした。


「……えー、左様でしたか、閣下。私に何かご用でしたか?」


 少しばかり平時の様子を取り戻しながらにでした。アレクシアさんが尋ねかけられまして、カミールさんは頷きを見せられます。


「そういうことだ。今までに時期が無かったからな。アレだ、アレ。前の茶会でな、後で必ず聞かせろと伝えたことがあっただろ?」


 ふーむ? もはや四日も前の話になるのですが。そう言えば、そんなこともありましたっけね。


 聡明なアレクシアさんですので。俺が思い至ったことには、当然すぐにたどり着かれたようでした。


「ギュネイ閣下に関することでしょうか?」


 そんな話をしてましたもんねー。


 ギュネイさんとカミールさんが実は仲良くないんじゃないか? アレクシアさんはそう尋ねて、カミールさんはむしろ悪いみたいに答えられたような。

 

 で、その時のカミールさんは娘さんをからかうことに夢中でして。何故、アレクシアさんが仲が悪いと思うに至ったのか。そこを気にされながらも、その話はまた今度ということになりましたが。


 その今度が今ということになるのかな? カミールさんはアレクシアさんに頷きを見せられました。


「そうだ、それだ。お前が竜舎の鍵を借りていったと、マルバスに聞いたからな。その話を聞きに俺はわざわざ放牧地まで来たわけだ。さぁ、さっさと話してみせるといい」


 どうやら、そういうことのようで。


 しかし、それってそんな重要な話なんですね。アレクシアさんが何でお二方が仲が良くないかと思ったかなんて。


 カミールさんの目つきはどこか真剣に見えますし、マルバスさんの表情も微笑ながらに目は笑っていないようですし。


 俺からうかがえるアレクシアさんの横顔も真剣そのものでした。先ほどまでの、慌てふためいていた様子はどこへやら。青っぽい黒の瞳には、静かに真摯な光が浮かんでおります。


 俺にはさっぱりですが、かなり重要な話のようで。ここは俺も真剣に拝聴させて頂くとしましょうか。


「閣下からお尋ね頂きありがとうございます。この件については、私からも是非お伝えさせて頂きたいと思っていましたので」


 アレクシアさんが頭を下げられますと、カミールさんはうっとうしそうに片手をはためかせるのでした。


「前置きはけっこうだ。俺も忙しい身だからな。何故、お前は俺とギュネイ殿の間柄に疑問をはさむことになったのか。簡潔に言ってみろ」


 それ、尋ねにきた方の態度ですかね?


 ちょっとばっかし疑問には思いましたが、アレクシアさんは気にされていないようで。頷きと共に口を開かれました。


「はい。そこに思い至った理由の一つは、あのお茶会でのギュネイ閣下の態度です」


「ふむ?」


「和やかにされているように見えて、カミール閣下とまともに言葉を交わしたことは一度もありませんでした。さらには、目を合わされたことも無かったような気がします」


 簡潔なアレクシアさんの返答でした。


 ふーむふむ。そう言えば、そう……でしたっけね? 正直、よく覚えてはいませんが。でも、確かにそんなような気も。終始にこやかにされていたギュネイさんでしたが、カミールさんとはろくに絡むことは無かったような。


 しかしまぁ、これがアレクシアさんがカミールさんとギュネイさんの仲が良くはないと看破した理由でしょうか。本当、この人は良く人を見てますねぇ。なんとも感心してしまいますが。


 ただです。カミールさんは、思うところはまったく無いようでしたが。


「それだけか? お前がそれに思い至った理由は?」


 これでは足りない。そういうことなのでしょうか。


 カミールさんの問いかけに対し、アレクシアさんは首を横に振られました。


「いえ、理由はもう一つあります」


「では、聞かせろ」


「私は以前に一度、ギュネイ閣下にお会いしたことがあります。実家の夜会に、お越し頂いたことがありまして」


「そうか。それで?」


「私は当時も変わらず貴族として非常に不出来でして。言ってみれば無愛想で、社交性など欠片も無かったのですが……その私に向けられたギュネイ閣下の視線と、カミール閣下に向けられた視線です。それがどうにも似ていたような気がしまして」


 ふーむ? 


 何かしら、パッと察することは出来ませんでした。ギュネイさんの視線がポイントなのでしょうが。無愛想なアレクシアさんに向けられていた視線と、お茶会にてカミールさんへと向けられていたのものが似ていた。


 はてさてですね。その意味するところは何なのか。仮にです。ギュネイさんっぽくは無いのですが、アレクシアさんにこの人無愛想だなぁって視線を向けておられたらです。でも、そんな意味の視線をカミールさんに向けられるとは思いませんしねぇ。


 とにかく、俺にはサッパリでしたが。しかし、カミールさんはかなりのところ満足げでした。


「ははは。そうか。ギュネイ殿の、お前に対する視線と俺への視線が似ていたか?」


 納得の笑みに俺には思えましたが。カミールさんは一つ大きく頷かれまして。


「人間嫌いもなかなか役に立つものかもしれんな。そうかそうか。お前にはそう見えたか。ならば少し考えてみる必要があるかもしれんな」


 とのことでしたが。アレクシアさんの意見に大いに納得されたと、そんな感じ。


 そして俺、置いてけぼりです。マルバスさんもなるほどみたいに小さく頷かれてますし。え、なに? どんな思考が皆さんの共通理解としてあったので? 


 な、なんだかなー。ドラゴンであることの寂しさを如実に感じざるを得ないのですが。どなたかこう、説明みたいなものを挟んでくれると俺はありがたいのですが……え、えーと、ダメ?


「ギュネイ閣下はやはりそういう方だと。そう理解してもよろしいのでしょうか?」


 ここで疑問の声が飛びました。


 アレクシアさんが真面目な顔をされて、カミールさんに問いかけられたので。お、おおー! これはありがたいかもしれません。なんか、俺の疑問への解答につながりそうな雰囲気がプンプンしますし。ここは耳をそばだたさせてもらうとしましょう。


「まぁ、そういうことだな」


 カミールさんは相槌を打たれて、話を続けられるのでした。


「ギュネイ殿はまったく貴族らしい貴族でな。貴族としての矜持が服を着て立っているようなものだ。貴族が責任を負った特権階級だと誰よりも正しく理解しているのだろう。ふむ、こう言ってみると稀に見る立派な人物のように聞こえるな」


 えーと、俺には普通にそう聞こえたのですが。じゃあ、実際にはそうでは無いってことですかね?


「実際にそのようなお方ではないですかな?」


 ただ、マルバスさんが苦笑でそう口をはさまれまして。カミールさんは淡々と頷かれました。


「まぁな。実際にその通りなのだろうさ。だが、欠点が無いわけでも無い。それはお前も勘付いていることだろう?」


 欠点ですか。俺の脳裏には、ギュネイさんの穏やかなお貴族スマイルが浮かびまして。ありますかね? 貴族的な意味で、あの方は完全無欠のように俺には思えましたが。


 しかしです。マルバスさんは同意の頷きを見せられるのでした。


「えぇ、はい。あの方は少し……貴族であることを誇りにしすぎておられるような気はしますが」


 はーて? 誇りにしすぎている。注目すべきはしすぎているというフレーズでしょうが、その意味はなんぞで?

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