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第38話:俺と、ドラゴン相談会(春季)

 なんか疲れる。


 そんな王都での日々でございました。


『はぁ……』


 放牧地に隣接した、リャナス家のすばらしい竜舎にてです。今日も今日とて、素晴らしい春の晴れ間なのですが、なんともかんとも陰鬱な気分で。


 ため息が止まりませんねー、はい。


 そんな俺を見つめながらに、近くの房にいるサーバスさんが不思議そうに首をかしげられるのでした。


『ノーラ、ずっとそんな感じだよね?』


 そうですねー。その通りでございます。いや、だんだんと悪化してきたような気がしますが。


 あの手合わせの当日から兆候はあったのですが。


 で、ドラゴンの幸せを求めようとしても、結局あまり効果は無く。


 そして本日に至るのでした。なんかもう、くそダルいです。なんか鬱々としていまして。ちょっとイライラもしているようで。とにかく柱にもたれて、耐え忍んでいるのですが……うーむ。


『……良かったらだけど、話聞こっか? 何か悩んでるの?』


 で、サーバスさんは、そんな優しい気遣いを見せて下さったのでした。


 なんか、ちょっとホロリときましたねー。


 めちゃくちゃ嬉しい気遣いですねよね。サーバスさん、めちゃくちゃ優しい。ちょう嬉しい。


 こんな気遣いを示されたらね?


 そりゃもちろん、話をさせてもらいますとも。相談させて頂きますとも。


 と、行きたいところなのでしたが。


『サーバス。放っておけばいいぞ。話を聞こうにも、その話が無いそうだからな』


 隣の房からでした。アルバが眠たそうな目をして、サーバスさんにそんな助言をよこしたのでした。


 うーむ。放っておけとはなかなか辛辣なお言葉で。でも、まったくもってその通りで。相談はしたいんだけどね。是非、信頼出来るドラゴンの皆様方をお頼りしたいのですが。


 相談出来る内容が無いんですよね、本当、えぇ。


『そうなの?』


 サーバスさんの疑問の声に、俺は頷きを見せるのでした。


 アルバには前もって話していたんだけどね。って言うか、前もって相談があるならしろよと言われていたと言うか。


 娘さんとアルベールさんの鍛錬中の話です。だから、その時竜舎にいたサーバスさんには、当然伝わってはいないのですが。


 マジで無いんですよね、はい。


 ハーゲンビル……先の戦の時なんかは分かりやすくあったんですけど。


 娘さんにしゃべりかけたいけど、そのことで今までのドラゴンと人間の距離感が崩れたらどうしよう。嫌われたらどうしよう。


 そんなはっきりした悩み事があったのですが。


 今はね、無いの。マジで無いの。


 理由も無く、鬱々としている。ほとんど、そんな状況であって。


 いや、原因らしきものは分かっているんだけどね? それはもちろん、アルベールさんと言うほか無くて。


 彼のイケメンスマイルを目の当たりにしたり、娘さんと仲良くしている姿を見ていると、なんかこう……頭が湯だつような感覚を覚えたりしましてで。


 でも、本当何でアルベールさんの様子を見て、俺は鬱々としているのか? これがもう、本当にさっぱりで。


 あの人は、娘さんの友人なわけで。同じ趣味を持つ、同じ騎手である友人。イケメンで、性格も良くて。そして、あるいは娘さんの将来の幸せに大きく関わってくるかもしれないお方で。


 本当、あの人を見て、俺が鬱々としなければならない理由が無くてですね。


 だから、こんな状況で相談っていうのも……ねぇ?


 アルベールさんを見ていると、気持ちが鬱々となってくるんですけど、どうしたらいいんですか?


 相談出来るとしたらこんなものになりますが、こんなこと聞かれたってねぇ? まず、何で? って、なるでしょうけど、それに答えることは出来なくて。となると、じゃあ見ないようにするぐらいしかないよね? って、ならざるを得なくて。


 そんな結論の決まりきった相談をするのはね? 何とも申し訳なくなるのでして。


 なので、相談する話が無いと、そんな話になるのでした。


『なんでもいいから話してみろって言ってあるんだけどね。まったく、コイツは』


 隣から、呆れた口調のラナさんでした。


 もたれている柱の影になって見えませんが、ちょっといらついている顔をしているかもですね。


 アルバ同様に、ラナも俺を気遣ってくれていまして。で、もちろん俺は相談する内容が無いって返したのですが。それが、何やら彼女にとってはご不満のようで。


 まぁ、鬱々としている俺を目の当たりにするのはラナにとってもストレスでしょうしねぇ。端的に言えば、ムカつくと言いますか。


 さらにラナって何だかんだ優しいので。さっさと相談して、さっさと解決しろやって! 優しい鬱憤を覚えておられるかもしれません。


 でもなぁ。まずは自分で考えることって感じがありますし。ラナには悪いけど、ちょっと我慢してもらうしか無いと言うか。


 なんで俺はアルベールさんを見て、こんな気分になっているのか?


 さっぱり分かりませんが、しかし考えねばならず。その何故を理解しなければ、俺はこの鬱々とした心地からは解放されない気がして……うーん。考えれば考えるだけ鬱々としてきますが、うーん。うーん、うーん……って、ぬおっ!?


 ズガンっ!! でした。


 俺がもたれていた柱が、もう盛大に横揺れしまして。で、俺の長いアゴにガガンっ!! ですよ。


『ぬ、ぬおお……』


 いたい。多分、アゴの骨が増えた。三つ、四つ増えた。俺がどうしようもなく痛みにもだえていると、ラナがぬるりと柵越しに俺を覗き込んできまして。


『だから! 話せって言ってんのっ! 話せることが無いって言っても、少しは何かあるんでしょ? さっさとそれを言えっ!』


 怒気を露わにしてラナはそんなことを口にしてきたのですが……順番逆の方が良かったなぁ。ラナさんの柱を用いた間接打撃は俺のアゴに深い損傷を残すことになったのでして。怒声を先にしてくれたら良かったなぁって思わざるを得ません。


 し、しかし、これ以上の負傷は勘弁ですよ? これ以上ストレス源が増えるのは勘弁ですし。流動食しか食べられないような体は、それはもう鬱々としてしまうことは間違いないですし。


 これは話すべきでしょうか?


 いやでも、こんなこと聞かされてもラナも困るでしょうし、うーん……


『……お前は、こんなこと聞かされても困るだろうなんて思っているかもだがな。気にせず言えよ。ヒマつぶしぐらいにはなる』


 アルバでした。


 俺の心が軽くなるようにとのことなのか、ヒマつぶし程度だからなんて言ってくれまして。


『私も聞きたいかな? その、ヒマつぶしで』


 サーバスさんもでした。アルバに合わせて、そんな文言を口にしてくれて。


 ……うーむ。ここまで言って下さるとね? 迷惑は承知でも、口にしたくなるような。本当、ありがたくて、そうするしかないような。


『……アルベールさん……最近よく来る人間の男の人を見ていると、なんか妙に気分が暗くなってさ』


 で、言ってしまいました。


 果たして、どんな反応を呼ぶのか? 少しばかり緊張しながらに俺は様子をうかがっていたのですが、結果は案の定でした。


『……最近よく来る人間って、多分アイツのことか。アイツを見ると、気分が暗くなる? ……何でだ?』


 やっぱりそう思うよね。俺は首を横に振ります。


『それがさっぱり分からなくて』


『分からないのか? だったら……ふーむ。じゃあ見るなとか、そんなことしか言えないな』


 ですよねー、でした。


 こんなこと聞かされても、そんなことをしか言えませんよね。サーバスさんも、首を傾げられまして。


『ふーん……あの人間が嫌いだったりするの?』


 で、これまた当然の疑問でした。


 嫌いだから、目にするだけで気分が悪くなる。そう察せられたのでしょうけど。


 そうだったら、話は簡単なんですけどねぇ。


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