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第37話:俺と、ドラゴンとしての幸せ

 ラナさんにヒマですか、と。

 

 見ての通りかとは思ったのですが、一応礼儀として尋ねかけておきます。ラナは少しばかりオロオロしながらに頷いてきます。


『そ、そりゃヒマだけど……どうしたの? やっぱ体調悪いんじゃ?』


 いきなりの空元気はラナすら驚かせてしまっているようですが。まぁ、とにかくです。ヒマらしいので、俺は本題を告げることにしました。


『ヒマだったらさ、今遊ばない?』


 これが俺の本題なのですが。遊びはラナにとって、人生最大の喜びのはずなので。当然、しっぽを振って頷いてくれる。そう思ったのですが。


『……大丈夫? なんか無理してたりしない?』


 心配そうに、逆に問いかけてくれたりしたのでした。


 うーむ。ラナがマジで淑女っぽくなっておられる。いや、それは淑女のハードルがあまりに低くなっているかもしれませんが。でも、最近本当に気を使ってくれるよね。大人の階段を一足飛びに駆け上がっている。そんな印象を強く抱かされるのでした。


 とにかく心配をしてくれるのは非常に嬉しいことでしたが、今の俺の望みは本当に遊ぶことなので。心配の声に、俺は首を横にふります。


『心配してくれて、ありがとう。でも、無理なんかしてないから。とにかく今は遊びたくってさ。ラナが良かったら相手して欲しいんだけど。ダメかな?』


 ホントのホントに俺の本心なんですよね、これ。


 人間のことは人間のこと。

 

 俺はそう思うことにしたのでした。娘さんとアルベールさんのことは、ドラゴンである俺が考えるべきことじゃない。本人たち、あるいは周囲の人たちが考えるべきことって、ひとまずそう結論づけまして。


 で、ドラゴンである俺はドラゴンとしての自分のことを考えようかな、と。


 せっかく王都に来て、素晴らしい陽気の下にいることだし。


 出来るならば、幸せに過ごしたいものですしね。で、早速、以前に尋ねたドラゴンとして幸せになる方法を活かす時なのでした。


 まずはラナの手法ということで。


 遊ぶことで幸せを目指そうと、そう思ったわけなのです。


 俺が心から遊びを望んでいることはラナには伝わったようで。心配そうな雰囲気は露と消えて、ラナはゆるやかに尻尾をゆらめかせるのでした。


 まぁ、ここに来てからロクに遊んでませんしね。アルバは今もですが、得意の睡眠にいそしんでますし。で、俺がこの調子だったので、ラナはロクに幸せを味わうことが出来ずにいて。


『……そ、そう? 遊びたいの? だったら……まぁ、私も遊んで上げないこともないんだけどね?』


 との返事でしたので。


『よーし! じゃ、遊ぼっか!』


『おうさ! どんと来いやっ!』


 で、遊びました。


 放牧地の地を駆け巡り、王都の空を飛び回り、ドラゴンブレスは飛び交い、お互いの首を狙った熾烈な駆け引きを繰り返し……


 ぶっちゃけ、凄絶な殺し合いをしているようにしか見えないよね。


 アルベールさんが「あ、あれは大丈夫なのですか?」って不安そうな顔をされていましたが、非常に納得でございました。


 ともあれ、三十分ほども遊べば、体力は順当に使い切ることになり。


『……ふふ……ふふふ。やっぱり遊びはアンタとに限るわね』


 地面にぐたりと伏せて、しかし満足そうなラナでした。一方の俺も、地面にべたりと伏せて、わりとけっこう満足でした。


『……頭がスッキリとしたような気も』


 そんな感じでした。


 名一杯に体を動かしたのが良かったようで。胸中のモヤモヤとしたものが、かなり晴れたような気がするのでした。


 しかし。


「……本当に遊びだったのか? うーむ」


 戸惑いの声を上げられるのはアルベールさんでした。それに対して、娘さんは楽しげに頷かれるのでした。


「はい。ノーラとラナは良くああやって遊んでいます。決して、仲が悪いわけじゃないのです」


「は、はぁ。しかし、良いのですか?」


「良いんです。ノーラとラナは、あれで良いんです」


 楽しげを通り越して、何故か自慢げな娘さんでした。まぁ、これが遊びだと理解されているので。ウチのドラゴンは仲が良いと、それが自慢の種なのかもしれませんが。


 本当、しかしです。


 娘さん、楽しそうですよね。アルベールさんと本当、楽しい時間を過ごしておられるようで……


 よし。


 俺は立ち上がります。


 視界に収めるのはアルバです。俺とラナの死闘も、アルバの睡眠を邪魔するには足りないらしく。ぐーすかぴーで幸せの時間を過ごしているようですが。


 これですね、これ。


 ドラゴンの幸せ、その二です。


 寝ることこそ、ドラゴンの幸せ。それがアルバ先生のお教えなのでした。


 早速、実行させて頂きましょう。何のために立ち上がったのか分からなくなりましたが、すぐさまその場でとぐろを巻きます。では、おやすみーと、そういうことで。


 ……そういうことにしたかったのですが。


『アンタ、よく今寝る気になれるわね』


 ラナが呆れた口調でそう告げてきましたが。そうね、全然寝られないね。神経が高ぶって、何ともかんとも。眠気なんて、お空の彼方で決して手の届かないところに飛び去ってしまったようで。


「へぇ、ラウ家ではいつもこのような光景が」


 にわかにアルベールさんの声が聞こえてきまして。当然、それには娘さんが陽気な声で応えられまして。


「そうなんです。いつもこのような感じでして」


「当家では一度としてこんな光景は見たことがありませんが……育て方などに何か秘訣が?」


「あははは。それはですねー……あー、えー……ちょっとこう、言いにくいものがあったりしますが……」


 娘さんは言い淀まれたのですが、アレかな? もしかしたら、俺が変なドラゴンだと気づかれないためのものだったのでしょうか?

 

 ラナがよく遊ぶのは俺の影響があってのものだと、娘さんが思っておられるかもということで。実際はまぁ、ラナの性格によるものが全てなのでしょうけど。でも、娘さんはラナとは直に話されているわけでは無く。変なドラゴンである俺の影響を受けて、ラナが変な遊びをするようになった。そんな誤解をされておられるのかも知れず。


 こんな光景が見れるのは、ノーラとかいう変なドラゴンのせいなんです! とは、娘さんは口に出来ないわけで。俺が変なドラゴンであることを隠そうと、娘さんはされているわけで。結果、言い淀まれることになったかもですねー。


 しかし……娘さんは、アルベールさんに慣れて来られた感じがありますねぇ。笑い方からは、よそ行きの雰囲気が感じられなくて。同じ騎手であり、同好の士であるアルベールさんと順当に心の距離を縮めておられるようで……


 よし。


 俺は立ち上がります。


 幸せ。ドラゴンの幸せ。これを俺は求めなければならないのです。無性にそんな気分なのです。さて、次はどうするか。


 女が欲しい。アルバはそんなことを言っていましたが、俺にはまだ適用されないようなので。ここは、うーん。幸せ。幸せ。しあわせ。しあわせって何? 分かんなくなってきましたが、俺はとにかく幸せが欲しくて、うーむ。ここは、そうですね。


『ラナ』


『あ? 何さ?』


『もうちょっと遊ばない?』


『無茶言うな』


 成功体験に訴えようと思ったのですが、ラナはぐでりとしての拒否でした。えー、嘘? ラナじゃん。ラナ大先生じゃん。この道の第一人者じゃん。それなのに遊んでくれないの? じゃあ、俺のこの心の欲求はどうすればいいの?


 ドラゴンの幸せ。ドラゴンとしての幸せ。


 求めさせて下さいな。娘さんとアルベールさんとの会話を耳にしていると……どうにもね。ドラゴンとしての幸せを求めたくなるのです。娘さんのいないところでの幸せを求めたくなるのですよ。


 ただ、現状で俺に取れる手段は無いようでして。


 娘さんとアルベールさんは楽しい会話を続けられるのですが。


 俺はただただ立ち尽くし、モヤモヤとした時間を過ごすのでした。


 

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