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第29話:俺と、懸念色々

 娘さんは一つ頷きを見せられまして。


「アレクシアさんもだけど、勘の良い人は気づいちゃうものみたいだから。ここはもう貴族の巣窟みたいなものだしね。気づかれたら最後、ハルベイユ候みたいな人がわんさか出てくるかもだし……とにかく気をつけてねってこと」


 娘さんも、俺と同じようなことを考えておられた。そういうことなのでしょう。そして、この機会にと俺に徹底するように忠告することになったと。


 ふーむ。ラナは嬉しい時にはよく尻尾をふりますが。俺も、同じことをしてみたい心地でございました。


 これはもう、嬉しいの一言ですよね。


 だって、これはね? うかつな俺に一つお灸をすえて置いたって面もあるのでしょうが。でも、娘さんは、俺が取られたら困ると思って下さるということなので。


 本当うれしいですよね。アルバやラナには及ばない俺ではありますが。それでも多少なりとも娘さんは俺を大事にしてくれているということですからねー……少なくとも、あの男よりは。


 とにかくです。


《分かりました》


 意思をつづって、大きく頷きも見せまして。娘さんも、愛らしい笑顔を見せて下さいました。


「お願いね。皆が皆、お父さんみたいな人じゃないから。本当に気をつけないと」


 そして、親父さんへのdisが入りましたが、うーん、反応しづらい。ぶっちゃけですよねって思っている自分がいますし。親父さんには、本当に申し訳ないですけどうーむ。


 しかしまぁ、話はここで終わりですかね? だったら、俺もちょっと自分の用件を果たしてもいいでしょうか。


 先ほどの思案でした。


 娘さんの名誉のためにも、あの四男坊をぼっこぼこにしてもらうためにも。


 騎竜を、アルバやラナに変えるのはどうでしょうか? そう提案させて頂くのである。


 ではね、早速記させてもらうとしましょう。そう思って、俺は土の地面に鉤爪を走らせ……


「それでさ、ちょっと相談があるんだけど」


 走らせられませんでした。俺は鉤爪を止めて、娘さんの顔を見つめます。


 相談とはありましたが。その言葉通りの困り顔でした。眉を八の字にして、首をかしげておられて。


 主張したいことはあるのですけどね。俺の都合なんて、娘さんの都合と比べたらごみあくたのようなものなので。相談をして下さることも嬉しさもあれば、とりあえず俺の意見はポイーですね、ポイー。


《相談ですか。どうぞ喜んで》


 予定を変更して鉤爪にはこんな文章を書かせたのでした。娘さんは嬉しそうにほほえんでくれました。


「ありがとう。で、相談なんだけど……どう思うかな? 手合わせって話だったけど、どのぐらい本気でやった方がいいと思う?」


 そして、こんな相談の内容でした。え? 娘さん、本気でやるつもりじゃなかったの? それは何故って思ってしまいますが……って、あー、そりゃそっか。


《余興ですものね》


 良い余興になる。カミールさんはそうおっしゃっていましたので。どのぐらいにマジになるべきかってね、そりゃ悩まれますかね。


 娘さんは真剣な顔して頷かれて。


「そうなの。余興って言われたから。火を吐かせても良いか分かんないし、釣り槍をかけにいっても良いか分かんないし……どう思う?」


 そ、そうですねー。本音で言えば、あんな貴族のボンボンに火で丸焦げにしてやって、釣り槍で穴でも開けてやればいいような気はしますが。


 娘さんの相談ですからね。冷静に答えることにしましょう。


《火は止めた方が良いと思います。間違って、相手なり観衆の誰かなりに当たれば問題ですので》


「うん。だよね。そうだよね」


《釣り槍もどうかと。血が出るようなことになれば、それも問題になりかねません》


「分かる。私もそれが気になってたの。さすがノーラ。良い助言してくれるなぁ」


 別にどなたに尋ねたところで同じような回答は返ってくると思いますけどね。ただ、娘さんが心底嬉しそうなので俺もまた素直に喜んでおくのですが。


 ただでした。


 懸念はまだあるようで、娘さんは腕組みで「うーん」とうなられるのでした。


「でもなぁ。それだと本当やれることが少なくなっちゃって……あー、そもそもだけどさ。アルベールさんにそれなりに付き合って、それなりに負けてみせる方がいいのかな? ウチって、しょせん地方の小領主だしなぁ」


 身分差を念頭においての発言らしかったのですが。確かに、それが一番無難のような気はしますけどね。地方の小領主が、大貴族の機嫌をうかがうのは何もおかしいことは無いでしょうから。ただ、それは個人的にはあまり望んだ展開ではありませんし。


 貴族のボンボンをぼっこぼこにして頂きたいですし、それに何よりもです。娘さん、悩ましげですので。無難な道を分かっていて、それを選びかねている。そんな状況らしいので。


《大変ではありますが、勝ちにいってもよいのでは?》


 娘さんは「んー」とうなられまして。


「ノーラはそう思う?」


 いまだ悩ましげな娘さんに、俺はまず頷きを見せまして。


《多分ですが、カミール閣下の望みもそこにあると思われますし。配慮を望むのならば、最初から手合わせに頷かれてはいないかと》


 俺はそう思いますけどね。


 あの人、本当に気遣いの出来る方ですからねぇ。娘さんがあの男に勝利したら、ラウ家の立場が怪しくなる。そんな状況があるのでしたら、カミールさんはやはり手合わせを断っていたでしょうし、少なくとも負けてみせるように忠告してくれたでしょう。


「……だよね。カミール閣下は何もおっしゃってなかったもんね。負けてみせろとか言って無かったし」


 カミールさんへの信頼は俺と同じようで。娘さんの表情にある迷いの色が薄くなるのでした。


 俺は今回も頷きを見せまして。


《問題があるのでしたら、ギュネイ閣下も頷いてはおられなかったでしょう。ですから、おそらく大丈夫かと。貴女の思うに任せれば良いかと》


 わざと負けてみせる。それをためらっていた娘さんでありますので。是非とも、思うがままに、自由に空を駆けて頂きたいところでありました。


 まだ迷いはあるようでした。


 ただ、結論は得られたようで。娘さんは小さく頷かれました。


「……よし。分かった。ラウ家の騎手として、わざと負けるなんて正直無しだったから。制限は多くても、ちゃんと勝ちにいくことにするよ」


 素晴らしいご決断でした。娘さんが接待で空戦なんてねぇ。若くとも誇り高い騎手であらせますからね。屈辱でもあるでしょうし、何より俺が娘さんにそんなことはして欲しくありませんし。


 まぁ、四男殿をぼっこぼこにして欲しいという思いもありますが、それはともかくとして。とにかく良い結論だと思いますが……これって、そういうことなのですかね?


 いや、何故俺が選ばれたのかって話ですが。


 接待をした方が良いのかと、娘さんは悩んでおられたらしいので。本気でいく必要は無いとして、劣った俺を適当に選んだのではないかと思った次第であります。


 だったら、これで俺を選ぶ必要は無くなったのではないでしょうか。あちらさんのドラゴンは間違いなく強大。勝ちを狙うとすれば、対抗馬にはそれなりのものが求められるはずで。


《騎竜は、アルバかラナに変えられたらいかがですか?》


 率直に、自分の思いを地面につづります。娘さんは不思議そうに首をかしげられるのでした。


「え、どうしたの? 調子でも悪いの?」


 にわかに俺の体調の心配をして下さったのですが。いやいや、そういうわけでは無くってですね。俺は再びカギ爪を走らせます。



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