第22話:俺と、アルベールさん
大貴族の子息にて、風貌から身振りまで魅力がたっぷり。
そんなギュネイさん……えーと、被っちゃうか。アルベールさん。アルベールさんでいきましょう。そんなアルベールさんの挨拶を受けて、この集団の代表格、ハイゼさんがまず笑顔で頭を下げられるのでした。
「これはこれは、ご丁寧な挨拶を頂きまして。お初にお目にかかります。ハイゼと申します。これはクライゼ。当家の騎手を務めております」
ハイゼ家としての自己紹介といった感じでした。アルベールさんは屈託のない笑みを顔に浮かべられました。
「騎手の名家、ハイゼ家の名は私もよくよく聞き及んでおります。私も騎手を務めておりまして。お会い出来て光栄です」
へー、でした。この方、騎手をやっておられるのですね。確かに言われてみると、そんな感じが。
娘さんはそこまででもないのですが、騎手をやっている人というのは片腕の筋肉がやはり発達しておりまして。釣り槍を持つ関係なのでしょうね。クライゼさんもそうであり、アルベールさんもかなりそんな感じで。
しかし、騎手。この場には、騎手に関係のある方ばかりですので。娘さんを始めとして、皆さん「へぇ」と興味深そうな顔をされていました。
俺もまた、その中の一体でした。騎竜として、この方の実力はどんなもんなのかなぁとか思っている次第であります。クライゼさんも「ふぅむ」などと口にされて、何事か口にされたそうでしたが……まずは挨拶ということらしく。
「ははは。騎手の名家とはありがたいことで。しかし、騎手の名家と言えば、やはりこちらですかな。騎手の古豪として、アルヴィル王国に名を轟かせた家柄でして」
ハイゼさんが親父さんへと、目配せしながらのバトンのパスでした。それを受け取りまして、親父さんは笑みを作って口を開かれます。
「お初にお目にかかります。私はヒース・ラウと申しますが……あー、こちらはアレクシア殿です。当家の者では無く、リャナス一門のお方ですが。縁あって、行動を共にさせて頂いております」
大事なお客人ということもあり、まず自分たちよりも先にということのようでした。親父さんは、アレクシアさんを紹介されまして。
「リャナスの一門の方でしたか。アルベールと申します。よろしくお願いします」
人好きのする笑みでアルベールさんがまず挨拶をされるのでした。それを受けて、アレクシアさんは静かに頭を下げられます。
「……アレクシア・リャナスと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
うーむ。
その様子を眺めながらに俺はなんともなしに思うのでした。どこか冷たさを感じさせる目つきに、そっけない素振り。
一見すると、その様子は人嫌いと称された、アレクシアさんそのままのご様子で、まだまだ人付き合いは苦手なのでしょうかなんて思うのですが……でもなぁ。それとは、ちょっと違うような気も。
娘さんも不思議そうな顔をされていましたが、やっぱりそうですよね。なんか、変な感じですよね。警戒してる? 観察してる? とにかく、ただの無愛想といった感じではないのですが。
ともあれ、挨拶は続いていくようで。
「あらためまして、ヒース・ラウと申します。しかし、騎手殿なのですか。それはまた勝手な親近感を覚えてしまいますような」
親父さんがにこやかにアルベールさんに声をかけられるのでした。礼儀正しければ、騎手である青年が相手ですからね。当然、好意を抱かれたようでした。
アルベールさんもまた、親父さんに好意を抱かれているのかな? 上品な笑みに、年相応の無邪気さがにじんでいるような。
「そう思って頂けると本当に嬉しいです。世代としては遠いですが、私もハイゼ殿の名と共に、ヒース殿の名はよくよく聞き及んでおりまして。まことに光栄であります」
ここでまーた出ましたよ。親父さんの武勇に関するお話です。ただ、今度はハイゼさんのお名前も出ておりまして。
なんでしょうね? 以前は不仲であったはずのお二方ですが。ハルベイユ候旗下の領主として、お二人でブイブイ言わせていた時期でもあったのでしょうか?
一層気になってきましたが、やはり話題の当人は苦笑されるばかりで。そして、この人は何故かニヤニヤと意味深な笑みを浮かべておられましたが。
「はん。武勇に憧れる好青年という体裁か? ま、嘘ではないのだろうがな」
アルベールさんに対してでしょう。妙な言葉も向けられまして。なんか、カミールさんはアルベールさんをからかいたくて仕方がないって感じですけど。
まぁ、その裏事情みたいなのはさっぱりですけどね。ともあれ、アルベールさんは、またも気恥ずかしげな笑みを浮かべられるのでした。
「あー、閣下? その、あまりそういうことは……」
「ふん。俺の知ったことか。ほら、さっさと挨拶をするがいい。最後の一人だぞ? お前のご所望のな」
カミールさんはそうおっしゃいましたが。ふーむ、ご所望とな? 最後の一人と言えば、それは娘さんということになりますが……ご所望なんですか? そう言えば、アルベールさんは最初から、娘さんに妙な視線を送っておられたような気がしますが。
……ふーむ? んん? むむ? むむむむむ?
決して、察しが良いとは言いがたい俺ではありますが。なんとなく、察するところがあるような。
俺には全く縁のないことでしたけどね。ひからびたミミズみたいな十代を送った俺は、そんな感情を抱いたことは一度としてありませんでしたが。
でも、これは? これはそういうことなのでは? ハイゼ家主従はどこかほほえましげな表情をされていて。アレクシアさんはにわかに目つきを鋭くされていて。親父さんは、状況が分からんといった感じで首をかしげられておられますが。
まぁ、親父さんはともかくとしまして。
皆さん、それぞれに何か察せられているような雰囲気がありますし。
これは……いや……まぁ、うん。
気のせいかもしれませんが。だってさ、娘さんには、そんな話はまだ早く……はないか。あってもさ、全然おかしくはないか。年頃ではあるし、めちゃんこカワイイ娘さんなのだから、そんな話があっても全然おかしくはないのだが……
あかん。なんで俺はこんなに動揺しているのか。若干、息苦しくなったりしているのか。
まだ、なーんも分かりませんしね。俺も含めた、全員の勘違いの可能性もありますし。
でも……どうなんだろう。
ハキハキと快活に挨拶を続けておられたアルベールさんのなのですが。いざ娘さんに挨拶する段になって、妙に落ち着きを失われたのでした。
娘さんを直視出来ていないし、日に焼けた頬は微妙に赤らんでる気がするし。俺には、こんな態度を取るような機会は一度としてありませんでしたけど、やはりこれは例の病気にかかった時の症状のような気がしまして。
ただ、親父さんと同じく、娘さんには何も察するところは無いらしく。
「あの……どうされたのですか?」
まごまごとされているアルベールさんに対し、不思議そうに問いかけをされるのでした。アルベールさんはにわかに頬をさらに赤くされるのでした。