第21話:俺と、ギュネイ家の息子さん
とは言え、推薦して頂いたのはそりゃもちろんありがたいことです。娘さんは「ま、私の活躍だったら当然ですよね?」とか言い出す人ではないので。お褒めに預かって、気恥ずかしそうに頭を下げられました。
「その……ありがとうございます。もちろん私一人の力で成し得たことではないのですが、認めて下さり大変嬉しく思います」
ギュネイさんは上品な笑みを優しげに深められるのでした。
「さすがは新進気鋭の一流の騎手殿ですね。その謙虚さがあってこその、類まれなる実力なのでしょう。いや、大変素晴らしい」
引き続きの絶賛でございました。娘さんはますます平身低頭するしかないのですが……しかし、うーむ。良いですねぇ、王都。うむ、実に良いです。
見事に娘さんが絶賛されるばかりで、俺としては嬉しい限りでございます。さすがは王都の住人ということなのでしょうか、娘さんの価値と実力を認めて下さる人ばかりで。本当、良いですよねぇ。居心地が良いばかりです。この分だったら、式典が終わるまで俺は娘さんへの絶賛ばかりを耳にすることになりそうですね? ふへへへへ。
「ま、謙虚さんはあるかもしれんが、多少礼儀は足らんような気はするがな」
と、思った矢先のこれでした。
カミールさんが皮肉な笑みで、そう茶々を入れてきまして。娘さんは呆れた表情でカミールさんを見つめ返すのでした。
「えー、それはですね、閣下。ギュネイ閣下への私の態度を見て下されば、お分かりになられると思うのですが?」
で、けっこう皮肉な返しをされまして。娘さんも、けっこうカミールさんに慣れてこられた感じありますよね、えぇ。
カミールさん「ほぉ?」と面白げに目を見張って、ギュネイさんへと口を開かれます。
「どう思われますかな? まるでこのカミール・リャナスが悪いとでも言いたげな口のきき方。礼儀も無ければ、謙虚さも無いように思われますが」
ここでもギュネイさんは苦笑を浮かべるしかないようで。代わって、娘さんが半目でジトリとカミールさんをにらみつけます。
「なーんでこの方はわざわざ敵を作ろうとされるのか……ここに素晴らしいお手本の方がいらっしゃるというのに」
「なるほど、至言だな。しかしまぁ、笑顔で気取らず、本音を語るヤツがいても良いとは思わんか?」
「開き直られないで下さい。そんなヤツがいてもいい気はしますが、それが閣下である必要は無いかと。ただでさえ、大貴族なんて敵が多そうですのに」
「ふーむ、地方領主の娘風情が味のあることを。どうだ? 側仕えとして当家で雇ってやろうか? ラウ家の収入の五倍は出すぞ?」
「まーた適当なことを……そういう冗談をですね、不快に思われる方もいらっしゃるのですから。まったくこの方は……」
なんか、仲の良いおじさんと姪っ子みたいだとは思いましたが、仲の良い主従みたいな感じもしますね。ともあれ、娘さんはそう思ってはいないでしょうが、相性は間違いなく良いよね、この二人。
「……まるで、父娘のように仲が良いのですね」
ギュネイさんにもそう映っていたようで。笑顔でそうおっしゃったのですが、娘さんはんなバカなと苦笑を浮かべられるのでした。
「いえいえ、そんな仲良くなどは。わずかに去年に二度、三度会ったばかりで。まさか父娘のようにだなんてことは無いかと」
確かに、娘さんとカミールさんは、そんな顔を会わせたことがあるわけでは無く。でも、二、三度顔を会わせただけでこんなやり取りが出来るのですから。仲が良いと言っても、間違いは無いような気はしますが。あるいは馬が合うとか。
しかし、この娘さんの言葉に、ギュネイさんは何を思われたのでしょうね?
不思議な目つきをされていました。
わずかに目を細められて、娘さんを見つめておられたのですが、その様子が何とも……観察している? あるいは値踏みしている? そんな不思議な目つきであったように、俺には思えたのですが。
あるいは、それは俺の気のせいだったのかもしれません。
気がつけば、ギュネイさんは今まで通りの柔和な笑顔でした。そして、
「……私には親しくしている息子がおりまして。是非、皆様に紹介させて頂きたいのですが」
そんなことをおっしゃるのでした。
俺はにわかに納得でした。あー、それはそうでしょうね。多分ですけど、息子さんとは隣にいらっしゃる若者のことでしょう。似ているかなと思いましたが、やはりそうなのかな?
で、せっかく隣におられるのに、今まで紹介もされていませんでしたので。ギュネイさんはタイミングをうかがっておられたのでしょうし、それが今ということになるのでしょう。
娘さんが異を唱えるはずもなく。「もちろん」と笑顔で頷かれて、しかしカミールさんに目配せをされるのでした。まぁ、娘さんにということでは無く、皆様とのことでしたので。この場で一番立場が上のカミールさんに確認を取られたのでしょう。
ここで、カミールさんが妙な表情をされるのでした。
忘れていたと言わんばかりに目を見張って、次いでニヤリと歪んだ笑みを浮かべられまして。
「……そうですな、もちろん構いませんとも。そして、すまなかったな。俺から紹介しておくべきだった。まぁ、皆様である必要は無いかもしれんが」
で、意味深な発言をされまして。
どうやらカミールさんと、このお若いお貴族様はお知り合いのようなので。紹介しておくべきだったというのは、配慮が足らなくてすまんなってことで納得出来るのですが。
しかし、皆様である必要は無いって、なんぞ? 情報が足らないので察するのは難しいですが、どうにも気になる発言ですね、これは。
そして、カミールさんから妙な発言を受けたギュネイさんの息子さんです。気恥ずかしそうにほほをかかれまして。すっと、キレイに頭を下げられました。
「お初にお目にかかります。アルフォンソ・ギュネイが四男、アルベール・ギュネイと申します。どうぞお見知りおきを」
アルベール・ギュネイ。
それが、この大貴族の若様のお名前のようで。
しかし、ふーむ。本当、魅力たっぷりって感じのお方ですねぇ。
お父さん譲りの上品さ端正さと、若々しい精悍さが絶妙に混在していると言いますか。
所作は本当にお綺麗で。頭を下げる様子もそうであれば、言葉遣いもまさに貴族の子弟といった感じでした。
ただ、上品さばかりというのでは決してなく。日に焼けた顔つきには若々しさに満ちていて、身振りにもまた体を動かし慣れている人特有のキレの良さがあるようで。
あとなぁ、笑顔ですよね。
上品さと精悍さに上乗せして、これがまた魅力的で。その笑みには、どこか茶目っ気が見て取れるといいますか。かわいい系とでも言ったら良いのかな? どこかいたずらっぽいところが垣間見えまして、それが何とも魅力的に映るのでした。
まぁ、総じてです。
未来ある、魅力的な若者。ギュネイさんのご子息は、そうとしか表現出来ない方でありました。