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第20話:俺と、王都の大貴族

 一同はそろって声の方へと顔を向けるのでしたが、俺も当然そうでして。今までに一度として聞いたことのない声音でしたが……なんて思って声の主を目の当たりにして、俺は思わず『おー』と呟いてしまいました。


 貴族だ。貴族がおる。


 まさに俺が思い描く貴族そのままの人がそこにはいるのでした。彫りの深い顔をして、上品な微笑をたたえた壮年の男性でした。鼻の下のいかりヒゲが、貫禄があるのと同時になんともキュートで。これは貴族やな、うん。俺的には百点満点の貴族ぶりでした。


 そんなお貴族様の隣には、娘さんと同じぐらいの年頃と見える、若々しく肌を日に焼いた青年一歩手前みたいな若者が立っておられました。


 お貴族様の息子さんなのかな? 精悍ながらに、お貴族様と似たような気品が見てとれて。うわぁ、貴族だ。多分、貴族の親子だ。これまた俺のイメージ通りで、ちょっとばかり不思議な満足感がありましたが。


 まぁ、俺のくっそどうでもいい貴族へのこだわりはともかくとして。


 ラウ家とハイゼ家に用事があるような感じでしたが、一体どんな素性の方々なのですかね?


「おぉ、ギュネイ殿か。なるほど。早速、挨拶にということですかな?」


 カミールさんはそう声をかけられましたが、ふむ? なるほどって言葉の意味は分かりませんが、ギュネイ殿。どっかで聞いたような、そうでもないような。えーと? 先の戦だっけ? 参加している諸侯の中に、そんな名前があったような気も。


 ギュネイさんは、上品な微笑をわずかばかりに深められるのでした。


「えぇ、挨拶にうかがったのです。ラウ家の方々は初めてでしたな? お初にお目にかかります。アルフォンソ・ギュネイと申します。以後、お見知りおきを」


 その口ぶりは、とにかく落ち着いていてダンディーで。


 ぬおー、貴族だこれ。マジな貴族の方だ。


 カミールさんがそうでは無いというわけでは無いのですが。雰囲気がね。ぶっちゃけ違うよね。初めてだよなぁ。貴族らしい貴族さんと、こう間近で接するのは。


 俺は妙な感動を味わいつつ、ギュネイさんの貴族スマイルを眺めるのでしたが。


 お貴族様……いや、ギュネイさんか。その至極丁寧な挨拶を受けて、まず反応されたのは親父さんでした。


「これはあの、ご丁寧に。私はヒース・ラウと申しますが……ギュネイ様とは、カミール閣下と並び称される、あのギュネイ様でよろしいのでしょうか?」


 親父さんは恐縮されながらに尋ねかけられましたが……ほぉ? そうなのですかね? このお貴族様は、軍神と肩を並べるほどに有名な御仁なので? ぶっちゃけ上品すぎて、そんな感じはまったく受けないのですが。


 しかし、それは事実なのかな? カミールさんが笑いながらに口をはさんで来られまして。


「ははは。その通りですな。そこの大貴族は緻密な用兵ぶりで名を轟かせる、くだんのアルフォンソ・ギュネイ殿で間違いないかと」


 とのことでした。


 カミールさんが皮肉でも無くそうおっしゃられるのならね。それはもう間違いないと言って差し支えは無いでしょう。正直意外な感じはしますけど、人は見た目によらないということでしょうかね。


 ギュネイさんは柔和に嬉しそうな笑みを浮かべられます。


「ご存知頂けていたようで嬉しく思います。かのヒース・ラウ殿に名を知られていたのは、光栄の極みで」


 そして、ここでも親父さんの勇名のようなものが取りざたされまして。本格的に気になってきましたね。親父さん、以前にどうにも大活躍されていたようですが。


 ただ、俺が直接聞くわけにはいかないので。この件を知るには娘さんかアレクシアさんにお願いする必要があるでしょうが、それはともかく。


 今注目すべきは、親父さんとギュネイさんとのやりとりかな? 親父さんは居心地悪そうに苦笑を浮かべられました。


「こちらこそ、光栄の極みでございます。ハイゼ家の方々、それにアレクシア殿とはお会いされたことが?」


 自らのことはさておいての、そんな親父さんの尋ねかけでした。確かに、雰囲気的にはハイゼ家の方々とは顔見知りといった感じでしたが。


 ギュネイさんはにこやかに頷きを見せられまして。


「えぇ。カミール殿とは日頃から懇意にさせて頂いておりましてな。その関係で、幾度か顔を合わさせて頂きまして。アレクシア様とも、リャナス家の夜会の場で一度ほど」


 そういうことのようで。カミールさん関連のつながりであるみたいでした。


「左様でしたか。しかし、カミール閣下とご懇意とは。やはり名うての戦巧者同士。通じ合うものがあるのでしょうなぁ」


 親父さんが感嘆の響きでそんなことをおっしゃいましたが。確かにですねぇ。英雄、英雄を知ると言いますが。すごい人ってのは、すごい人同士で仲良くなるものなんですかね。


「はっはっは! それはどうかは分かりませんが。大貴族の世界は狭いですからな。ある種のお隣さんとして、仲良くせざるを得ないだけかもしれませんな」


 ただ、カミールさんが皮肉に笑い飛ばされるのでした。うーん、まったくこの人は。これを皮肉で返せる人であれば、コミュケーションとして成立するんだろうけどね。でも、ギュネイさんは本当お上品でそのようなタイプの人では無いようで。


「……ふふ。軍神殿にはまったく敵いませんな」


 困ったように笑みを浮かべられるだけでした。うわぁ、なんかかわいそう。これだからこの人は、敵を作っちゃうんだろうねぇ、まったく。


 でもまぁ、本当カミールさんはそれだけではない人でして。


「しかし、サーリャ。お前はこの方に感謝しておいた方がいいぞ」


 よく気がきく人でして。ギュネイさんの功績を娘さんに伝えようとされているのでしたが、ふむ? ギュネイさん、娘さんのために何かして下さったんですかね? さっぱり検討はつきませんが。


「は、はい? それはどういうことでしょうか?」


 静かに会話を耳にされていた娘さんが、慌てて声を上げられます。カミールさんはこれまた皮肉げに口を開くのでした。


「なんのつもりかは知らんがな。俺がお前を式典に出席する騎手として推薦した時に、ギュネイ殿もまたお前を推薦されたのだ。お前に感謝する気持ちがあれば、礼は言っておくべきだろうさ」


 ほう? そんなありがたいことをこの上品なお貴族様はして下さったので。先ほど、カミールさんはなるほどとおっしゃっていましたが、なんとなくその意味が分かってきたような。


 推薦した当人として、推薦した相手の顔を見に来ることは当然だろう。なるほどでしか無い。そんな感じですかね? ともあれ、会いに来て下さって感謝ですよねぇ。


 娘さんは当然、推薦して下さった方にはお礼を言いたいでしょうし。親父さんもそうに違いなく、これが良い機会になることでしょう。俺もまたお礼を伝えたいところでしたが、それはまぁ、残念ですが娘さんたちに託させて頂くとしまして。


 しかしです。


 何で? って、それは正直に思いますよね。


 どこかで名前はお聞きしたような気はしますが、ラウ家との関係は皆無のはずですし。一体何を思って、そんなすばらしいことをして下さったのか。


 ともあれ、推薦して頂いた事実にゆるぎはなく。娘さんも戸惑っておられるようでしたが、すぐさま頭を下げられるのでした。


「そ、それは、心から御礼申し上げます。推薦して頂き、まことにありがとうございました」


 親父さんも慌てて頭を下げられて、俺もついしそうになって、それはこらえて。

 

 ギュネイさんは、ことさら上品なほほえみを見せられるのでした。


「いえ、礼にはお呼びません。サーリャ殿は、ハーゲンビルでの戦を覚えておられますかな?」


「え? あ、はい。もちろん覚えておりますが……」


 そりゃそうでしょうね。娘さんにとっては記念すべき初陣であって、それ以上に色々あった戦ですし。


 ただ、ハーゲンビルでの戦が、ギュネイさんが娘さんを推薦したことと何の関係があるのか。


 首をかしげられる娘さんに、ギュネイさんはほほえみを深められるのでした。


「私も同じ戦場にいたのですよ。カミール殿と共に、軍勢を率いて戦場におりまた」


 へぇ、そうなのですかって、ん? あ、ちょっと記憶の扉が開いてきたかも。


 どこかでギュネイさんの名前は聞いたような気はしていましたが。それはどうにも、やはり先の戦で耳にしたものであるようで。


「あ、ああっ! お、思い出しました! ギュネイ殿ですね? 伝え手として、空から拝見させて頂いたことがございました!」


 娘さんの言葉で、俺も完全に思い出しました。


 ギュネイ候。そう言えば、そんな方もいらっしゃいましたね。カミール閣下が率いる、四人の諸侯、その一角として戦場におられたような。娘さんが、ギュネイ候への伝令を頼まれたこともあったような、なかったような。


 ともあれ、この事実を思いますと、娘さんが推薦されたことも納得出来るかもしれませんね。


 ギュネイさんは嬉しそうに目を細められました。


「覚えて頂けていたようで。当然、私は貴女の活躍も目にさせて頂きまして。推薦せずにはいられなかったのです。貴女はアルヴィル王国に勝利をもたらし……何より、カミール殿の命を救って下さったのですから」


 これが、ギュネイさんの推薦の理由のようで。当然って言ったらちょっとおかしいけどね。あらためて娘さんの活躍を耳にしますと、娘さんが式典に呼ばれたのはそりゃそうだろって、納得しか出来ませんよね、はい。


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