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第15話:俺と、リャナスのお屋敷

 カミールさんのお屋敷は、そのまま南に進んだところにありました。


「……なにこれ?」


 で、俺たちの姿はその門の前にあるのですが。娘さんが唖然として、そんなことをおっしゃるのでした。


 本当、なにこれですよね、これ。


 お屋敷という話でしたが、お城の門って感じなのですが。一抱えどころでは無い巨石で組み上げられた、アーチ状の巨門がそこにはありまして。


 これ、世界遺産番組か、ファンタジー映画で見るヤツですよね? 門自体は木製なのですが、これまた人の背丈の二倍以上はありご立派で。厚みもありそうで丈夫そうだけど、ただ丈夫に作られているってだけじゃ無いよなぁ。強度のためのものか、鉄の(びょう)? 釘? そんなものが打ち付けられているのですが、よく見ると、そこにはドラゴンの顔が掘られていたりしまして。細部まで格式の高さを感じさせてくれるのでした。


 うーむ。どれだけ裕福であれば、こんな門構えが出来るのか。少なくとも、俺の前世の生活レベルを比較材料にするのは失笑しか起きないレベルだろう。世界レベルのご長者様が、かなりジャブジャブ現ナマを注ぎ込まないと、こんなのは作れないだろうし、維持も出来ないような。


「……ハルベイユ候領にはこんなの無かったなぁ」


 娘さんはそう呟かれましたが、まぁ、ですよねぇ。もはや文化レベルが違う感じすらします。こんなものがねぇ、この世界にはあるんですねぇ、うーむ。


「これはまた……屋敷はいかばかりかですな」


 親父さんも、目を見張ってただただ驚きを露わにされるのでした。俺もまたドラゴンながらに目を見張ることしか出来ていませんが、本当驚きしかないですよね、これは。娘さんもまた、変わらず唖然として巨門を眺めておられるのでした。


 そんな俺を含めたラウ家の一同に、マルバスさんは柔らかな笑みを向けて来られます。


「では、こちらへ。茶会は、庭園の方で開かれております」


 お庭の方へ、ご案内ということで。マルバスさんは従者の方々に扉をギギギと開かせまして。で、マルバスさんの先導の下、俺たちは門をくぐって先を進むのですが……ぐわー、やべぇな、これ。


 外からは、石造りの塀が邪魔をして、まったく様子をうかがうことが出来なかったので。


 これが正真正銘初めてとなります。初めて、リャナス家の屋敷と、敷地、それらを目にすることになったのですが……なに、これ? 映画のセットか何か?


 まず目に飛び込んできたのは、白亜の巨大なお屋敷でした。


 白漆喰が目にまぶしい、おそらくはレンガと巨石で建てられたお屋敷です。もう本当にヨーロピアン。石の文明における最高峰の建築って感じ。優雅で力強く、そしてなんとも言えず美しく。カミールさんねぇ。マジで大貴族だったんですね。これを見ると、如実に実感出来ますねぇ、うーむ。


 で、その屋敷を囲むようにでした。この広大といって、うんたらドーム何個分って表現出来そうな場所が、マルバスさんのおっしゃる庭園なのでしょうね。


 なんかこう、あおーいって感じでした。


 キレイに刈り込まれた芝生がもう一面に広がっていて。放牧地の青さとはまるで違うよね。野生の匂いはまるでなく、人の手による美しさがそこにあって。


 もちろん、そこには芝生の青ばかりがあるわけではなく。手入れのされた樹木が整然と並び、ドラゴンをかたどった彫像などもあり、敷かれた石畳の道は人工的な精緻な美しさを見せていて。


「……お父さん」


 口を半開きで驚きを露わにしていた娘さんが、にわかに親父さんの名前を呼ばれます。親父さんもまた、若干夢心地のようで。唖然としながらに返事をされるのでした


「……なんだ、どうした?」


「これ……私たちが入っても大丈夫なやつかな?」


「……大丈夫じゃない気は正直するな」


 いやあの、招待されているのですから、そりゃ大丈夫だとは思いますが……正直、気持ちは分かるよなぁ。


 本当に、別世界って感じだし。上流階級が呼吸出来る世界って感じだし。俺もなんかこう、美しいとは思う一方で、めちゃくちゃ気圧されていると言うか、居心地の悪さを感じていると言うか。


「わっはっは! 田舎者は辛いものですなぁ!」


 ハイゼさんはそう笑い声を上げられましたが、まさにそんな感じでして。生活水準が違うから、どうしても圧倒されちゃうよなぁ。うーむ、本当すごい。いっそ、怖い感じもするような。


「茶会の方は、中庭の庭園の方で開かれております。それでは、こちらへどうぞ」


 あるいは、こんな客人の反応には慣れっこなのかもね。マルバスさんは、呆然とする娘さん父娘に、慣れた笑みでそうおっしゃるのでした。娘さんと親父さんは、慌てて頷きを返されます。


「は、はい。分かりました。しかし、中庭ですか。また庭があるので」


「うーむ。また、素晴らしいお庭なのでしょうな。大貴族とはまったく恐ろしい」


 そんなことをそれぞれ口にされながら、とにかくと言った感じでマルバスさんの後ろに続かれるのでした。


 俺もまた、娘さんに続くのですが……な、なんか歩きづらいなぁ。この石畳、馬車が通れるぐらいの広さはあるんだけど、ラナとアルバと進むと、どうしてもこう、はみだしてしまうと言うか……芝生、踏みたくないなぁ。怒られたりしない? ドラゴンが足で踏み荒らして、怒られたりしない? こうなると、本当そーっと歩くしかないような気がしますが、


『よく分からないけど、さっさと行け』


 ラナに叱られてしまいましたので。諦めて、芝生に足を踏み入れつつ進んでいくことにしました。こういう時はね、コイツらがうらやましいよね。人が丹精を込めて手入れしたとか、そんなことまったく気にしてないだろうし。アルバなんて全然、石畳の上を歩いてないし。もうちょっと気をつけた方が良い気はしますが、まぁ人間の感性を押し付けるのもムリでしょうし。叱られないことを祈るだけに留めておきました。


 ともかく俺たち一同は、屋敷の方へとまっすぐ進んでいくのでした。


 慣れていらっしゃるのか、ハイゼさんとクライゼさんは平然として。アレクシアさんは言うに及ばずで、娘さん父娘の様子をほほえましげに眺められながらに。で、当の父娘は、おっかなびっくりの権化みたいな態度で歩みを進められまして。


 巨大な屋敷を横切ることになりました。


 そして、くだんの中庭が見えてくることになったのですが……ぬおー。これまたね、別世界だね、これは。


 春の色彩に満ちた、華麗な庭園。ってことも、もちろん別世界要素ではあるのですが。人の背丈ほどの生け垣がいくつも並べられていて、そこでバラっぽい花が咲き乱れているのがなんとも美しいってことはあるのですが。


 それよりもですね。問題はそこにおられる人たちですよね。


 その庭園には、庭園に負けないほどに着飾った紳士淑女の姿が無数にありまして。


 茶会とマルバスさんはおっしゃっていましたが。なるほど、茶会で。貴族の茶会。これはお茶の香りなのかな? 濃厚なバラっぽい香りが漂う中で、それぞれが磁器っぽい薄いカップを手にされていまして。そして、柔和な笑みを浮かべながらに、お茶など会話などを楽しんでおられるようでしたが……本当、別世界だなぁって、ここは貴族の世界なんだなって、そう強く思わされるのですよねぇ、はい。


 娘さんもね、何かしら強烈なインパクトを受けられたようで。


 貴族の群衆を前にして、娘さんは思わずといった様子で足を止められてまして。で、我々一同もそろって足を止めることになりまして。俺たちの視線を受けながらにでした。娘さんは驚きの表情で口を開かれました。


「……こ、これが茶会ですか……貴族の、いや本物の。これがへぇ、茶会なので……」


 で、なんかよく分からないことを呟かれたのでした。ふーむ?

 

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