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第11話:俺と、王都への道(2)

 本当にそうなのでした。


 そもそもですが、娘さんたちはハルベイユ候の旗下の領主であり騎手ということで。

 

 娘さんたちを招待するということで、その辺りの事情を踏まえた根回しを行って頂いたようなのでした。もちろん、ハルベイユ候にも話を通して頂いていたようでして。


 そして道中のこともです。多くのドラゴンを連れての旅路ということで。普通なら、寝床はもちろん、食料に確保にも苦労するところなのでしたが。


 その点についても、カミール閣下が手を回して下さっていまして。道中の諸領主にあらかじめ声をかけて頂いていたようで、娘さんたちは俺たちドラゴンの扱いにまったく苦労することはなく。


 で、王都での滞在についても、一切合切面倒を見て頂けるようで。


 本当、最大級のホスピタリティを持って、カミールさんは俺たちを招待して頂いて下さっているようなのでした。クライゼさんとしては、文句の一つや二つは言ってやりたいでしょうが。これで文句を言われちゃうのは、ちょっと気の毒のような気がしますね。


「……まぁ、あの方に悪意は無いだろうしな」


 仕方がないといった感じでした。


 クライゼさんはため息をつきながらに歩を進められるのでした。


 まぁ、とにもかくにもです。


 カミールさんのおかげで、ここまでは快適な旅行を楽しめているのでした。


 クライゼさんはともかくとして、他の方々は終始笑顔で、ドラゴンたちものほほんとして旅を続けられて。


 俺もまた、大満足でした。快適なのはもちろんすばらしいですし、そもそも招待して下さって頂いたことが嬉しくて。


 娘さんと一緒に旅行出来ましてね。


 ここまで一緒にいられるのは久しぶりなのでした。いやまぁ、黒竜の事件ぶりなので、そこまで時間が空いたわけでは無いのですが。それでも、俺にとっては久しぶりに感じる嬉しい時間でして。もうね、感謝です。カミールさんには本当感謝の思いしかないのでした。


 もしかしたら、こう一緒にいられるのは最後かもしれませんしねー。カミールさん、マジ感謝です。本当、抱きついて感謝の一つも示したいところでしたが、間違いなく護衛の人に殺されるよな、うん。ドラゴンのなます斬りにはなりたくないので、感謝を伝えるのにはなにか別の方法を考えるとしまして。


 とにかくでした。この幸せな時間を、俺は目一杯楽しむ所存でした。楽しいなー、そして楽しみだなー。きっと、こんな楽しい時間が続く……はず。今までのことを思うと、そう楽観は出来ないのですが、今はそう思っておくことにしました。楽しむぞー。マジで楽しむからねー、ぬあー。


 しかし、今日もけっこう歩きましたけど。


 日はすでにそこそこ高いところにありまして。日が登る前に出発しまして、今日の午後にはつくだろうみたいな話があったのですが。そろそろなんでしょうかね? ドラゴンの健脚にも、やや疲れが出てきていまして。そろそろであって欲しいところでしたが。


「しかし、本当に麦畑ばかりですが。そろそろなんでしょうか?」


 娘さんが首をかしげられました。


 俺と同じ思いと言いますか、どこまでも続く麦畑に、これがはたして終わる時が来るのかと疑念を抱かれたようで。


「そろそろですよ。そろそろ見えてくるはずです」


 ここで答えられたのはアレクシアさんでした。娘さんは、軽く首をかしげられます。


「見えてくるはず? 何がですか?」


 娘さんは思わず道の先に目をこらされたようですが、俺もまた首を伸ばすのでした。


 見えてくる。


 王都ですからねぇ。お城かな? それとも、城壁とか? 俺のファンタジー知識は、そんな予想をサジェストしてくるのですが。


 目をこらしながら、一人と一体をして歩みを進める。その中ででした。


「ほら、見えてきました」


 アレクシアさんが笑顔で前方を指差します。そこには……何かな? 塔? レンガ造りっぽい、ここからは鉛筆のように細っこく見える塔が見えてきましたが。城壁の一部だったりするのでしょうかね? 


「王都の尖塔です。見張り塔であり、騎竜対策のものですね。いよいよ王都に入るということになります」


 アレクシアさんの説明に、娘さんはそれはもう分かりやすく目を輝かせるのでした。


「おぉっ! 王都! いよいよですか!」


 歩幅もまた分かりやすく広くなりまして。王都の地を踏むのが待ちきれないといった感じでした。


 俺もねぇ。こんな高揚感は久しぶりかも。娘さんと一緒の時間が過ごせる。そんな喜びばかりでしたが、いざ王都を間近にしますとね。うわぁ、なんかいいなぁ。楽しみだなぁ。旅行の楽しみですよねぇ。いや、俺は旅行なんて一度としてしたことは無いのですが、多分そうなのでしょう。思い描いた目的地を目の当たりにする瞬間。いいですねー、楽しみですねー。


 最初に目に入ってきたのは、農村のような光景でした。


 道ばかりは広くて立派でしたが、それ意外はそれこそ少しばかり裕福な農家の集落のようで。しかし、そこには先ほどに見た見張り塔とやらもありまして。


 どうやら、塔は城壁の一部ではないようで。村の中に場違いにすくっと立っていますが……えーと? ここ、王都なんでしょうか? かなりのところひなびていますが。この世界の王都はこうだと、そういうことで? うわー、まぁ、別にいいんですけどねー。ぶっちゃけ期待はずれの感は否めませんが。


 娘さんもまた、かなり戸惑っておられるようでした。王都を訪れたことの無いとおっしゃっていた親父さんもまた同様のようで。


 ただ、クライゼさんにもハイゼさんにも動揺の色は欠片も無く。


 アレクシアさんも訳知り顔で、ほほえみを浮かべておられました。


「郊外はまぁこんなものです。すぐに王都らしくなってきますよ」


 そして、こんなことをおっしゃりましたが……あぁ、なるほど。そりゃそうですよね。俺の元いた世界の都市だって、端からは端まで発展しているわけじゃないですし。


 電車で都市部にいって、駅からビル街を見上げるようなつもりでいましたけどね。こちらの世界だったら、端から順々に味わうことになるのでしょう。納得です。大分ほっとしました。


 そのまま進んでいくとでした。すぐにアレクシアさんの言葉を実感することになりました。


 分かりやすく発展していっている感じで。農村の景色はすぐに消え、広大な屋敷が目につくようになってきました。


 アレクシアさんいわく、郊外の貴族の保養地みたいなものらしいのですが、その地帯を抜けるとでした。


 いよいよ街らしくなってきました。


 土の道路も、いつしか石畳の敷かれたしっかりとしたものに変わっていまして。


 風景は言わずもがな。幾多もの塔が点在する中に広がるのは、俺の知る中世欧州風の景色と言いますか。白漆喰の塗られた洒落た建築群が、道の両面を埋めるようにして並び立ちます。


 雑踏のざわめきも、相応に増してきまして。さらに人相のバリエーションも増えてきたような。今まですれ違う人は、俺にもなじみのある農民風の方々ばかりだったのですが。

 

 商家の主人と、その妻女なのか。はたまた貴族だったりするのだろうか。顔つきも身なりもあか抜けた人々を見かけるようになり。


 ここが都会だと。きっと王都なんだと、そう思えるようになってきまして。


「……ここが王都なんですねぇ」


 周囲を見回しながらに娘さんは呟き。


 アレクシアさんはニコリとしてそれに応えられるのでした。


「その通りです。ようこそ、王都セヴィラへ」


 ……なるほど。ここが王都で。


 俺は全てに圧倒されながらに、そう胸中で呟くのでした。



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