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第9話:俺と、遠出の予感

……この父娘は、俺が初めて会った時から仲がよろしかったですが。相変わらずですね。本当、心の通じ合った父娘でして。


 ロクな親子関係の築けなかった俺からすれば、本当うらやましくもあり、ほほえましくもありな光景ですねぇ。まぁ、圧倒的にほほえましい感情が先に来るのですが。


 アレクシアさんもそうなのでしょうか。


 この方も、家庭的な不和を経験されてきたようなので。ほほえまれつつも、どこかうらやましげに父娘の様子を眺められるのでした。


「……サーリャさんとヒース様は……本当に仲がよろしいのですね」

 

 うらやましげに声も出されました。


 娘さんは照れくさそうに、ほほをかきながらにアレクシアさんに応じられます。


「え、えーと、まぁ。世間一般ぐらいには仲が良いと思いますが」


「ふふ。さて、それはどうだか知りませんが、とにかく王都の案内はお任せ下さい。このアレクシア・リャナスが、叶う限りの最善を尽くしてみせましょう」


 アレクシアさんが、娘さんたちのためにと最大限の協力を約束してくれたのでした。本当、この父娘の笑顔のためって感じでしょうねぇ。アレクシアさん、マジ性格良いですよね。感謝の思いしか湧いてきません。


 娘さんがそれに喜んだのは当然として、親父さんも笑顔で頭を下げられるのでした。


「それはありがたい。私も、王都の土などは一度として踏んだことはありませんからな。アレクシア殿の助けは非常に心強い」


「おそろく、カミール閣下から案内の者が出るとは思いますが。しかし、人手はいくらあっても良いはずです。さして役には立たないかもしれませんが、尽力させて頂きます」


「いやいや。やはり付き合いのあるアレクシア殿であるからこそ、私とサーリャも安心出来るというものです。よろしくお願いします」


「そう言って下さると、私としても励み甲斐があります。こちらこそ、よろしくお願いします」


 親父さんは、アレクシアさんとも笑みを交わされまして。そしてでして。笑みのままで、大きく腕組みをされます。


「しかし、とにかく式典ですな。サーリャが出席する式典であり……ふーむ、楽しみだ」


 娘さんはこの言葉に苦笑を浮かべるのでした。


「私は不安の方が大きいけど……そうだね、楽しみだね」


 しかし、同意をされて、アレクシアさんが笑顔で応じられます。


「まぁ、気苦労はあるでしょうが、楽しまれたら良いと思います。せっかくの王都なのですから。王国最大の都です。観光なんてことも、なかなか楽しいかもしれません」


「あぁ、観光。そっか、そういうのもいいですよね。カミール閣下の屋敷に泊まって、王都を見て回って……うわ、私かなり楽しみになってきたかもしれません」


 娘さんは満面の笑みを見せられまして。


 当然、アレクシアさんも笑顔で。親父さんは「一番は式典だがな」とやや苦笑していましたが、それでも笑顔で。


 なんか、良いですねぇ。


 竜舎から眺めながらに思いました。なかなかね? 一騎討ちだったり、戦だったり、黒竜だったり。


 皆がそろって笑顔になれるような出来事って、なかなか無かったものですが。


 今回は素直に笑顔で楽しめるような、そんな出来事になりそうですねぇ。良かった、良かった。


 ……まぁ、俺はお留守番みたいですけど。


 そこがちょっとさびしくはありました。この人たちと……娘さんと楽しい時間を共有出来ないのはねぇ。やっぱり、けっこう胸にくるものがあります。


 でも、まぁ仕方ないか。俺はドラゴンですし。


 仕方ない、仕方ない。ここはそういうものと諦めるべきでしょうし、考えようによっては俺に利益があるかもしれませんし。


 多分ですが、娘さんはかなりの期間ラウ家を離れることになるでしょう

 

 数日ということはあり得ないでしょう。少なくとも、一週間は超えて、あるいは一ヶ月ということも。


 これは……チャンスですね?


 娘さんのいない時間を味わうチャンスでした。いずれ来るだろう、娘さんが俺を気にかけることのない時間。それを前借りすることが出来ますので。


 娘さんがいない時間とはどんなものなのか? 


 それを体験出来るのは、今後に非常に役に立つと思うので。その中で、どんな幸せを追求出来るのか? ドラゴンとしてどう楽しく過ごすことが出来るのか? そんなことも、真に迫って考えることが出来ると思いますし。


 どうなりますかねー?


 ちょっと想像もつきませんでした。娘さんがおらず、騎竜としての鍛錬も無く、ただただラナとアルバと過ごす時間。この二体がいれば、きっと寂しくはない……のか? 分からんなぁ。ま、経験すれば分かるでしょう。案外、楽しかったりするかもしれませんし、いや、やっぱりそれは無いような……


 とにもかくにも。


 娘さんたちは王都の式典に出席されるそうです。いやぁ、良かったですね、はい。


 そう俺が内心で祝福していたところでした。


「あ」


 楽しそうに王都での過ごし方について皆で話されていたのですが。娘さんがにわかに妙な声を上げられまして。


 俺にバッと顔を向けられてきました。は、はい? 娘さんは至極真面目な表情をされていますが、えーと? 俺何かしましたっけ? ただ、ほほえましく見つめていただけのはずですが。


「……ノーラはどうなんだろう?」


 俺を見つめられての、そんな呟きでしたが。どうなんだろうって、はい? 俺が戸惑っている中、娘さんはアレクシアさんに目線を移すのでした。


「アレクシアさん。ノーラは……えーと、当家のドラゴンはどうなんでしょうか? 式典には参加出来るのですか?」


 アレクシアさんは不意の疑問に首をかしげられるのでした。


「え? さて……どうでしょう? その辺りの事情は私はさっぱりですが……ドラゴンたちですか。サーリャさんはドラゴンたちを、ノーラを式典に参加させたいと?」


「そりゃそうですよ。ドラゴンあっての騎手なんです。それにノーラですよ。ノーラがいなかったら、私はそもそも今騎手としてあることは出来ていないんです。私ばかりが名誉に預かるなんて、そんなバカな話はありません。この子たちも参加するべきだと私は思います」


 さてはて。


 娘さんは俺たちにも式典に参加して欲しいと思っておられるようですが。


 とにもかくにもです。俺が感動を覚えたのは言うまでも無い話でした。


 あかん。この子、神や。本当、俺たちのことを大切に思ってくれているんですねぇ。感動しかありません。名誉に預かるなら、俺たちも一緒とそう思って下さってるんですね。超うれしい。


 ただ、俺の感動は置いておきまして。


 実際どうなんでしょうね? これはチャンスなんて思っていた俺ですが、娘さんと一緒に王都に行けるならば、それは無上の喜びではありますが。


 アレクシアさんは難しい顔をされて、首をかしげられていますが。


「貴女の言うことは分かりましたが……どうなのでしょう? 私はその辺りの事情には詳しくは無く。ヒース様はいかが思われますか? ドラゴンもまた、招かれるものなのでしょうか?」


 疑問がバトンされまして。親父さんもまた困り顔で首を傾げられました。


「いや……どうでしたかな。サーリャの曽祖父であり私の祖父が出席していたとは良く聞いておりましたが。当家のドラゴンが臨席していたかどうかは……書簡にその辺りのことはあるのでは?」


 親父さんがそんな意見を出されまして。


 娘さんは目を鋭くされて、書面に目を落とされるのでした。俺たちに関する文言を探されているのでしょうが……なんか、ドキドキしますね、はい。


「……空の英雄共ももちろん連れて来るといい。王都流のもてなしをしてやろう……あっ!」


 そして、娘さんは俺に笑みを向けられるのでした。


「ノーラっ! 連れて来いって! もてなしをしてやろうって!」


 その笑みは本当に嬉しそうで。


 俺も……ねぇ?


 いずれは縁遠くなるに違いない。そう思っている俺ではありますが。娘さんと出来る限り一緒にいたいと思っているのは間違いないので。


 うーむ、これは嬉しいなぁ。


 どうやら俺は娘さんと一緒に王都に行けるらしく。


 これはねぇ? 心して楽しまないといけませんね、えぇ。


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