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第8話:俺と、王都への誘い

 カミールさんからの書簡に、三者三様の反応を見せられまして。

 

 で、俺は一人もとい一体出遅れた感があります。ちょっと見にくくてですね。全然、書面が判読出来ないのです。


 そんな俺を気遣ってくれたらしく。


 娘さんがちらりと、首をかしげながらに書面を俺に向けてさらしてくれました。おぉ、さすが娘さん。ホントサンキューです。では、どれどれ。


 ……確かにでした。娘さんの言う通りに、招待とありました。これは恩返しというわけではないが、まぁ、気軽に来るといいみたいな文句がそえられていまして。


 アルヴィル王国。


 その開祖初代の生誕を記念した式典が、王都で開催される。その式典に騎手として出席しろと、そういう内容で。


 ……ふーむ?


 正直、ピンと来ませんが。これはすごいことだったりするのかな? どうにも王家関連のイベントっぽいし。権威とかに弱い俺からすればそう思えますが、一体どうなのやら。


 娘さんも、招待自体への感謝は表しつつも、式典についてピンと来ておられないようで。首をかしげる姿からは、そんな困惑が透けて見えました。


「……ありがたい申し出……だとは思うのですが。しかし、王都って、こんな式典をやったりしてるんですねぇ。こんなことを毎年やってたりするんですか?」


 そもそも俺と同じように、そんな式典が催されていたことすら知らないようで。アレクシアさんに、そんなことを尋ねられるのでした。


 アレクシアさんは淡々として頷かれました。


「はい。毎年こんなことをやっているはずです。私も毎年出席はしていますので」


「へぇ。一体どんな式典なのですか?」


「どんなと言われましても……多くの貴族が集まって、アルヴィル王国の開祖の業績を思い起こし、現在の繁栄に感謝する……といったお題目とはなっています」


「なんか、実際は違うみたいに聞こえますけど?」


「まぁ、そんな殊勝な人は多くないので。実際のところは貴族の懇親会みたいなものです。懇親会というにはかなり政治色が強いですが。一門の結束を強めたり、派閥工作を行ったり、婚姻関係の構築に走ったり……などなどですかね」


「あまり楽しい式典には思えませんが、その式典に出席しろと来たわけですか。うーん……」


 娘さんが嫌そうな顔をされましたが、で、ですよね。雰囲気としては、和気あいあいの真逆となりそうな。いや、表面上は笑顔なんでしょうけどね。だからこそ、妙な居心地の悪さがありそうで。


「しかし、カミール閣下は政治工作に熱を上げられる方ではありませんので。それに関係してサーリャさんを招待したとは考えづらく……」


 ただ、アレクシアさんは腕を組みながらに、そんなことをおっしゃいました。


「もしかしたらですが……式典を口実にして、サーリャさんを屋敷などに招待されたいのかもしれません。当然、サーリャさんが泊まられるのは閣下の屋敷となるでしょうし。評価するサーリャさんを歓待したいと、そういうことではないでしょうか?」


 へぇ。そんな可能性も考えられるのですか。だとしたら、娘さんも楽しむことが出来るのかな?


 ほぉ? と、娘さんは興味深そうに目を開かれます。


「カミール閣下の屋敷ですか。それは……ちょっと気になりますね。やはり大きいのですか?」


「それはもう。王都随一の規模と華やかさです。王家の近縁は伊達ではありませんので」


「へぇ。そこにお泊り出来るのですか。それはちょっと……いえ、かなり楽しみかもです」


「なかなか得がたい体験になるでしょうね」


「美味しいご飯が食べられたりも?」


「ふふ、そうですね。まぁ、美味しいものが出るか、変なものが出るかは分かりませんが。美食というものは、なかなか難しいものらしいので」


「へ、変なものは勘弁願いたいですが……そうですか、ちょっと楽しみになってきました」


 政治的な式典と聞いて、少し尻込みされていた娘さんですが。カミールさんのお屋敷に泊まれるかもと知って意欲的になられたようでした。


「あ、ちなみにですけど、アレクシアさんもいらっしゃるのですか? いえ、心細いので、是非一緒にいらっしゃって欲しいのですが」


「もちろんです。私もリャナス一門なので。招待されずとも出席は出来ますし、サーリャさんが出席されるのならです。拒否されても、無理やり出席しますとも」


「あはは、それは頼もしいです。しかし、お父さんはどうなるのでしょうか? お父さんも出席出来るのかどうか、とても気になりますが」


「書簡の先に書いてあるのではないですか? しかし、当主を差し置いて、騎手ばかりが出席ということも無いかと。ドラゴンを預かっているのはヒース様ですし。もちろん出席はあたうかと」


「あぁ、そうですよね。良かった、良かった。ねぇ、お父さん。カミール閣下の屋敷に泊まれるっぽいけど。なんか楽しみだね?」


 そう言って、娘さんは満面の笑みを親父さんに向けまして……首をかしげられました。


 俺もまた、首をひねるのでした。親父さんの表情です。朗らかな表情を浮かべる二人とは対照的と言いますか。眉間に深いシワを刻んで、恐ろしく深刻な表情をされています。え、えーと?


「……サーリャ」


 その呼びかけには、やはり深刻な響きがありまして。娘さんは思わずと言った様子で居住まいを正されるのでした。


「は、はい。あの、どうされました?」


 お父さんではなくラウ家の当主用の態度で娘さんは問いかけられます。親父さんは、表情はそのままに淡々と口を開かれます。


「俺には夢があった。一つは、ラウ家に騎竜の任を取り戻すことだ。父祖が担ってきた生業と、その誇りを取り戻す。それが俺の夢だった」


 この辺りのことは俺も聞き及んでいました。一騎討ちの前後に、耳にしたことがあるような気がしますし。


 しかし親父さんは、このことを口にされた上で、一体何を伝えようとしているのか。


 一番気にしているのは名指しされた娘さんだろうね。首をかしげながらに、親父さんに応えられます。


「それはよくよく承知していますが……あの、当主殿? そのことがどうかされましたか?」


「その夢は叶った。そして、お前は見事にラウ家の誇りを、さらに名誉を取り戻してくれた。お前には、本当に感謝してもしきれない」


「は、はぁ。それはあの、ありがとうございます。ですが、あの?」


「俺には夢があった。二つ目の夢だ。それは当家の騎手が名誉ある活躍をし、そして……王都の式典に呼ばれることだ」


「へ?」


 がしり、とでした。親父さんは娘さんの両肩を勢いよくつかまれました。


「良くやった! サーリャ、良くやったぞ!」


 娘さんは目を白黒させるのでした。


 その反応も納得でした。親父さんは青い瞳をうるまして感動を露わにしておられるのですが、今までの式典とやらの説明を聞いているとですね。そんな出席して嬉しいようなものにはどうしても思えなくて。


「あ、あの、お父さん? そんな喜ぶようなことなの? アレクシアさんは貴族の懇親会っておっしゃってたけど?」


 娘さんが俺と同じような疑問を口にされました。


 それに対して、親父さんは真剣な顔をされて、首を横に振られるのでした。


「サーリャそれは違う。もちろん、貴族の懇親会という側面もあるのだろうが、騎手にとってはな。違うのだ。まったくもって違うのだ」


「え、えーと?」


 そうなんですか? と、娘さんはアレクシアさんに目線でうかがいます。アレクシアさんは、やや首をひねりながらに応えられました。


「そうですね……まぁ、おそらく。アルヴィル王国の式典では、ドラゴンと騎手がつきものでして」


「へぇ、そうなんですか?」


「はい。建国神話からしてですが、王国とドラゴンの関係は深くてですね。どのような式典でも、王の隣にはドラゴンが座り、その隣には騎手が座ると、そのような慣例になっていますが……ふーむ。今にして思えばですが、あの騎手の方々は戦場で功を上げた方達だったのでしょうか? てっきり、どこぞの大貴族の子弟が役を担っていると思っていたのですが」


 ほぉ、でした。


 この国にとって、ドラゴンは戦力としてだけではない価値があるようで。で、騎手の方々もかなり重要視されているみたいで。


 で、式典でも、騎手の方はかなりの扱いを受けるようで、そこに娘さんは招待されていて……ふーむ? カミールさんは気軽に来いなんて書いていましたが。これ、けっこう大事では?


「……え? なんか大変そうな予感がするんですけど?」


 美味しいものが食べられるのかって、そのぐらいの気分でいた娘さんである。思わぬ大役の予感に、顔を曇らせるのでした。


 一方で、親父さんはの表情は心底嬉しそうな笑みとなりましたが。


「大変ではないぞ、サーリャ。名誉なのだ。お前の曽祖父もな、戦場でラウ家の騎手の勇猛ぶりを示し、式典に列する名誉に浴することになったが……ははは。お前はその若さでな。誇らしいといったらないな」


 言葉通り、誇らしげで嬉しげで。そんな親父さんの暖かい視線にさらされてでした。娘さんはゆっくりとですが、こちらも笑みとなるのでした。


「大変そうな予感はするけど……まぁ、お父さんが喜んでくれてるんだしね。うん、私も嬉しいよ。名誉だね、ラウ家の!」


「そうだ! ラウ家の、そして何よりもお前の名誉だ!」


 そうして、お互いに笑みを交わされるのでした。


 

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