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第4話:俺と、ドラゴン相談会(春季)

 まぁ、ともかくでした。


『とにかく、ありがとう。おかげで助かったよ。ついでだしさ、一緒に遊ぶ?』


 お礼にということでした。心配してくれたことも、疑問に答えてくれたことも。本当に嬉しかったので、たまには自分から付き合ってみせるのもいいかなって。


 どうやら、ラナも喜んでくれたみたいでした。

 

 え? と、口にしながらに尻尾をぶんぶんと振られまして。さて、では遊び……もとい戦いの時間と参りましょうか。なんて、俺は思ったのでしたが。


『……んー、今はいいわよ』


 尻尾はじわりと地面に落ちまして。どこか名残惜しそうにですが、ラナの口から出たのは否定の言葉でした。


『え、遊ばないの?』


 俺は驚きを口に出します。ラナは『まぁ』と肯定してきました。


『アンタ、本調子って感じじゃないし。何か、考えたいっぽい感じもあるから。また、今度でいいわよ』


 ……お、おぉ。配慮してくれているって感じですよね。ラナらしくは無いようで、しかし最近はこんな感じを度々見せてきていまして。


 ラナも、本当に成長しているみたいですね。だんだんと大人の女性っぽさがにじみ出てくるようになってきたような。


 そんなラナさんは、俺から不意に目線を外されるのでした。


『アルバがヒマそうだしさ。アイツに遊んでもらうわよ。アルバ! 起きてんでしょ! 遊ぶわよ!』


 で、鋭く呼びかけを行うのでした。


 くだんのアルバは、ヒマそうにとぐろを巻いていたのでしたが。確かに眠そうでしたが、寝てはいないようで。あくびを噛み殺しながらに、ラナに答えます。


『あぁー、うん。遊びか。却下だ。一人で遊んでろ』


 すげない返答でした。それはまぁね。アルバは本当一度として、ラナと望んで遊んだことは無いわけで。いや、一回あったけど、あれは思い悩む俺をおもんばかったものでしたが。


 ともあれ、その回答はラナを怒らせるのには十分なものらしく。


『なんでさっ! 寝てないんだったら遊びなさいよっ! アンタも楽しいでしょうがっ!』


 やっぱり、あまり成長していなかったのかもしれません。なかなかに無茶苦茶な物言いで、アルバも呆れ調子でした。


『んなわけあるか。俺がいつ楽しんだ? そんなこと一度として無いぞ』


『もう、いいじゃないのよ! とにかく遊んでよ! 私ヒマなんだからさっ!』


『だから、一人で遊んでろっての。俺はな、忙しいんだよ』


『どこがよっ!』


『ノーラが悩んでるだろ? 俺だってな、相談に乗ってやりたいんだよ。お前なら分かるだろ?』


 あ、コイツ、俺をダシにしてきやがった。


 昔から賢いアルバでしたが、当然それは今も変わらずのようで。


 ラナさんはけっこう俺のことを心配してくれているようなので。だからこそ、アルバの適当な発言を鼻で笑うことは出来なかったらしく。


『だったらいいわよ! 一人で遊んでるからさ! ふん!』


 そうして、草原を駆け回り始めました。最近出始めた小ぶりなちょうちょを相手にしているようで。荒っぽく、遊びを続けられます。


 ちょうちょさん、かわいそう。まぁ、爪や牙にかかるようなことはないのですが。ただ、ラナの風圧で大いに翻弄されていて。


 や、やっぱり俺が相手にした方がいいですかね? 相談へのお礼にもなるはずですし、ちょっと向かうとしましょうか。


 そう思った矢先でした。


『じゃあ、相談とするか』


 アルバでした。のそりと立ち上がりましてノシノシと。俺の元に歩いてきたのでした。


 で、ドスリである。


 犬座りする俺の隣に、ぐるりととぐろを巻かれました。


『……えーと、アルバ?』


 なんのつもりでしょうか? そう思っての問いかけでしたが、アルバは目だけで俺の顔を見つめてきました。


『いや、相談だが? お前は悩んでるんだろ?』


『まぁ、そうだけど……』


『お前を心配しているのがラナばかりだと思うなよ。俺だってな、お前のことはそれなりに気にかけているんだからな』


 そして、そんなことを言ってくれたけど……なんかなぁ。間違いなく、今の俺が幸せなのは間違いないのでした。感動があって、ちょっと言葉に詰まっちゃうよなぁ。


『お前、妙なことを言っていたな。ドラゴンとしての幸せだとかなんとか』


 感極まっている俺に、アルバはこんなことを言ってくれたのですが。俺は慌てて、感動をひとまず飲み込んで返事をします。


『あぁ、うん。そんなことを言ったけど』


『正直、ドラゴンとしての幸せなんて、俺にはさっぱり分からんが。だが、お前は今までにこんなことを口にしたことは無かったよな? 何か最近あったのか?』


 淡々としてだが、そこには確かに思いやりのようなものがありまして。こんなの素直に答える以外にないよなぁ。


『……まぁね。アレクシアさんっていう人が、ここにいらっしゃってさ。ほら、あの黒い髪をした人』


『ふむ。あの何となく黒っぽいやつだな?』


『あー、多分そう。で、娘さんが、竜舎とかにあまり来られなくなって』


『あの、元うるさいヤツだな。静かでけっこうだが、それがお前が悩んでいる理由か?』


 その通りで。


 俺は一つ頷いて見せました。


『なんかさぁ……気づいちゃったんだよね』


『気づいた? 何を?』


『娘さんの人生と、俺の人生は違うって話』


 正確には娘さんの人生と、俺の竜生ではありますが、細かいことはどうでもいっか。


 この俺の話に、アルバは何を思ったのか? 『ふーむ』と長くうなり声を上げられました。


『……正直、お前が何を言いたいのか。さっぱり察しがつかないし、ここから先の話も理解出来るとは思えんが。気が楽になるのだったら聞かせてくれ』


 非常にありがたい申し出でした。正直モヤモヤしたところはあったし、それを吐き出してみたい気持ちもあったし


 アルバには本当さっぱりだろうし申し訳ないけど。ここは甘えさせてもらうとしましょうか。


『何となく思ってたんだよね。娘さんとは本当ずっと一緒にいたから。修行時代を除いたらだけど、辛い時も楽しい時も一緒にいて。だから、この先も娘さんと一緒に、感情を共にしながら過ごしていけるって、俺はそう思ってたみたいなんだけど』


『それが違ったということか?』


『アレクシアさんがいらっしゃってねぇ。本当、違ってたみたいだった』


 アレクシアさんをきっかけとしてね。ラウ家の外での交流が広がっていって。娘さんは、忙しくも充実した日々を手にされていって。


『きっとね、時間が経てば、娘さんはもっと俺の所には来なくなると思うんだ』


 そんな予感があるのでした。


 人間関係が充実すれば、当然そこに時間を割くことになられるでしょうし。


 それにこれからね?


 娘さんに好きな人なんて出来れば、もちろん俺の優先順位なんて下になるでしょうし。


 さらに結婚されたら? さらに子供なんて出来たら?


 俺なんてねぇ。そりゃあね?


「……あー」


 にわかに上がった声らしき音に、アルバはぴくりと身じろぎしました。


『なんだ? 今の音はお前か?』


『うん。ごめん、驚かせて。全然、気にしないでいいから』


 本当、気にしないでくれるとありがたかったです。何となく、やってみただけなので。


 アレクシアさんに言われたことをでした。人間の言葉が使えるんじゃないかと言われたので実践してみたのです。うん。けっこう簡単ですね、これ。震えを加えるようなイメージで、簡単に声っぽい音にはなりました。少し練習すれば、言葉を操ることもけっこう出来そうな予感が。


 ……でも、これが限界だよなぁ。


 俺はやはりドラゴンでしかない。言葉を理解し、言葉を操れるかもしれませんが……本当、それだけの存在ですので。


 決して人間の役割は出来ない。娘さんと共に人生を歩んでいけるわけも無い。きっと俺は……その内にね。娘さんにとってただの騎竜になる日がきっとやってくる。


『……まぁ、うん。とにかくさ、娘さんは俺のいないところで、娘さんの人生を歩まれていくことだろうし。俺は、俺の人生を歩んでいくんだろうなって思ったわけ』


 それがきっと自然な形であるだろうしね。


 それがきっと娘さんにとって幸せな形であることだろうし。



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