表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/366

俺と、ドラゴン冬の陣(終)

 ラナの顔には苦情の表情が。


 サーバスさんの顔には余裕を感じさせる笑みに似た何かが。


 俺にはさっぱりですが、盤上では、勝負の行方を左右する重要な駆け引きが繰り広げられたようでで。そして、それはサーバスさんが勝利をたぐり寄せるたぐいのものらしくてですね。


 形勢は逆転したのかな?


 盤上はすでに終盤。マス目が埋められていくごとに、サーバスさんの目つきは鋭くなり、ラナは苦渋の色を深めていく。


 そして……決着だった。


 盛大な歓声が竜舎を揺らす。


『良かった……勝った』


 そう口にしたサーバスさんの表情は、あどけない笑みのように俺には見えるのでした。


 こんなサーバスさんを俺は今までに見たことはありませんでした。


 それだけ嬉しかったということなのでしょうが……どうなんだろう。


 この喜びを裏付けしているものは何なのだろうか? サーバスさんはクライゼさんのことを……一体どう思っているのだろうか?


『ノーラ。勝ったから。人間の言葉だけど、教えてもらってもいい?』


 満足げな表情をして、サーバスさんはそう問いかけてきます。


 こんな表情も俺は一度として見たことが無く……俺は思わず問いかけるのでした。


『サーバスさん』


『ん? なに?』


『サーバスさんはクライゼさんのことを……』


 好きなんですか?


 そう尋ねようとした。だが、


『うげふ』


 俺の口をついて出たのは、今日何度目かになる奇妙な悲鳴でした。


 多分、ラナのネックアタックを食らったのでしょうが、えーと……ん? 俺の首から先、ある? 俺はまだ生きているみたいだから、その点は大丈夫なんだろうけど……ねぇ、大丈夫? 俺って今、本当に大丈夫な状態なの? なんか、痛みすら無くてめちゃくちゃ怖いんですけど。


 自分がはたして無事なのか、どうか。そればかりが気になってはいましたが。


 それでも耳に届くものがありました。ラナの怒声です。にわかに怒りの叫びを上げたようで。


『み、認められるかってのっ!!』


 なんか、怒ってんの? まぁ、怒ってるから、俺の首に凄絶な八つ当たりをしてきのでしょうが。

 

 しかし、ラナが怒っていたとして、今の俺にとっては至極どうでもいいことでしたが。気にすべきは俺の現状。首、動くかな? あ、良かった。動く、動く。本当、良かった。俺の首はまだ生きてる。まだ生きているんだ……うわぁ、すげぇ嬉しい。


『認めないっ!! 絶対認めないっ!! なんであのウザイのに続いて、アンタにまでノーラを取られなきゃならないのさっ!!』


 何ごとかほざいてらっしゃるが、くっそ意味が分からないし、心底どうでもいいことでした。


 痛みがね、戻ってきているんですよ。俺は自分の首に痛みが蘇ってきたことに、ただただ安堵の涙を流し続けるばかりでした。良かった……本当に良かったぁ……


 えー、とにかくでした。


 ラナがヒマでヒマで仕方がない。そんなことから始まったボードゲーム大会ではありましたが。


 一位はサーバスさん。そんな結果を残して、ドラゴンたちのリーグ戦は終幕を迎えたのでした。本当、めでたし、めでたし。


 

 で、その翌日からでした。


 

 約束通りということで、俺はラナの妨害を受けることも無く、サーバスさんに言葉を教えることが出来るようになりまして。まぁ、何故かラナは終始不機嫌でしたが。ともあれ、俺の人間語講座は俺がラウ家に戻るまで続きました。


 で、今の俺はラウ家の竜舎にいまして。そして見慣れた山並みからの青空を眺めながらに、物思いにふけるのでした。


 結局、聞けなかったなぁ。


 なんかタイミングが無くて。サーバスさんがクライゼさんのことを、どう思っているのか? それを聞くことは出来ませんでした。


 好き……なんでしょうかね?


 実際のところは一体どうなのか。そのことが気になって仕方がないのですが……しかし、何でだろうなぁ? 俺は思わず首をかしげます。もう、あれから二週間は経っているのですが。それでも、このことがどうしても俺の頭から離れることが無いのです。


 本当、なんでだろうね? なんで俺はサーバスさんのクライゼさんへの思いについて、こう気にしてしまっているのか?


 正直、分かりませんでした。いやまぁ、サーバスさんもクライゼさんも他人とは言い難い間柄でありまして。気になるのは自然と言えば自然なのですが……なんか変なんですよね。


 普通の気になり方じゃあ無いような気がしまして。胸中はモヤモヤでドロドロで。何とも落ち着けない感じでした。


 うーむ。我ながら、さっぱりよく分からん。なんで、俺はこんな思いをしているのやらである。


 まぁ、うん。


 忘れましょうかね、えぇ。忘れてしまいましょう。


 サーバスさんについては正直気になりますが、気にしないことにしときましょ。精神衛生上はそれが一番でしょ。俺は竜舎にとぐろを巻いて、ぐっと目を閉じるのでした。寝て忘れてしまいましょう。そう思ったからです。


 きっと忘れてしまうのが一番でした。


 それが俺にとって、一番の幸せになり得る。


 そんな予感もあったりしました。ですが……思わず考えてしまいます。サーバスさんがクライゼさんを……人間を好きになったって、そんな可能性もあるのか。


 

 ……それは許されることなのだろうか?


 ……それは幸せなことなのだろうか?


 

 俺は目を閉じながらに身じろぎをします。なんか、変なことを考えてしまったような。とにかく寝ます。って言うか、寝てしまえ、俺。それが一番幸せだから。それはきっと考えるべきことじゃ無いんだから。

 

 

 えーと、とにもかくにもです。


 

 ヒマを持て余したラナから始まった、一連のアレコレ。それは、ここで終わりということで、はい。


 ……いや、完全に終わりってわけじゃなかったかな?


 娘さんから聞いた話なんですけどね。


 最近だが、ハルベイユ候領において妙なイタズラが流行っているとのことでした。


 竜舎においてである。


 妙な落書きが散見されるようになったようで。まるでボードゲームのようなマス目に、マル、バツがぎっしりと埋められた妙な落書きが。


 はたして、この落書きの意味は何なのか? 薄気味悪いものとして、騎手の間で話題になっているようでしたが……ねぇ?


 注意はしておいたんだけどね。それで、皆は守ろうとはしてくれてるんだろうけど、徹底まではされていないようで。


 人間にはバレてないみたいだから良いんですが。まさか、ドラゴンがボードゲームを嗜んでいるなんてね。推測出来るのは、俺を知っている娘さんかクライゼさんぐらいのもので。


 楽観視は出来ないけど、この調子なら大丈夫かな。ハルベイユ候領のドラゴンは、皆ボードゲームを遊べるほどに頭が良い。そうバレる恐れは、そこまで大きくはないだろう。多分。おそらく。俺が不安で殺されないためにも、そういうことにしておきます。本当、バレたらどうなるんだろうなぁ。マジで怖ぇ……


 しかし、ブームは去っていなかったようで。ラウ家ではもう完全に下火となっていますけど。他家の間では、リバーシ文化の火はまだまだ絶えていないようでした。


 きっとまた集まることもあるだろうからなぁ。


 第二回、ドラゴンリバーシ大会。


 あるかもねぇ。


 今度は俺もね。参加もしたければ、一勝ぐらいはしてみたいし。


 ラナに付き合ってもらってさ、ちょっとは練習しておこうかねぇ、えぇ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ