俺と、ドラゴン冬の陣(3)
前回のあらすじ。
ラナが挑発行動に出ました。
『ら、ラナっ!』
俺は今日何度目かの制止に出ますが、ラナは全く止まる様子を見せてくれなくてですね。
『怖いんでしょ? 私に負けるのが怖くてやりたくないんでしょ? ふふん。本当にちっちゃいヤツ』
嘲笑付きの挑発の言葉でした。
リバーシを一緒にやろうよとラナが声をかけて。その誘いが拒絶されて。その上での、この挑発行動でしたが……もうね、ダメですね、これ。ごめんなさい、ハイゼさん、クライゼさん。この竜舎は、今日をもって廃材置き場になります。
相手のドラゴンの目が鋭く光る。いつ、ドラゴンブレスが襲ってくるんでしょうねー。本当、どう逃げよう? 俺は完全に諦めて、逃げる算段に思考を割いていたのですが……おや?
『……俺がお前を怖がっていると言ったか?』
出てきたのはドラゴンブレスでは無くて、疑問の声でした。ラナは『ふふん』と再び嘲笑を返す。
『言ったわよ。私に負けるのを怖がってるって。実際そうでしょ?』
『……俺がお前みたいなクソガキを怖がっていると、そう思っているのか?』
『だから、実際そうでしょ? 怖がって勝負をさけてるんでしょ?』
『ふざけるな! 俺はお前など怖がってはいない! ……だからな』
ドラゴンは鼻先で、ラナの足元を指すのでした。そこに描かれたリバーシのゲーム盤を。
『受けてやろう。お前こそ、怖がって逃げ出すなよ』
なんか、こんなことになりました。
え、なにこの展開?
竜舎を廃材アートにクラスチェンジさせずにすみそうなことは喜ばしかったですが。本当、何でこんなことになったのか。
……まぁ、ドラゴンだからかなぁ?
賢いドラゴンだからこそ起こったことなのではないだろうか。ドラゴンって、本当単純には出来ていないし。そこは人間ばりだし。
ここでドラゴンブレスでも吐こうものなら、ラナの言ったことを認めることになりかねないし、それは我慢が出来ない。そんな知的生物らしい思考が働いたのかもしれなかった。
ともあれだった。
状況はラナの望む方向に転がっているようで。
『ねぇ! アンタらはどうすんの! やるの? やらないの?』
参戦を決定したドラゴンと同じように、ラナをにらみつけてきていたドラゴンたちにだった。
ラナは喜色のにじんだ声音でそう呼びかけた。
ここで断ったら、自分たちはラナを怖がっていることになってしまう。そんな思考が働いたのか、どうか。
やる。
俺たちもやる。
そんな声が次々と上がりまして。
なんか、すごいことになってきました。
ラナが嬉々としてリバーシのルールを説明し、竜舎中のドラゴンがそれに聞き入って……ふーむ。
なんか一大イベントになってきたような気がしますねぇ。
で、竜舎中でリバーシが繰り広げられるようになりました。ドラゴン同士がね、適当に相手を選んで、それぞれ足元にゲーム盤を描きましてですね。
『むぅ』『そうきたか』『いや、少し待ってくれ』
それっぽい言葉が飛び交う中、皆が皆、リバーシに熱中しております。
ラナへの敵意はどこへやら。最初に文句を口にしたドラゴンも、今ではただただリバーシに集中しています。
リバーシの魔力、すげぇ。
正確には娯楽の魔力か。今まで経験したことのない知的遊戯に、ドラゴンはただただ熱中しているようで。
しかし……これ、大丈夫かね?
なんかすごい不安になりますが。もはや懐かしいですが、俺がハルベイユ候に取られそうになったという事件がありまして。
ノーラという賢いドラゴンがいる。
そんなアホっぽい話が伝わった結果の事件ですが……目の前の光景はどうよって話で。
この国の王様辺りにまとめて奪われかねないんじゃ? そんな懸念が湧いてきます。
遊ぶ時は人がいない時にやること。遊び終わったら、必ずその後は消してしまうこと。
教えてしまった俺の責任としてね、その辺りは徹底しないとなぁ。後で、絶対言っときましょ。
しかし、あれだね。
ボードゲームに熱中するドラゴンたち。それを目の当たりにして、俺には他にも思うところがありました。
『……さみしい』
皆、楽しそうだなぁ。良いなぁ……
俺、一人ぼっちだったりします。一人ぽつんとして、皆の遊戯を眺めています。俺のクソ雑魚ぶりは俺が思っていたよりも深刻だったらしくてですね。だーれも俺の相手をしたがらないんですよねー。
いやね、俺が弱いって言うのは、きっと正しくないんだろう。コイツらが本当くそ強い。弱い方のドラゴンでも、アプリの中級レベルは軽く超えてる感じあるし。
ドラゴン、マジでやべぇ。で、マジでさびしい。お前の相手はつまらんって、完全にハブにされてしまっている。
ラナなんかは大人気なんだけどね。ドラゴンは目も耳も良い。それがあって、多少離れているぐらいならゲームを成立させることが出来るので。
今や、ドラゴンリバーシ界のアイドルでした。竜舎中のドラゴンと楽しそうにリバーシを楽しんでおられるのだった。
……良いなぁ……良いなぁ……っ!
『ノーラ』
そんな嫉妬で心が暗黒面に染まりつつある時でした。
隣のサーバスさんだった。俺の顔はきっと期待で光り輝いていたことだろう。俺とリバーシをしてくれるのだろうかって、そんな期待を抱いたからで。
『さ、サーバスさん? いやぁ、サーバスさんみたいな実力者が声をかけてくれるなんて嬉しいなぁ。さ、じゃあ早速一局……』
『そういうわけじゃないけど』
あ、そうですか。そんな気はしてましたが。だったら、用件は何でしょうかね?
『ノーラとやるのは……あまり楽しくないし』
あ、そうですか。そんな気はしてましたが、その追撃本当に必要ありました? 疑問を抱きつつも、俺は用件について尋ねかけます。
『どうしました? リバーシ飽きちゃいました?』
サーバスさんもまた、アイドルばりの人気を誇っておられるのですけどね。ここ一時間ぐらいは、誘いを受けても断ってばかりでして。それを思っての俺の尋ねかけでしたが。
『飽きたわけじゃないけど。ノーラと話したいことがあって』
とのことでした。
ふむ? 俺と話したいことねぇ? 皆目検討つきませんが、まぁ、聞かせてもらえればいいだけか。
『話したいことですか。えぇ、どうぞ。何でもおっしゃって下さい』
『うん。ノーラは人間の言葉が分かるよね?』
唐突な質問のように思えましたが、そう言えば少し前に同じようなことを話したような。人間と話すのは楽しい? って、そんなことを聞かれたような。
その話の続きなのですかね? 俺はとにかく返事をします。
『えーと、はい。その通りですけど』
『どうやって覚えたの?』
人間の言葉をってことだろうか。それは、えーと。
『聞いて覚えましたけど』
『聞いて? 聞くだけで?』
『はい。文字は教えてもらいましたけど、言葉に関しては』
『……聞いて……か。うーん』
そう言って、サーバスさんはうなり始めましたが……なんか不思議な違和感があるなぁ。
いつもより格段に表情が豊かと言いますか。眉間にシワを寄せられたりしていますが。よっぽど、この話題にはサーバスさんが心動かされる何かがあるということなのでしょうか。
と言いますかですね。
俺の気のせいじゃなければですね。さっきも思ったことではありますが、サーバスさんの態度だ。人と交流したいと暗に示しているように俺には思えるのですが……ふーむ?