あるがままに
「おまえ、、、」
アキが重たそうに口を開く。
「病気だったのか?」
ユウは笑って指で
自分の胸を指さす。
「うん、ちょっとここがね
悪かったの。
それは突然だったの。
高校に入学してさあこれからだって時に
突然倒れて入院、、、
最初はすぐ治るって思ってたけど
そのまま1年、2年と
私は病院の中にいたわ。
難しい病気だったみたい、、、
最初は毎日来てくれた友達も
1人、、2人と減ってきて
最後は私一人ぼっち。
私は窓から見える青空さえ
恨めしいと思ってた。
なんで私だけが?
その言葉が
何度も頭の中をぐるぐる回る。
でもね
やっとの思いで生きてこられたのは
お兄ちゃんの笑顔があったから」
ユウの顔を見てアキは思う。
ユウがうそを言っているとは思えない。
でも
でも
覚えがないのだ。
この病院も
病室の隅で
1人震えていた女の子のことも
アキの記憶には
一切残っていないのだ。
記憶?
アキは突然立ち上がる。
鼓動が少し早くなる。
手のひらにかいた汗を
握りしめるアキ。
「おい、、、ユウ」
アキはユウに問いかける。
「俺、おまえとの思い出なんか
一切覚えていない、、、
こいつは何を言ってるんだ?
幽霊だからいい加減なことを言ってるのかって
思ってた。
でも違う、、、違うんだ!!」
震えるアキを
ユウは静かに寄り添って抱きしめる。
実体のないはずのユウが
今はなぜかはっきりと感じられる。
肌と肌が触れ合い
ユウの吐息さえもはっきりと感じられる。
「お兄ちゃん、もういいのよ。
何も
何も考えちゃダメ。
いいんじゃないの?
不思議なことが起こったって
不思議なことが起こった理由なんて
知る必要はないんじゃないの?
ただあるがままに受け入れて」
アキを一層強く抱きしめるユウ。
「どんなになっても
お兄ちゃんはお兄ちゃんのままなんだから、、、」
アキはその時
ユウの落とす涙が
自分の肩に
滴り落ちるのをはっきりと感じた。
泣いている。
ユウは泣いている。
なぜ泣いているのかは
アキはわからない。
でもアキは
ただあるがままに受け入れ
黙ってユウを抱きしめ続けた。