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supporting actor

作者: ひかぴん

これは、ヒロインを邪魔するわき役が主人公の物語です。

「ねぇ、最近、涼太くんと優美仲良いと思わない?」

茉里の言葉に私は困惑する。

「やっぱり、そう思う?」

「うん。朱理、どうするの?」

私は涼太くんが好きだ。彼はクラスでもスポーツ万能で、勉強も出来て、優しい。典型的なモテるタイプだ。優美はどちらかというと大人しくて、いつも教室で本を読んでるイメージだ。何故、あの2人が仲が良くなったのか。私は気になった。

「茉里、帰りにちょっと着けてみよう」



涼太くんと優美は、小さな公園の植木の陰にしゃがみ混んでいた。2人の会話が微かに聞こえる。

「今日も、少しだけ持ってきたよ」

「ほら、美味しいか?」

しばらくすると、また来るからなと言う涼太くんの声が聞こえたので、私と茉里はさっと身を隠した。

「明日の給食は何かな?」

「クルミも食べられるメニューだったらいいな」

2人が並んで公園から出て行くことを確認して、先ほどの植木の陰を覗きに行った。


猫が、いた。ベージュの毛並みの子猫だった。なるほど、2人はこの猫の世話で仲良くなったのか。牛乳がジャムの瓶の蓋に入っていて、唐揚げの衣を取ったものが置いてあった。今日の給食のメニューだった。

「へぇ……」

私は2人の秘密を知った。



次の日、優美が朝早くに教室で本を読んでいたから、話しかけてみた。

「優美ちゃん、あなた涼太くんと最近仲がいいよね?好きなの?」

優美の目が泳いだ。

「そんなこと、ない」

「それなら、お願いがあるの。猫のお世話は1人でしてくれないかなぁ」

「えっ……」

「ふふっ。よろしくね」

私はいわゆるスクールカーストの一軍と呼ばれた。怖い、逆らえない、クラスの中心人物だ。だから、私のお願いなら、優美のようなカースト三軍は聞いてくれる。



給食の時間、優美は小さなボトルに牛乳をいれていた。そのほかご飯と付け合わせのボイルキャベツをタッパーに入れた。先生の目を盗んでいたが、茉里に頼んで先生に言ってもらった。

「田中、なんで給食を持ち帰るんだ」

優美が先生に呼ばれた。

「あの、ごめんなさい」

優美は言い訳もせず謝った。すると、涼太くんが

「俺も持って帰ろうとした!先生、俺のことも怒ってよ」

と言った。「自分から怒られに行くか?」「涼太バカだなぁ」とクラス中が笑いに包まれた。

「中村もか、どうしたんだ?2人とも」

先生がわけを聞くと、涼太くんは

「どうしてもあげないと猫が死んじゃうから」

と真面目な顔で言った。

「あと少しで、飼い主が見つかりそうだから、先生許してください」

涼太くんが頭を下げると、優美もそうした。

「本来は許されないんだぞ。今日だけ、わかったから。早く役所に連絡するか育てる人を見つけなさい」

「ありがとうございます」



私は面白くなかった。涼太くんが優美を庇った。1人で世話をしろと言ったのに。

「あのさぁ、1人で世話をしろって言ったよねぇ」

優美に言い放った。

「ごめんなさい」

「謝るならちゃんとやれよ!」

優美を突き飛ばしてやった。そのまま、私は歩き出した。冷静になると何をしてるんだろうと思った。こんなことしても涼太くんは私を見てくれないことはわかっていた。そして、優美に嫉妬していた。でも涼太くんに相手にしてもらう方法がわからなかった。だから涼太くんから優美を引き離すしか術がなかった。



公園にこっそり来ると、優美は1人で来た。よかったと思う反面、酷いことをしたとも思った。私は首を振って自分を肯定した。いいんだよ、涼太くんにいつか私を見てもらうためには優美は邪魔なんだから、と。


優美が帰ったあと、猫の頭を撫でた。

「あなたにはちゃんと飼い主さんが見つかってほしいって私も思ってるからね」

家で飼ってる猫のおやつを1つもらってきたからそれをあげた。

そのとき、後ろに涼太くんがいた。

「あ……」

「……なんで、藤村がいるの?」

私はしまった、と思った。

「田中さんが、これからは1人で行くねって言うからどうして?って言っても答えてくれないし、何か関係あるの?」

「知らない」

私は走りだした。バレてしまった。



次の日、優美は学校に来ていなかった。優美が世話に行かなかったらまずいと猫が心配になって放課後、公園に行ったが猫がいなかった。その代わり制服を着て泣いている優美がいた。

「あの、優美ちゃん」

私が優美の肩に手を触れると、優美は口を開いた。

「いなくなっちゃった、クルミ」

「え……」

「朝ね、学校行く前に寄ってみたら居なかった」

猫の名前はクルミという名前だったのか。クルミがいた段ボール箱の中にはジャムの瓶の蓋と干からびたご飯と昨日私があげた猫用のおやつが入っていた。

「田中さん、藤村」

涼太くんの声が聞こえた。

「涼太くん……!」

優美は涼太くんに抱きついて泣いた。話を聞いた涼太くんも涙を一粒こぼした。


私は2人を置いて公園を後にしようとした。

「藤村!クルミにおやつあげてくれてありがとう。猫用の美味しいおやつが食べさせられてよかったよ」

涼太くんが叫んだ。優美は段ボールからおやつのカケラを拾い上げ、言った。

「かじってある。藤村さんもクルミを可愛がってくれてありがとう」

涙がこみ上げてきた。優美に意地悪したのに、ありがとうだなんておかしいんじゃないか。

「優美ちゃん、ごめんね、ごめんなさい」

私はそう言って公園を出た。



それから数週間で、涼太くんと優美が交際を始めたことを人づてに聞いた。


私の初恋は未熟な恋だった。好きな人にアピールする方法がわからなくて相手を蹴落そうとした。

次の恋は、素直に自分を表現して、ライバルも尊重できたらいいな。


道路からベージュの子猫が出てきた。

「クルミ?」

猫はにゃあ、と鳴いてすばしっこく逃げた。クルミだったのか、わからない。けれどクルミなら優美に会ってあげてください。

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