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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

箱庭

作者: 餅きなこ
掲載日:2018/02/28


カンカンカンーっと近所迷惑をナンジャそらと無視するかのように豪快に音を響かせ窓の外に目を向けるも痛いくらいに赤い光が目を攻撃してくる。

そして牽制する目的なんだろうな、男のくせに甲高い裏返った声が飛び込んでくる。

「要求はなんだ!可能な限り叶えようと思う。だから大人しく人質を解放してくれ」

それは男の情けない声で台無しにしており、大変危機迫った状況だと理解してるけれども笑えてくる。

ふふふっと我慢出来ずに笑ってしまうと私を組み敷いて喉元に鋭利に光る獲物を振りかざしていた少年のように幼い男がピタリと動きを止めてはコテリと首を傾げる。

それはとても可愛いらしく、この人に酷く合っている。けれども、その手に握る真っ赤に色づく獲物で台無しにしてしまっているのだから勿体無い。

「…何で笑ってるんだ?」

声を聞いて確信出来たが、この可愛らしい少年のような男はやはり少年とは違い男の人独特の低いテノールだった。

「ふふふ、ごめんなさい。でも、どうしても可笑しくて」

一度可笑しいと感じてしまったら全てが全て可笑しく思えてきて自然と笑みが深まる。

今、私が陥ってしまっている現状にも…外にいるだろう沢山の野次馬、私達を助けようとする愚かな人々。鼻をつく鉄の匂いも私とこの男音しかしない空間も全てが笑えてきてしまう。

「可笑しい?お前にとって殺されることは楽しいことなのか?」

この男はあながち間違っていない解釈をしては理解出来ないと眉間にシワを入れ首を振る。

「それで笑ったわけではないけれど…気に障ったのなら、ごめんなさい」

相変わらず拘束されていて身動きが取れないため頭を下げることは出来ないけれども心を籠めて謝罪をしよう。

よくよく考えたら殺される者のセオリーとしてはかなり逸脱していたことだろう。

「答えになってない。自分の状況を理解してないのか?」

それでも相変わらず笑みを絶やさない私に彼はカチャリと意図的に私に聞かす為だけに音を響かせては獲物を私の首元に沿わせ、スーっと軽く緩やかに引いて見せる。それと同時にピリっとした痛みを感じるも私は変わらずに笑ってしまう。

「違くて、本当にごめんなさい。貴方を侮辱する気持ちは欠片もないの。それどころか私は貴方に感謝してる」

それは事実であり、思っている感想だ。

「そんなに死ぬのが嬉しいのか?」

笑う私に気分を害するでもなく、純粋な疑問で口を開く彼に益々私は笑いが止まらなくなる。

「そうじゃないよ。なんて言えばいいのかな…」

本気でなんと言って表現をしたらいいのか分からなくて首を捻ってしまう。

この気持ちをどう表現したら伝わるのだろう?

「…自然の摂理とか殺されるのが運命だったみたいな気持ち悪い自己陶酔な綺麗事じゃなくて。えっと、順番に言うなら…貴方に感謝してるのは私に例え少しでも自由を与えてくれたからなの」

「は?やっぱり頭が可笑しいんだな。お前は可笑しい。誰がどう見ても僕は奪う側だ」

間違っても与えられる人間じゃない…と無機質に呟く男にそれでもと私はお礼を言いたくて口を開く。

「貴方にとってはそうなんだろうね。でも私にとっては奇跡のような偶発的な…代物なの」

益々、眉間のシワを濃くする男に私はニコリと満面の笑みを浮かべる。

「ねぇ、私を見て何か気がつかない?あの人達を見ていて何か気がつかなかった?」

そう問う私に警戒しながらも部屋をざっと見渡す彼だけれども、やはり何も分からないのか深いため息を溢す。

「貴方は夜目が効くみたいだから、てっきり気づいていたと思ってたのだけど…。簡潔に言ってしまうとね、ここは私のいるべき場所であったけれども帰るべき場所じゃないの」

彼が造った惨劇に、真っ赤に染まる床にバラバラに散らばった肉塊となったタンパク質の塊に目を細めて私はざまぁみろと笑う。

「さっきから謎掛けばかりだな。もっと簡潔に言ってくれないか?」

「そうね、時間もないみたいだし。私とあの人達はね、家族でも何でもないの。あの人達にとって私はね、ただの観賞用のペットであり、オモチャでサンドバックみたいな物よ。同じ人間じゃないの」

本来、明るい所で見たのなら簡単に私とあの人達に血縁関係がないことに気付けただろう。

まぁ、そんなことよりも彼が何故あの人達を殺したのかは分からないけれども…私は心から貴方に感謝の言葉を送らないといけない。

きっと最後になるのだろうし、後悔はしたくなかったから。

「だから、私はね貴方に感謝してるの。私にもう一度自由をくれてありがとう」

ニコニコしながら満足気に口を閉じる私と交代するかのように彼はゆっくりと口を開く。

「お前は僕に同情して欲しいのか?」

つまらなそうに呟いた彼の声に今度は私が分からなくて首を傾げる番だった。

「今の話を聞いて僕がお前に同情して殺すのを止めるとでも思っていたのか?」

「何で私がそう思うの?確かに私は死にたくないけれども、同情を得て何かが変わるの?」

私が同じ人とも思われない扱いを受けているのを知っていた周囲の人達は憐れむように私を見てるが、目を逸らし助けようと手を伸ばしてはくれなかった。

私は同情がなんにもならないことを十分知っている。

だから、私はただ思っていることを言葉にしただけ。それで自分が助かるとは微塵も期待していなかった…とゆうよりも出来なかった。

「私はね、ただ最後になるだろうから…折角手に入れた最後の自由だから。後悔しないように貴方にお礼を伝えたかったの。でも、私はちゃんと貴方を恨むよ。しょうがないよね、貴方の手で殺されるのだから」

「変な奴だな。お礼を言ったかと思えば怨みを言って…僕をちゃんと責めるのに、何で笑ってるんだよ」

「だって今まで笑えなかった分、最後くらいは笑ってないと損でしょう?」

そんな単純なことで私は悲しくても寂しくてもドロドロとした薄暗い感情を持ちながらも笑い続けるよ。

笑って笑って今までの分も取り戻さなくちゃ。もう時間がないのだから。

「可笑しな奴だな。本当にお前は僕と同じくらい狂ってる」

ここで初めて険しい表情ではなくクスクスと楽しそうに嬉しそうに男は声を上げる。

その表情は幼さを、残すも何処か妖艶で…不思議な感じがした。

「そうかな?でもそれも仕方ないと思わない? 」

「そうだな。さて、久しぶりに楽しかったが、そろそろ終わりにしようか」

外が本格的に動き出す気配に私も本当にこれで最後なんだろーなと肌で感じられる。

視界にキラリと光る獲物がスローモーションのように振り下ろされるのが入り、反射的に目を固く瞑ってしまう。

獲物が突き刺さるその少しの間に、もったいないなぁとか、もっと最後まで何かを瞳に映していたいけど、やっぱり怖くて…出来れば痛くない方がいいなぁって思いもあるけれども、私が生きていたと思えるくらいの痛みは欲しいなぁとか、もっと生きたいなぁってどうしても思ってしまって…生まれ変わったら鳥になりたいなぁとか…色々と浮かんでは消えて…まるでシャボン玉のような取り留めのない空想が何度も巡って…







なのに、何時まで経っても想像していた痛みは来なくて…

流石に可笑しいと思い目を開けると共にふわりと私を圧迫するようにのし掛かっていた重さはなくなり勢いよく上に引っ張られるものだから、何が何だか分からなくなる。

「ははは、ブッサイクな顔」

分かるのは私が立ち上がらせられたことと、彼に手を握られていることと…彼が何故かとても爽やかな笑みを浮かべご機嫌な様子であること。

そして…手に握られていたナイフがホルダーの中に収納されているということ。

「えっと、どーゆうこと?」

自分でも、そんなことしか出てこないことに情け無く感じるも死を覚悟していたのだから…これくらいは大目に見て欲しい。

「簡単なことだけど?お前を殺すのは止めた」

アッケラカンとそんな事を言う男に素直に生きられるのだと感謝すればいいのに…私は彼を嘲笑うかのように口角を上げる。

「それは何故?同情して殺せなくなったとでも?」

殺されなくなったとこはとても喜ばしいことだけれども、もしそんな同情だったとしたら…私の中での彼の評価は崖から転がり落ちるように駄々下がることだろう。

「何を勘違いしてんだ?僕がそんな下らない情でリスクを侵すかよ」

お前には顔を見られているのだと呟く彼にじゃあ、やはり殺されるのだろうかと思ったが彼は面白いオモチャを見つけた子供のようにキラキラと目を輝かせては笑う。

「僕はさ、退屈なのが何よりも嫌いなんだよね」

それは逆を言えば楽しいことが大好きだと言うこと。

「これは僕の気まぐれであり、一種の暇潰しだよ」

先ほどと、出会った時とは打って変ってワクワクと楽しそうに話す彼を見ていて…いくら混乱していても段々と予想がついてきてしまって…

「お前を側に置いたら面白そうだと思わないか?」

私が断るなんて微塵も考えていない…否、断る選択肢はないのだと言外に言う彼に私は諦めの感情が湧いてくる。

だってこれは私にとって昔も今も変わらないことだから。何時だって私に拒否する選択なんて有りはしない。

「僕はシノ。お前、名前は?」

「サーシャです、我が主」

逃げても変わらないのなら、せめて従順で人形となろう。

大丈夫、使える主人が変わっただけ。

短い自由が終わることに寂しさを感じる心にそっと蓋をしようとした時だった。

「イタっ!?」

パコンっと軽快な音だけれども、音に比例しない結構な痛みが頭を襲い目の前にチカチカと星が飛ぶ。

「つまんねぇ。ふざけてんのか?誰がんなクソみたいなことしろって言った?」

予想だにしていなかった痛みにおデコを抑えるも痛い物は変わらなくて、またデコピンわされたことの理不尽さを消すことが出来なくて思わず主人となった彼を睨み付けてしまう。

聞かれた通りに名前を答えたと言うのに、何が気に入らないと!?

「そう、それでいい。僕は別にお前の主人になるつもりはないんだから、お前はお前の思う通りに行動すればいい」

つまり、それは…私は…

「ただ、僕の側を離れることは許さないけどな」

ニヤリと笑う主…もといシノはやっぱり私の恩人となる存在らしい。














ある日の月のない晩に、古くから歴史に名を連ねていた貴族の主人、その妻、息子夫婦が殺害され放火されるも犯人は逃走し誰も目撃者がいなかったそうで…

そして、雇われていたメイドの遺体が見つからず行方不明となっているそうな…。

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