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母の死後、少しずつ、少しずつ感覚や感情を取り戻しつつあった私は、取り戻したからこその葛藤を味わうようになっていました。
何気ない家族の言葉が、ぐさりと胸に刺さる--。
「今…身体がかなり痛いから、あと少し休んでからそれやってもいいかな? まだ立てそうにないんだ」
「困ったねえ、今誰もいないのに、困ったねえ」
急を要することではないけれど、年配の家族に言われたら何でもすぐ動かなければならない環境。
従業員さんには言いづらいから、私に動いてほしい、という要求。
「ごめんね、もうすぐ…今、立つから」
ふらつきながら立ち上り、額に汗をかきながら言われたことをこなしつつ、自分もまた、従業員さんには言いづらいことに苦笑いしていました。
実家は、父以外の家族従業員の立場は、外からの従業員さんたちのそれより低く。
何もしていないのに従業員さんに怒鳴られたり、ハラハラさせられることも多かったのです。
主に、従業員さんたちの気分によるものでした。
私は、そこに母の昔の姿を重ねては、怯えていました。
大きな怒鳴り声、喧嘩声。
びりびり、響く声。
身体を震わせ、身を縮めることもできぬまま硬直して、時間の過ぎるのを待つ……従業員さんの感情の荒ぶりにじっと耐えるのを、何度も何度も味わいました。
嫌だ。
もう、怖いのは嫌だ、と。
心は、日々軋んでいました。
このままじゃ、前みたいに……
私は、他の家族を護る手立てが見つかったなら、そのときはすぐにここを出ようと、秘かに決心します。