第九話 世界樹と提案
「ここがエルフの里……」
「はい! そうです。しばらくここで待ってもらえますか? 話をつけてくるので」
「ああ、ありがとう」
そういってラナは家の方に走っていった。
しばらくして戻ってきた。どうやら許可が取れたようなので中に入るとまず、ラナの家に連れて行かれた。
「ここが私の家です。私の父がお礼をしたいということなので。ささっ、どうぞ」
「おじゃまします……」
途中で周りの家を見ていたがここだけ一回り家がでかい。
家の中に入ると壮年のエルフが椅子に座っていた。
「あなたがロイナスくんか」
「はい、そうです」
「我が娘を救ってくれてありがとう。事情は聞いた。しばらくはこの里でゆっくりしていくといい」
「わかりました」
「申し遅れたな。儂はドルンと言う。この里の村長をやっているものだ」
村長だったのか。ということはラナは村長の娘なのか。
「ロイさん! もう日が暮れそうなので今日は休みましょう。この家の空き部屋を使っていいですよ」
「本当か、助かる」
魔力も半分しか回復してなかったのでこの日はすぐに寝れた。
翌日の朝はラナが俺を呼ぶ声で目覚めた。
「朝ごはんです!」
顔を洗ってリビングに行くとサラダとパンが用意してあった。
「おいしそうだ。食べてもいい?」
「はい、どうぞ」
「頂きます」
サラダはシャキシャキしていて鮮度がいい。パンももっちりとしていて上に乗ってるいちごジャムはほんのり酸味が効いていてとても美味しい。
「どうですか? これらはすべて世界樹の加護を受けているのでとっても美味しいんですよ」
「世界樹?」
「世界樹はこの里にあるシンボルのようなものです。今日は私がロイさんを案内しますね!」
それはありがたい。
さっそく朝ごはんを平らげて、外に出る用意をする。
玄関に行くと昨日とは違う私服姿のラナがいた。
「似合ってますか?」
「ああとっても似合ってるぞ」
正直いって可愛い。金色の髪と碧眼を引き立てる白を基調をしたワンピースに目を奪われた。
「じゃあまずは世界樹に行きましょう」
さっそく出発する。
「そういえばなんで昨日森にいたんだ?」
「それはですね、昨日は狩りの担当が私だったんです」
「村長の娘なのにか?」
「基本エルフには上下関係がありませんからね。村長だからって周りがお世話するわけではないんです。だから父だってよく狩りに行きますよ」
人間は王族だけじゃなくて貴族階級などもある。しかしエルフはみんな平等と言うわけだ。
「お、あのでっかい木が世界樹か?」
「そうですよ!」
やがて見えたその木は里の真ん中に生えていて、いかにも神々しい光を浴びているような、幻想的なものだった。
「エルフはこの木の加護を受けています。だから昨日行ったとおり樹木を操れたりできるんです。昔は豊穣の種族とか言われていたそうですよ。ところで、これは誰が植えたかわかりますか?」
「エルフじゃないの?」
「それがですね、初代勇者なんですよ。初代勇者を植物関連の魔法が使えたそうで。だから植物の魔法を使える人が来たって言ったら父はすぐに許可してくれました」
初代勇者か。学院で習ったことがあるが、知ってるのは3人のパーティーメンバーと一緒に魔王の侵攻を止めて、世界平和に導いたくらいしか教えてもらっていない。
こんなこともしてたんだ。
そんなことそ考えていると急にあたりが眩しくなった。
「なんだ?」
「世界樹が加護を与えようとしているんですね。人族には多分初めてですよ」
光が収まったときには目の前に木の枝が二本浮遊していた。
「多分世界樹の枝だと思います。ロイさんは既に植物を操れるので変わりにくださったんじゃないですかね?」
それはありがたいな。しかし何に使おう。
エンチャントは自然に生えてるものだったら解除するともとの位置に戻るが、魔力で成長させたものは消失する。
だからいくら数千年前に植えたと言っても初代勇者が成長させていたら消えてしまう。
そうだな、今は使わずに保管しておこうかな。
「ありがとうございます」
世界樹にお礼をして枝を抱え込む。
「じゃあ次は商店街に行きましょう。ロイさんはなんにも持ってないですし、日用品があったほうがいいですよね。お金は父に貰ってきました」
「何から何まで悪いな」
「いえいえ、ほんのお礼です」
少し歩いていくとだんだん人が多くなっていく。人じゃなくてエルフか。まあいいや。
まずは服屋に行って服を買った。
シンプルなデザインだが、突出するべきは肌触りの良さだ。スベスベしていてとても気持ちいい。
シルクワームという魔物の糸で、世界樹の力を受けた葉野菜で手懐けているらしい。餌からもわかるように飼うには難しい。どうりで王都で見なかったわけだ。
ここでしばらく生活する訳なので数着買って店を出た。
そして薬屋で薬草から造られた回復薬をいくつか買った。
別にエンチャントで薬草を付与することはできるが、魔力も消費するし、それより即効性のあるものを買ったほうがいいと思ったからな。
しばらく経ってお腹が鳴ったので近くの喫茶店のようなところに寄った。
アップルパイを頼んだのだが、その林檎が今まで食べたことないくらいの美味しさだった。
以前自分のスキルでリンゴにできるだけ魔力を込めて育てたものを食べた。それも十分だったが、これはそのレベルを超えている。
世界樹の放出する魔力と、エルフの土壌管理。これが魔力で促成栽培するよりも美味しくないわけがない。
ぺろりと平らげて、満足して喫茶店をあとにし、帰路についた。
家に戻ると、村長が話しかけてきた。
「ロイナスくん、しばらくここに滞在するんだろう?」
「はい。お願いします」
「じゃあ、少し働いてみないかね? 働くと言ってもお手伝いだがね。給料は出るよ」
「ほんとうですか? やってみたいとは思いますが、人族の私ができるような仕事でしょうか。今日、里を見て回ったんですが、土壌に栄養を与えていたりと……できるかどうか」
「大丈夫だ。問題ないさ」
「じゃあやってみます」
「明日、農家のルタンという奴が人手を欲しがっているんだ。やることは行けば聞かされると思うけど、お願いできるかな?」
「はい!」
夕飯を食べて、風呂から上がり、リラックスしていると再び村長が話しかけてきた。
「ついでにしばらく万能屋のようなものになってみないかい? みんなに依頼と報酬をを出してもらってそれを君がやる。もちろん取捨選択はできるよ。」
「ほんとうですか! ぜひお願いします」
「おお、ありがたいね。じゃあ明日は早いからおやすみね」
「はいおやすみなさい」
初めて自分でお金を稼ぐことになる。学院に通ってるせいか、今まで働いたことなんてなかったから。明日が楽しみだ。