第六十五話 乱入と師匠
二回連続遅れてしまい本当に申し訳ないです。
長い時間の戦いの末やっと終わりが見えてきた。
目測で50匹ほど、程なくして終わりそうだ。
最初の方は気が遠くなりそうな数だったがここまで来ると心の余裕がかなりできる。
日が更に強くなり地面を明るく照らす。ジャイアントアントの黒がよりくっきりと見えるように対比されていた。
しかしその光景に変化が訪れた。
戦場に特大の影が落ちる。太陽の光が一瞬にして遮られた俺は不思議に思って上を見上げると、荒々しくそれでも均等に生え揃っている大きな鱗。思わず見惚れるほどの美しい黒い羽。
上位竜である黒竜の姿があった。
夜が来たかのように錯覚させるその存在によりあたりが暗くなったと思うと、次の瞬間眩い明かりと熱風が肌に叩きつけるような感覚を覚えた。
それが黒竜のブレスであることはもはや確認するまでもない。
その下にいたジャイアントアントはおろか、生えていた草花も一瞬にして焼き払われた。
「なぜこんなところに上位竜が……」
こいつを倒せというくらいならジャイアントアントがあと倍の数いたほうが楽だろう。
それほどにこの状況は絶望を呼び込む。
やむなくバオバブを植物作成し、剣を深く構えた。
いったい勝算はどのくらいなのか……。
次第に黒竜の体が下降していき、地に足をつけた。
そして俺はその後の攻撃を警戒した。
だが、その心配は聞こえてきた声によって杞憂に終わることとなった。
「あれ? もっと数が多くてピンチって聞いてきたから急いできたんだけどなー。なんか拍子抜けだや。誰かがいたんだろか?」
そう言いながら黒竜の背中から飛び降りたその少年は、若く小柄な男の子だった。
あんな子がなぜ黒竜の上に?
その男の子はこちらへ向かって来たのだった。
「ねえ、もしかして君たちがほとんど倒しちゃった?」
「え、はい……」
答えたのはクレオさんだ。
「なんだー、僕が来る意味がなかったじゃんかー」
その子は明らかにつまらなそうな顔をして駄々をこねる。
そうこうしてるうちに反対側で戦っていたフェニルさんが何があったのかと走り寄ってくる姿が見えた。
その姿は男の子にも見えたようで目を細めて凝視していた。
「んー、あ! あれフェニルじゃん! おーいフェニルー!」
そしてなんとその男の子はフェニルさんを知っているようだ。しかも呼び捨てって……。
この人の正体が謎に深まっていく。
フェニルさんも相手の存在に気づいたのか、一瞬立ち止まった。
そして発した言葉は――
「お久しぶりです! 師匠!」
「――ということなんだよね! だから師匠って言ってるだけで実際は手合わせしただけなんだよー」
どうやらこの人はフェニルさんと戦ったことがあるらしくて、しかも圧勝したということらしい。俺も若いけどこんな年端も行かないような子がなぜ……。
「あ、ごめんごめん! 誰って感じだよね! 僕はアイリス=カイザー。うーんわかりやすく言うと【邪道】って言えばわかるかな?」
「えっ……」
「なにか知ってるんですかクレオさん」
「【邪道】って……、S級冒険者じゃないですか……」
S級だって!?
「あー、なんかね。【邪道】なんてダサいからホントは名乗りたくないんだよねー。というか僕のどこが残虐なのさ! ねー、クロ?」
質問を黒竜に投げかけたのか、黒竜クルルル……と消え入るような声を出した。
なにか……あったんだろう……。
「で、そうだフェニル。やっぱこれほとんど君がやったの?」
「いえ、こっちの子が……」
「君かぁ!」
俺? 最初にズルをしただけであとはどっちかって言うとフェニルさんとクレオさんのほうがやってた気もするけど。
「君なんて言うの?」
「ロイナス=アルメリアといいます」
「おおおおおお!」
なんか急に大きな声を上げて驚き出した。
この人のこと知らなかったし面識がないはずなんだけどな……。
「やっと会えたよ君に! そう、君に会いたかったんだよー! ということは隣の子はラナって子か! いやーよかった」
「あの……どうしてそれを……」
「ふふ、それはね、君たちワイバーン倒したでしょ? 実はあれ俺の仲間がミスして逃しちゃってさ。心配してたわけだよ。誰が倒したのか聞いていけばロイナスっていう名前が出てきたわけじゃん? でもS級の会議で会いに行けなくて。いやーよかったよー。そうだロイナス俺と戦わない?」
怒涛の勢いで話されたが、気のせいでなければ戦わないかと提案された気がする。
S級の実力は気になってしょうがない。何しろ全体の数が少ないからだ。
だがフェニルさんの本拠地ディーナに早く行って、スタンピートを抑えないないといけないし、ここで全力を出したら後々響いてくる可能性もある。
悩んでいるとフェニルさんが発言した。
「それより師匠、ディーナってどうなってましたか!?」
アイリスはこれを聞いてなにか思い出したかのように言う。
「ああっ! そうだそうだそこに戻らないといけないんだった。残念だな戦えないのは。でもそう時間はないしなー」
「やっぱり危ないんですか!?」
「そういえばディーナが本拠地だったねー。多分あと数日後に来るねー」
「そうですか、やっぱり馬車だと間に合うかどうか……」
「ん? じゃあ僕が連れて行ってあげようか?」
「いいんすか! お願いします! ロイナス! 師匠に送ってもらえることになったから今すぐ出発するぞ!」
唐突に言われたが、ディーナに危機が迫っているなら仕方ないなと宿に戻って荷物を取りに行くことにした。
「そういえばフェニルさん馬車は置いてっていいんですか?」
「まあディーナの隣だしな。後で俺が取りに行くぜ!」
そうかそれなら大丈夫だ。
持っていくものを身に着けて宿を出て再び先程までいたところに戻ってきた。
「師匠行けますよ!」
「そうか、じゃあいこー」
フェニルさんは猛烈にやる気になっている。
「クレオさんありがとうございました。すいませんこんなに急ぎで」
「いえいえもうホントとんでもないです。こちらこそですよ。ではお気をつけて」
「おーい、ロイナス早くしろー!」
フェニルさんが催促してくるので振り返ると、彼は黒竜にすでに乗っていた。
黒竜に乗るのは楽しみだな。
「わかりました!」
鱗に足を掛けて登っていく。上にはちょうど人が座れるような平らな部分があった。
「よーし、クロ出発していいぞー」
――クルルッ
そう一鳴きして、黒竜はアタップの地から飛び立ったのだった。




