第六話 卒業旅行と転移
投稿時間を間違えました……
なんだよあいつは。こんなに強かったなんて。こんなに俺と差があったなんて。
俺はあいつに負けてから、古代剣術も多く練習をした。しかし一向にレベルが上がらない。あいつはもうレベル2はあるだろう。
固有スキルに伸び具合やレベルの上限差があるのは知っているけれど、それでもほとんどのスキルは1年でレベル1は脱却できると習った。
結局俺はあいつに勝てないのか。
そう思って剣を投げ捨てる。
対等を目指していた相手より努力をして。自分のほうが秀でている部分を作った気になって。今なら勝てるかもしれない。そう思った。
それでも叶わないと知ったとき、今までの努力は何だったのだろうかとそれまでが無意味なものに思えた。それが団体的なものであれば周りが柵となって継続できるかもしれない。しかしそれが個人である場合はどうなるか。今までのすべてに諦めをつける。それがたとえ間接的であったとしても。
どうせかなわないんだ。ならばやったって意味がない。俺は1位にならなければいけなかった。それももういい。
そして諦めた瞬間。今まで自分があいつに固執していたことが恥ずかしくなり自己嫌悪に陥る。
頬に涙がが伝った。それもすぐに止んだ。
幸い、通常スキルも剣術スキル以外は内職向きだ。これなら追い出されないはずだ。
だからもう剣を振るのはやめだ。
今まで俺は何をやってきたんだろう。
いつぞやの憧れは、嫉妬に変わり、そして憎しみへと変わった。
★☆★
突然だが、俺らは今、孤島にいる。普段はリゾート地として開放されるこの島には今年の卒業生である37人しかいない。何故こんなことになっているかと言うと……
「ひゃっほーう! 海だー!」
「ロイ! 森の中行こうよ! 果物いっぱい生ってるって!」
「ネネちゃん。俺らと一緒に海に行こうよ」
就職前の最後のビッグイベント、卒業旅行だからである。
9日間のこの旅でクラスメイトはほとんど皆テンションが上がっている。9日と言っても4日間は往復の移動時間だが。
この島に行くためには近くの岸からボートで行くのだが、行きのボートで酔ったのは一緒に乗ってた人とだけの秘密である。
このボートから見える景色が素晴らしくてピンク色と緑色が織り交ざっていた。
ピンク色の招待は早咲きの桜、カンザクラという植物で2月が見頃だ。
もう2月だがその間に何もないわけがなく、夏休みや職業体験などがあったり、既にいろんなところからの推薦状が届いたりしている。
夏休みは帰省する人が多いが、俺は学校の図書館で植物の調べ物をしていたり、スキル使ったりで大忙しだった。
職業体験も騎士職を体験した。でも、上下関係厳しそうでめんどくさそうだったな。
まあこんなことがあったが、今は旅行中である。俺も楽しみだったし遊ぼう。
「よし! 森に行くか」
「あ、この植物は見たことあるな。こっちの植物も面白い」
やばい、今まで植物の勉強しかしてこなかったから草木に目が行ってしまう。
「ロイ、なんか気持ち悪いよ」
「仕方ないだろ面白いんだから。あ、この実食べれるぞ」
そう言って枝から2つもぎ取って1つネネに渡す。
「ん! おいしい! 何この味、酸っぱいけど甘い!」
「だろ。これはキウイって言ってだな。王国近くでは栽培されてないけど、いろんな場所で栽培できるし、とってもうまい」
「へー! ねえねえ、もっといろんなの食べて回ろうよ!」
「いいよ。本で見たことしかないものもあるだろうし、他に何があるか俺も気になるしな」
こうしてこの一日は果物の食べ歩きで終わった。
そして二日目には昨日行かなかった海に行った。
泳ぐのは苦手ではないから、海の中を覗いたりしてた。
宿に戻って思い出したけど、海中にもいろんな植物みたいなのがあるんだな。今度エンチャントできるか試してみよう。
順調に過ぎた二日間。三日目は何をしようかなと思っているとクラスメイトが寄って来た。
「なあ、ここら辺の森ってさ、結構障害物とかあって面白そうじゃん? だからみんなで鬼ごっこでもしようかなって」
鬼ごっこか。木とかに隠れて戦術的なのもできそうだし面白そうだな。
「いいねそれ。俺も入れてくれ」
「よし、じゃあ15分後に船着き場に集合な!」
船着き場へ行くと、ほとんどの男子が集まっていて、所々に女子の姿も見える。
「よし! じゃあ鬼を決めよう」
と、まあじゃんけんになって、男子3人が鬼である。
「じゃあ範囲はこの島の森で、鬼に捕まったらここに戻ってきてね。」
「罰ゲームあったほうが本気になれるよな」
「いいね! 何にする?」
しばらくの話し合いの末、最後に鬼になったやつには帰ったら校庭を50周になった。
冗談抜きで死ぬぞそれ。
「じゃあ1分後に鬼は動けよ」
俺も急いで森の中へ逃げ込む。
しばらく経ったが、鬼が来ない。範囲が広すぎたんじゃないかな。
そう思っていたが、なにやら気配を感じて耳を澄ます。そして身を隠すが――
「見つけた!」
おい、なんでここがわかった。
いや、確かあいつは……索敵スキル持ちだったな。それは見つかるわけだ。
そっちがスキル使うんだったらこっちだって――
「『植物操作』」
草を結んだり、蔦を垂らしたりと妨害を行う。それを続けてるうちに鬼を巻いたようだ。
暇だと思ってたが意外と大変だな。
走った疲れを癒やすように歩いていると、前に人影が見えた。
鬼かと思ったが違うらしい。人影はラルフドだった。
「お。ラルフド久しぶり。いつからかお前俺に構ってこなくなったけどどうした? また剣の打ち合いでもしようぜ」
「ん? アルメリアか。そういえば鬼ごっこをやってるんだよな? それだったらいい隠れ場所を知ってるぜ。ついてこいよ」
「え、まじで? ありがとう! じゃあ行こうぜ」
「ああ……予定予定とは違うがこっちのほうがタイミングがいいだろう」
「なんか言ったか?」
「いいや何でもない」
そのままラルフドについていくと洞窟らしきところがあった。
「ここだ。この奥」
「へー、こんな場所あったのか。一昨日はみつけられなかったけどな」
「ああ、俺はここで見張っとくから先入れ。さっき魔力も使ってただろう」
「いいのか! ありがとう」
そう言って奥へ入っていくと――
カチッ
「ん? なんだ?」
音がなって疑問に思うと同時に自分の周りが魔力で包まれていく。
「しまった! これは転送魔法陣か!?」
魔法具の一つの転送魔法陣がなんでこんなところに…
すると洞窟の入り口あたりから声が聞こえてきた。
「はっはっは! 滑稽だなアルメリア! お前がいなければ俺が1位だったんだ! お前が俺を越えるのが悪い。この魔法陣はな、特殊な製造過程で森に転送させる! 手に入れるのに苦労したよ! まあこれでお前の顔を見なくて済むんだったら安い代償だな。あばよ!」
ラルフドが仕掛けてたのか、俺を騙すようなことをして。
何故だかわからない。
悩みを抱えながら目の前が真っ白になった。
★☆★
「あれ? もう日も暮れたのにロイが帰ってこないよ? 誰か知ってる?」
「俺らと一緒に鬼ごっこはしてたけど、そっから見てないな」
嘘でしょ、ロイがいなくなるなんて……
引率の教師に捜索を頼んだが、結局最終日までロイは見つからなかった。