第五話 実戦と閉会式
俺の試合会場はDコートらしい。移動してフィールドを覗くと既に対戦相手が待機していた。
「お、お前か! 俺の対戦相手は! 今年の首席って聞いたから楽しみにしてきたんだぜ!」
「はい。ロイナス=アルメリアです。お手柔らかにお願いします」
「そんなに謙るなって! 冒険者なら気さくにな!」
雰囲気はいい人そうだが、熱い。てか俺まだ冒険者じゃないんだけどな。
さて、現Aランクとやる貴重な機会だ。どこまで通用するかな。
「これより、第一試合Dコート、ロイナス=アルメリア対フェニル=ノーザンの試合を開始する。それでは……始め!」
試合が始まった。
さっそく相手は雄たけびをあげながらこちらへ突っ込んでくる。
まずは試しに。
「『種子複製』『成長促進』『植物操作』」
茎が丈夫でしなやかな植物を作り、敵の進行方向の足元に操作してわっかをつくる。名付けて「草結び」かな。
「うおっ!? 危ねえ! なんだ?」
相手はこけそうになり、速度を緩めた。
「これはお前の固有スキルか? うーん、草? 草魔法かなぁ? まあいい! なんにせよ、自分のスキルをすぐに分からせるようなことをするのは愚策だぜ!」
そういってまた速度を上げてきた。
「草結び!」
「もう引っ掛からねえ!」
おい、まじか。草引きちぎって来たぞ。
そのまま俺の前まで来て攻撃してきた。
「はあっ!」
咄嗟に未だに腰に挿していた剣を抜いて対処する。
しかし自分が押されているのが分かる。
攻撃が速くて、重い……!
「なんだ魔法しか使えないと思ったが、剣も使えるか!」
「それはありがとうございますっ、『ハノギリ』!」
2つの魔法の詠唱を簡略化して、複製、促進させる。
そして再び操作して、俺とつばぜり合い状態であるフェニル=ノーザンの背後から振り下ろす。
なにか感じ取ったらしい相手はすぐに俺を押しのけて横に回避した。
「おっと、これが刺さってたら危なかったな。なんだこの木の刺。凶器じゃねえか」
ハノギリの木は鋭いとげを持つ。それを促進で大きくすることによってそれを武器とすることができる。
「うーん、やっぱり首席は強いね!」
「では、そろそろ本気で行きましょう」
「お、そうか! じゃあ俺も。覚悟しとけよ」
俺は魔法を唱える
「『植物付与:ハノギリ』!」
さっき生成したハノギリの木が自分の持っている剣に絡みつく。変化が止まった時、そこには鉄の剣ではなく頑丈そうな木に包まれた、ソードブレイカーがあった。
さあ、第二ラウンド開始だ。
仰々しい剣になったかつての鉄剣を何度か振りまわして感触を確かめる。
悪くないな。もっと重くなると考えていたが。確かに木の重さがそのままだったら持てないしな。
「『纏雷』! こっちは準備完了だ」
ここで相手も用意ができたようだ。
「よーし、いくぞ」
ノーザンが地面を蹴るのを視認した瞬間、そこに彼の姿はなかった。
「はあぁぁ!」
声が聞こえた後ろのほうを振り返るとノ彼が剣を構えていた。
反射的に自分の剣を掲げると、相手の剣がソードブレイカ―の溝へ入った。
「ちぃっ……止められたか!」
「速いですね、体のほうを見る限り、雷魔法でしょうか?」
「さあな!」
彼の体にはバチバチとするオーラのようなものが纏われていた。これが雷魔法だとしたら電気で自分の体のポテンシャルを上げている等が考えられる。
「とりあえずっ!」
自分の剣を力を入れてひねる。先ほどから溝にはまっていた状態になっていた相手のの剣を折った。
「だが無駄だ!」
剣を折って一安心しているのも束の間、彼は距離をとって魔法を発動するそぶりを見せた。
これ以上何かされると困るな。
そう思って距離をとった彼を追従する。
相手まで残り2メートルとなったところで彼が叫ぶ
「これ以上近づかないほうがいいぜ。お前の体が切れる」
「それはハッタリ?」
「いいや、ごく細い鉄の糸がそこにある。嘘じゃないぜ」
試しに前に剣を振ってみると空中で剣が止まった。これでは迂闊に動けないな。
「何をするかはそこで見てるんだな! いくぞ! 『磁石』」
「な!?」
これは驚いた。折った剣が直っていく。いや、正確には直るとは言えない、細かい粒子が集まって剣の形を模っているだけだ。その粒子は、砂鉄か?
「気づいたようだな! この際だから言うが、これが俺の固有スキル、『磁力魔法』だ!」
「なるほどな」
だからさっきから纏雷と言っていたものは解除していたのか。砂鉄を引きつけるから。体への負担も大きいと理由もありそうだが、これああくまで予想である。
しっかし砂鉄は見えない分、厄介極まり無いなぁ。
ならばその対策は……
「『サルナシ』『植物操作』!」
蔓植物で。
蔓を振りまわし砂鉄の糸の位置を探る。そして無いところを見つけては滑るように回避し相手までたどり付く。
そして下から剣を振り上げるが、相手の剣に阻まれる。
「くっ……!」
そのまま剣の打ちあいが始まり、もつれ合う。
その状態が数分続いた後、魔力の残量が少ないことが分かってきた。
こちらは蔓を操作しているため厳しいと感じるが、それは向こうも砂鉄の糸を操作しているため同じ。
ならば実力の差が出る。
既に社会に出ている冒険者にかなうとは思えない。だからここで決めようか。
隙を見つけ突きを放つ。
「ふっ!」
決まったと思ったが、驚くことに敵の砂鉄の剣が変化し、盾のような形になった。そのまま俺のソードブレイカーを砂鉄で絡ませて動かないようにしてきた。
「今のはヒヤッとしたぜ。だがな、この剣は砂鉄だからな。形も変えられる!」
そういうと彼は受け止めた盾の一部を変化させ鋭い針のようなものを作り、それを操り俺の手に貫通させてきた。その後も急所は狙わずに針を放ってきた。
「ぐあっ……!」
「これで、俺の勝ちかな。」
「ふっ、まだだ……」
このままやられるのは釈然としない。だから責めて
「『植物付与:スズラン』っ」
自分の武器であったソードブレイカ―が変わり短剣になる。短くなったことで砂鉄の拘束を抜け出した。
手の感覚がなくなってきたな……
最後だ、これでどうだ!
そう思い短剣を投擲する。
「くっ!」
虚をつかれたのか変な声を上げたノーザン。しかし未だに勝ち誇った顔をしている。
「ここまで! この勝負、フェニル=ノーザンの勝ち」
「へへへ……危なかったな。あれ……?」
慢心創意で地面に這いつくばってる俺の目に、ふらふらとした足取りでそのまま地面に倒れる相手の姿が映る。
最後に俺が使った植物、スズランは見た目こそ可愛らしく有名であるものの、実は草全体が毒である。これが武器に付与された結果、後遺症も致死性もないが、体が麻痺する毒が剣に塗られることになった。
「訂正する、この勝負引き分けとする! 医務班! 早く二人を医務室へ!」
この言葉を最後に俺は少しだけ目をつぶることにした。
次に目が覚めたのは医務室のベッドであり、腕は完治していた。
隣には俺より早く目覚めたのか、ノーザンがこちらを見つめていた。
「勝ったと思ったのによぉ、最後にしてやられたなぁ。この行事には何年も参加はしているが、ここまで強い首席は初めてだぜ……」
「ありがとうございました」
「こちらこそな。そういえば、お前名前なんだっけ?」
「ロイナス=アルメリアです」
「ロイナスか。覚えておく。冒険者ギルドで待ってるぜ」
だからまだ冒険者になるなんて決めてないんだが。
「意外と長く寝ていたようだな。そろそろ閉会式だ。行くぞロイナス!」
おれはベットから体を起こし扉へ向かった。
閉会式に参加し結果発表をきいて、今年も冒険者に勝った人はいないらしい。
そもそもいくら卒業したといっても、実戦経験の少ない学生が、現役冒険者に勝てるわけがないと思うが。
そして閉会中だったっていうのに隣のやつがうるさい。
「ねえ、ロイー。私の相手もA級だったんだけど、全然歯が立たなかったよ。一体どうやって勝ったのさ?」
隣のやつとはそう、ネネだ。
そう言えばこいつの相手もA級だったな。どんなことをやって来る相手だったのか気にはなるが、時間帯が同じだったからな。まあいい後で聞くか。
「閉会式中だ。というか勝ってない」
「真面目だなー。そんなんだから友達いないんだよ!」
「失敬な。友達くらいいるわ」
「ほんとに?」
そんな他愛のない話をしているうちに閉会式も終わっていた。