第三十六話 休暇とS級
途中三人称視点になります。
ウッドゴーレムがいなくなると周りのマンドレイクたちもいなくなり、静寂が流れた。
イートプラントの相手をしなくて良くなったラナが俺の方に駆け寄ってくる。
「『世界樹よ。治癒の祝福を』」
ラナの手が患部に置かれると少しばかり楽になった。しかし疲労までは取れないので歩くのもふらつく。
また大きな怪我である骨折は完治しないようだ。
「本当に申し訳ない! 俺が今日ここまで進めると言ってしまったから……。一回地上に戻って解毒薬なり買ってこればこんなことにならなかったのに……!」
「過ぎたことは仕方ないです。次回からはペースを落としましょう。そうですね大体一ヶ月くらいでダンジョンを踏破するくらいに」
「わかった。普通はそれでも速いくらいだから無理するなよ」
肩を支えられながら、11階層に降りていく。入ってすぐのテレポーターに入ろうとする前に、階層の状態をみた。
5層から6層へと変わるときは荒野から少し草が生えたくらいのわかりにくい変化だったが、今回は顕著に出ている。
この階層は2メートルくらいの、先程のウッドゴーレムと同じくらいの低木が所々に生えている。ぱっと見階層の4割は埋めてそうだ。
しかし今は攻略する気になれない。
地上に戻り、宿に直行する。ベッドにダイブするとすぐ寝息を立てて寝てしまった。
翌日、起きるとすでに昼を周っていた。ちょうどそこにラナが入ってくる。
「おはようございます。と言ってももう昼ですが、今フェニルさんから疲労回復薬をもらったので飲んでください」
「ああ、ありがとう」
一気に飲むと、ベッドから体を起こそうとする。
床にに足をつけると、若干胸のあたりが痛んだ。やっぱり完全には回復してないらしい。
「怪我が治るまで大いに休めということで、一週間休暇です」
そうかでも仕方ないな、俺の注意力不足で招いたことだし。
しかし宿でじっとしててもやることがない。
「じゃあラナ、観光に行くか」
「大丈夫ですか? ならば行きましょう」
宿の出口に行くとそこにフェニルさんが立っていた。
「ロイナス、もう立ち上がれるのか?」
「はい、ラナの治癒でなんとか」
「そうか。まあ無理だけはしてくれるな」
「気をつけます」
「ところで、今更言うのもなんだがエルフの嬢ちゃんいつも外套を被っているけど、冒険者ギルドのある街では種族差別は基本ないぜ。何しろ昔勇者が亜人と一緒に作った仕組みだそうだからな」
「えっ! そうなんですか?」
ラナが驚きの声を上げたが、俺は別のところに目を向けた。勇者が冒険者ギルドを作ったということだ。一体何者なんだ勇者は。
「まあ嬢ちゃんはべっぴんさんだから男衆から見られることはあるだろうがな。はははっ!」
「そんなことないです……」
いや、ラナは十分べっぴんだと思います。口に出さないけど
「ところでフェニルさんはどこいくんです?」
「俺か? 俺は鍛冶屋に行く予定だ。俺の武器は特注でな、ほら磁石の能力だろ俺。だから持ち手の部分も全部が純鉄なんだ」
特注か、特注ってたしか自分で持ち込んだ素材を望む形にしてくれるんだっけか。
「俺もついてっていいですか。それとできることならワイバーンの素材を……」
「いいけど、ワイバーンの素材はやめといたほうがいいな。鍛冶士は当然実力ってもんがある。世間には鍛冶ギルドっていうギルドもあるくらいでランク付けされているんだ。ワイバーンの素材は素材の加工の難しさからランクA指定だ。できればランクA並の実力者の方がいい」
「そこの鍛冶屋はどのくらいなんですか」
「たしかランクCだったかな。これでも一流ではあるんだが」
A級の鍛冶士なんて会えるのだろうか。その不安を汲み取ったようなフェニルさんがいい案を思いついたかのように弾んだ声で言う。
「そうだ! この街を出るんだったらさ、次は俺のパーティーのホームタウンに行かねえか? そこになら知り合いのA級がいる。よし決まりだ……っと俺の悪いくせが出ちまった。押し付けるのはやめるってダンジョンで反省したのに」
「いいえ、構いませんよ。行きたいですお願いします」
「本当か! よし、じゃあ鍛冶屋に行くか」
大通りに出て歩いていく。やはり人が多くて思うように進めない。
向かってくる人々に目を向けていると不自然な二人組を見つけた。
先程聞いた話だと種族差別がないはずの街で、外套を二人共つけている。今まで俺らもそう見えていたのかと思うけれどそれどころじゃなく、只者ではない雰囲気を放っている。
周りの人々は無意識に彼らを避けているような気もした。
すれ違いざま微かに会話が耳に入る。
「…………ワイバーンが…………!」
「クロノスの……か。……ぞ」
小柄な方がワイバーンと発したように聞こえる。そして長身の方がレオニさんの商会の名前を呟いたようだ。
害はなさそうに思えるが、気になるので今度訪ねてみるか。
いくらか歩いていたらいつの間にか歩くのが止まっていた。見上げてみると小さくはない店が建っている。鍛冶屋の看板を釣る下げている。
中に入ると剣がずらりと並んでいる。わかるのは武器屋のようにどこから仕入れてきたものではなく、ここで作られたものなのだなということだ。
「店主! フェニルだ、頼んだものあるか?」
「はい、できています。こんな武器頼んだのはあなたがはじめてですよ。一体何に使うので?」
「これじゃないと逆に邪魔になっちゃうからな。理由は秘密だ! ほんじゃありがとな」
しばらくしてる間にフェニルさんは目的を達成したようだ。
「ロイナスもういいか?」
「はい十分です。では次はどこへ行きましょうか」
「おすすめのデザート屋があるんだが、一緒に行くか?」
「はいお願いします。みんなは?」
「私も行きます」
「わっふ!」
じゃ、ゆっくりと羽を伸ばしますか。
■□
「どうされたんですか。こんなところに」
しっかりとした身なりの男、レオニが丁寧な対応で迎える。商人たるもの基本は下手に出るのだろうが、今回はそのようではない。純粋に相手を敬っている、いや敬うべきというべきだろうか。
向かい側に座っている男らはここ周辺では珍しい外套を脱ぎ、顔をあらわにした。
一方は栗色の髪の毛をした小柄な男。そしてもう一人のやつは外套を脱いだにもかかわらず仮面をつけている長身の男だ。
「いやー、クロノスくん。実はこっちの仮面がね、ワイバーンの監視をミスったそうなんだ」
「ワイバーン……?」
「お、なんか知ってそうな反応だねー。ま、それで普通の人にとってはワイバーンって脅威なわけじゃん? だからちょー速く追いかけたんだよ。でもそこにあったのはワイバーンの死体だけ。S級はあそこらへんにいないし、こんな辺境だとAランクも大勢いないでしょ。だから誰が倒したのかなーって。俺の知らない強い奴がいたら激アツじゃん? だから聞き込みしてて、なかなかに大きな影響を持つ君のところに来たわけ。ほら、商会って噂に敏いじゃん?」
レオニは一瞬迷った。話すべきか話さないべきか。
しかし向かいに座っているのは王国内で17人しかいない、一騎当万の力を持つS級冒険者である。
それが商会のためか、恐怖のためかわからないが、レオニは話すことを決心する。
「そうですね……あれは――」
ロイナスの知らないところで噂は着実に広まっていくのだった。




