第十六話 正体とファイアオーガ
その子犬は目を覚ました瞬間、近くに俺らがいることに怯えて体を震わせていた。
しかし、自分の体が治っていることに気づいたようで、俺たちのおかげだと考えた結果、近づいて舐めたり頬ずりをしてきた。
かわいい。というか自分の状況を判断できるってことは頭がいいってことなのかな。
しばらくその状態でおり、俺たちのことを完全に信用しきったようだ。
ここで立ち止まってるのもそろそろ終わりにしよう。
「なあお前、俺達と一緒に行くか?」
そう問いかけると
「わっふ!」
と吠えて、肯定の意を示したのだった。
新たに仲間になった子犬をラナが抱えながら森の中を進んでいく。
ラナはこの子が気に入ったそうでずっと頭をなで続けていた。
犬も満更ではないらしくウトウトと目をとろけさせていたのだった。
こいつにも名前をつけてあげないとな。いつまでも子犬じゃ可愛そうだし。
「お前、名前がほしいか?」
「わっふ!」
「そうかじゃあ考えよう、ラナも考えてくれ」
名前の案か……季節とかどうかな……
そういえばこいつは俺らの言葉を理解しているらしく、返答の吠え方もしっかり変えているようだ。
こんなに知能が高いということは獣ではないだろう。まあ魔物でも害がなければいいか。
しばらく進んだところで突然子犬がラナの腕からするりと抜けて一目散にかけていった。
「あ! ミカン! んー少し違うかな……ってそんなことじゃなくて、危ないですよ待ってください!」
ラナが追いかけるので俺もついていく。
茂みを抜けると子犬は大きな魔物に向かって唸り声を上げて威嚇をしていた。
ラナが青ざめた顔で叫ぶ
「あれは……ファイアオーガ!? 危ないから戻ってきて!」
それでも子犬は聞かずに、まっすぐとファイアオーガに飛びつき、噛み付いた。
「グオォ?」
あまり聞いてないのか噛み付いてきた子犬を振り払い体をこちらへ向ける。
「グオォォォォ!」
しかし自分より小さな存在に傷つけられたのが癪に触ったのか大きな雄叫びを上げてこちらに攻撃してきた。
「危ない!」
間一髪のところで子犬を抱え込みながら攻撃を回避した。
避けられたことに腹を立てたファイアオーガがさらに動きを見せる。
「ロイさん! 火魔法が来ます回避してください!」
「火魔法だと? 分かった!」
抱えた子犬と一緒に大きく後ろへ回避した。
その直後口から火が漏れそのままブレスのように吹き出した。
「これは逃してくれなさそうだな……しかも火か。植物との相性が悪すぎる」
だがさっきの子犬の歯が刺さったことを見ると皮膚はそこまで固くないっぽい。
そういえば火に強い植物があったな……
「『バンクシア』『植物作成:バンクシア』!」
植物作成をすると鎌のような武器が手に収まっていた。
子犬をラナの後ろに持ってき、置く。
「ラナ、俺がターゲットを取るから俺の合図で、できれば目を狙って矢を放ってくれ!」
「わかりました!」
ファイアオーガのもとへかけて踏み込み、鎌を振る。
対応したファイアオーガは腕でガードを作ったが鎌は片腕を深く切り裂いた。
「グオッ!」
こちらが危険と判断したのかファイアオーガはこちらへ視線を移した。
あの構えは、火魔法を使うつもりか。
溜めの時間は少しあるが無闇に突っ込むと返り討ちにされるため距離を取る。
「なんのためにバンクシアの武器を作ったと思ってる。お前のファイアブレス、利用させて貰うぜ」
ラナの方へ視線を移すとしっかりと矢を放つ準備をしてくれてるようだ。
俺はラナの前に移動した。
そしてファイアブレスが吐かれた。
鎌でその攻撃を防御するように構える。
「グオオォー!」
勝ちを確信したようなファイアオーガの雄叫び。
「クオォォォォォォン!」
後ろでは何故か子犬が吠えていた。
だが、負ける気はない!
するとこちらへ向かって来たはずのファイアブレスが全て吸収されるように鎌に当たった。鎌が黒く焦げる。
「ラナ! 今だ!」
「はぁっ!」
後方からラナの放った矢が飛んでくるそれと同時に――
パアァァン!!
鎌が弾けた。
それと同時に破片がファイアオーガに飛んでいく。
ラナが放った矢はしっかりと目に刺さり、弾けた破片もブシュッっという音を立てて皮膚に突き刺さる。
痛みにのたうち回るファイアオーガに、再生している鎌で首元を切り裂いてとどめを刺した。
俺が使ったバンクシアは、乾燥した地帯で生育する。そのため山火事が多いので、それに適応するように育った。
彼らは山火事で焼けたときのみに主に種子を弾き出す。
それを思い出した俺は火魔法に対応できるだろうと武器化させたのだ。
「やった! 勝利ですねロイさん! ファイアオーガの討伐証『まだだっ!』えっ、なんですか?」
「まだ何かこちらに近づいてきている!」
索敵が反応している。とても強大な力を持つ魔物が、こちらへ猛スピードで近づいてきている。
身構えていたが、そいつは俺が気づいたらもうそこにいた。
真っ白な毛に額に紫色の模様。圧倒的な存在感はアブソリュートウルフと同等、いやそれ以上だろう。
あまりの恐怖にそこを動くことすら許せなかった。
『お前か。我が息子を助けてくれたのは』
直接脳に語りつかけてくるような音が聞こえる。聞いたことがあるが、念話というものだろう。
「はい……」
しかし俺にはそれしか声を絞り出すことしかできなかった
『我は神獣フェンリル。我が息子を助けていただき感謝する。む? そこに倒れているのはファイアオーガか。また息子はこいつが私の住処を襲うと勘違いしたのか。ハッハッハ』
恐怖が薄れてきて、やっと話すことができるようになった。
「神獣フェンリル……その息子とは知らず、申し訳ありませんでした」
『なに、構わないさ。お礼がしたいのだが、何かあるか?』
「この森をでて、イニーザという街に行きたいんですが」
『そんな願いでいいのか。よし、分かった。あまり近くに行き過ぎると恐れられてしまうから、できるだけだがな』
母フェンリルの背中に乗って、森をかける。
こんな経験二度とないだろうな……
そしてわずか数分で森を抜け、そのまま草むらをかけていった。
『我が行けるのはここまでだな。歩いて行けば1日くらいだろう。これだけでは我の気分が良くないので、お礼として我の毛の束を渡そう』
そう言うとフェンリルは自分の毛をいくつか抜いて渡してきた。
「ありがとうございます」
『なに、どうってことない。よし、息子よ帰るぞ』
「クゥン……」
しかし子犬はなかなか俺らのもとを離れようとしない。
母フェンリルに怒られたらどうしよう。
しばらくの沈黙のあと大きな笑い声が聞こえた。
『ハッハッハ! 相当なついているようだな。よろしい、一緒に付いていくが良い。ということで人間。任せたぞ』
え? まじで? そんなことってあるんですか?
『また会おうぞ、人間よ』
そう言ってフェンリルは猛スピードで戻っていった。
「あ! この子の名前イチゴはどうかしら! ほら、白い花を咲かせるし!」
「わっふ!」
そんなのんきな事言ってる場合ですかラナさん……
フェンリルの子供の名前はイチゴに決まった。
ラナの使ってる矢は木製です。
エルフの力を使って放っているので弓は持っていません。
ロイナスが作ってくれています。