第十二話 ゴブリン討伐と通常スキル
木漏れ日の中を悠々と歩く。それなりに気温は高いはずだが、日陰が多いのでそこまで熱くない。
ここはどこかというと慈愛の森の中、エルフの森からそう遠くない場所だ。
俺は今エルフの兵士団と共に行動している。兵士団といっても戦闘が得意なエルフが14人いるだけで3パーティー分しかない。
数カ月たちエルフとの生活もかなり慣れてきた。
今日の依頼は近くに出来たゴブリンの集落に行ってゴブリンを討伐すること。
この森でのゴブリンといえば、赤みがかった皮膚を持つ強化個体だ。
実はほぼ毎日素振りをしていたので戦闘はそこまで衰えてないはずだ。
数分歩いたところで弓を持ったゴブリンを見つけた。見張りだろうか。少し周りを調べてみるか。
「【索敵】」
通常のスキルの【索敵】を使う。
少し離れたところに多くの反応があるが、このゴブリンの近くにはあと1体しかいないようだ。
この2体の距離はそんなに離れてない。
大きな体にひげをはやした壮年のエルフ、バンはこの隊のリーダーだ。
バンさんに話しかける。
「このゴブリンの右から3本目の木の影にもう一体います」
「そうかわかった。アスラ、ジン片方ずつ頼んだぞ」
「「はい」」
弓を持った二人のエルフは木製の矢を放った。
不意をつかれたゴブリンには頭に命中したが、少し離れていた木の裏に隠れていたゴブリンには回避された。
「ふっ」
しかし矢を放ったアスラは声とともに指を動かす。すると驚いたことに、ゴブリンを通り過ぎた矢が戻ってきてゴブリンの後頭部に突き刺さった。
「凄いですね……アスラさん」
「こういうことができるから木製の矢を使うんだ。ここにいるみんなこれくらいはできるよ」
見張りを音なく倒せた俺達は、ゴブリンの集落のすぐそばまで移動した。
再び【索敵】を使う。
「正確な数はわからないですが大体50体はいると思います。最初に弓で数を減らしましょう」
「なるほどな。弓隊、3本ずつ矢を放て。できれば頭を狙うぞ」
14人のうちの8人が弓を一斉に放った。
ざっと10体以上が絶命したのがわかる。生き残りも3割は負傷を負ったようだ。
「よし、近接隊いくぞ。弓隊は援護を頼む」
残りのエルフと俺は一直線に駆けていった。
周りのエルフを見ると鋭く加工された木剣を4、5本操って戦っている。
丁度一ヶ月前に見た授業の光景を思い出した。
彼らの生活を守るためにも頑張らないとな。
「『植物付与:アカガシ』」
自分で買った剣に自生していた木剣の材質であるアカガシをエンチャントする。
エンチャントなので材質が変わるというより、切れ味や重量、丈夫さが上がったと思う。
そのまま流れるように周りのゴブリンを斬っていく。
【剣術】スキルが発動してるのか、思うように剣が動いていった。
集落の奥へと進むと一際大きな気配を感じた。
そちらへ目を向けると、体躯が他のゴブリンたちとは違う。筋肉が隆起しているゴブリンがいた。
「お前がここの集落のボスってところか」
「グギギギッ……グガッ…」
そうだと肯定しているのかわからないが、ボスゴブリンは大きな太刀を手に取りこちらへ叩きつけるように振ってきた。
エンチャントした剣でその叩きつけを受ける――
「重いっ!」
体格の差では勝てないな。
剣を少し傾けそのまま受け流すように太刀を回避した。
そのまま地面に叩きつけられた太刀が地面を抉った。
「とんでもない馬鹿力だな。受けたらひとたまりもない。地面に叩きつけることで隙が生まれるから、ヒットアンドアウェイで行くか」
再び叩きつけたのを落ち着いて回避し、腹のあたりに袈裟斬りを食らわせる。が、アブソリュートウルフ並ではないがそれなりに皮膚が硬い。通るには通るがこのままでは時間がかかるだろう。
エンチャントを変えるか。
「『サボテン』『植物付与:サボテン』」
剣を試しに振ってみる。すると剣筋から無数の棘が飛び出した。
「そうか、イメージしたサボテンが翁丸という種類だから直線状か」
結構な速度で鋭い棘がが飛び出すため、突き刺さりはするだろうな。
ボスゴブリンはまた叩きつけるように太刀を振るう。知性はあまりないのか学習しないな。
相手の懐に入るように回避して力任せに剣を入れる。
ブシュッっという音がした。
バックステップで距離を取ると、どうやら棘が貫通したらしい。
「グオオオオオオォォ!」
ボスゴブリンは咆哮を上げるが痛みがあるのか行動を起こしてこない。
再びボスゴブリンを斬ったところドサッと前に倒れて動かなくなった。
後ろを振り返るとエルフの仲間たちが駆けつけていた。
「大きな咆哮が聞こえてきたと思ったら、グレートゴブリンか。それをひとりで倒すなんて何者だ君は。まあいい。こっちも片付いたから次はゴブリンたちの角を回収してくれ。いろんな材料になるからね。それが終わったら火で死体を燃やすんだ」
ジンさんにそう言われて火打ち石をもらう。まずはグレートゴブリンの角を取り出し、他のゴブリンの角も取り出した。
燃やすのはアンデット化や他の魔物の餌にならないようにするためだ。
ひと通り終わったので、その場を後にしてエルフの里に帰った。
その後持ち帰った角はポーションを買った店に持ち込んだのだが……
「あんた、それをひとりで倒したのかい? じゃあ手柄はあんたのものってわけだ。人族に売ればそこそこ金になるさ。そいつは返すよ」
と、グレートゴブリンの角だけ返されてた。
なんか俺のバックの中世界樹の枝だったりグレードゴブリンの角だったりレアなもの多くね、と思ってしまった。
ふと、自分の手元に目を移すと指輪が光っているのに気づいた。どうやらレベルアップしたようだ。