†. 黒猫が歌う
ストーリーがわかってくる3です†感想待ってます☆
前回、†.2 天使とお友達!?で様々な苦戦を強いられた私だが、今回苦戦するお相手はこいつだと思われる。
「はい。じゃぁ自己紹介カード的なもの配るからなあ。今日中に書いて提出するように」
担任が紙をひらひらさせながら話す。げっ。と口にはしないものの心のなかで苦い声を出した。私は自分を紹介する、というのが苦手だ。なぜなら得意なこと「全部」。苦手なもの「全部」。だからだ。なんの紹介にもなりゃしない。(自信過剰と思われるかもしれないが本当なのだ)
そんなこんなで、たった一枚の紙にかれこれ貴重な昼休みをもう10分も使ってしまった。名前は書けた。部活も書けた。好きなもの、嫌いなものゾーンはもちろん空白。そしてもうひとつ空欄がある。
「将来の夢…か」
独り言。誰にも聞こえないようにいった。ふと思う。絵美は、絵美は何にしたんだろう。アイドルか、女優。いやそれともモデルか?教室を見渡しても絵美は見あたらなかった。
「ひとみちゃんっ」
この声は絵美だ。と思い、避けようとした時にはもう手遅れだった。背後から絵美の手が私の首まわりを包み込む。
「何?」
「あれっ?なーんだ。ひとみちゃんが将来何になりたいのか知りたかったのに…」
絵美は私の空欄だらけの自己紹介カードを見てそう言った。
「そりゃ、残念でした」
「つまんないのーっ」
「…。絵美はなんなの」
「えっ。私?」
怪しげに微笑む絵美。
「教えなーい。ひとみちゃんが教えてくれんなら教える☆」
なんだそれ…。
言おうとしてやめた。絵美がいなくなってしまったからだ。まったく…。
結局その時間に自己紹介カードの空欄がひとつでもうまることはなかった。
「ただいま」
玄関のドアを開けるなり叫び声が聞こえた。
「お帰りーっ。姉ちゃん見てみて!!」
弟が帰ってきたばかりの私に一枚の絵を見せる。
「なにこれ」
「へへっ。聞きたいの?どぉしよっかなぁー。どうしてもって言うなら…教えてあげるよ」
「じゃぁ別にいい」
靴を脱いで階段へとむかう。自分で見て、と言ったくせに…。これだからちっちゃいやつは嫌なんだ。
それでも少し気になるので、ちろっと後ろをふりかえると寂しげに絵を抱えてうつむいている弟が見えた。私の少ないと思われる良心が傷む。
「結城。それ。どうしたの」
あまりにかわいそうになって聞いてやると弟の顔はみるみる赤みを増して飛んできた。
「あのねっ。…」
それからのことを全て話すには何時間あれば足りるのだろう。はしょって話すと弟は絵で学校の代表になり、表彰されたらしい。
「僕、だから画家になるんだ!」
弟の長い長いお話はこれで幕を閉じた。弟は自分の自慢話をできてルンルン気分だったようだが、私は確実に生命力を吸いとられた。階段を上がる気力はなく、リビングのソファーに横になる。母親は不在。たぶんとなりの家の美智子さんと喋っているのだろう。
それにしても弟は単純だ。学校で金賞をとったくらいで画家になれるなら誰も苦労をしない。職業難という言葉も世界から消えるはずだ。
ソファーから天井をみあげた瞬間。水色がかった色を見て、昔幼い私が口ずさんでいた曲を思い出す。教会で教わった、キリスト教の歌。
「私歌手になりたい!」
母にむかって弟のように叫んだ私は当時7さい。当然だが母は私と同じくあきれた顔をした。
「何いってんだか。まったく。いい?歌手なんてもんはね、超限られた人しかつけないお仕事なの。あんたがなれるわけないでしょう」
幼き私はそんなことでめげなかった。
「なれるよ!だってひとみ、教会で一番歌が上手なんだもん。音楽の先生だって、上手ねっていつも誉めてくれるんだよ!」
はあ、母は深くため息をついた。我が子の頭の悪さを思いしったのだろう。
「あのね…よく聞いてねひとみ。あんたはね。歌手にはなれません。絶対に絶対に。ある程度の運とコネがなくちゃだめなのよ」
母の連続二回の絶対、は妙に説得力があり、さすがの私もその場に呆然と立ちすくんでいた。今思うと母親は結構残酷だったと思われる。こんなに絶対、絶対言って小さい私の大きすぎる夢をぐしゃぐしゃにしてしまったのだから。
その日から私は歌をあまりを歌わなくなった。大好きだったキリスト教の歌は封印されたのだ。
「♪おろっかな人〜が家を建ってた〜♪」
小さい声で口ずさむ。今の私に讃美歌とか、キリスト教とか。そんな言葉が自分に似合うようになる日はたぶんこない。天使のような絵美ならばっちり似合うだろうけどー…。
気づいた時はもう朝だった。どうやらあのまま寝てしまったらしい。髪を触るとすごいことになっているのに気づいた。とりあえず朝シャンをしよう…。
タオルで髪をよく乾かして鏡を見ながら制服を着る。見ればみるほど思い知らされる。絵美の顔とは本当に真逆だ。寂しいくらい似てなかった。つり上がった目は猫を連想させるし、真っ黒な髪も黒光りしていて不気味だった。
まるで黒猫。
黒猫は不吉な動物だし、讃美歌をなんか歌うなんてあり得ない。その前に歌をうたっちゃいけないんじゃないか?
冷蔵庫から牛乳を取り出す。きっと母はまだ寝ている。朝練はないが、せっかく起きたのだからたまには早くいこう、と思い朝飯は適当にその辺のパンを食べた。
人通りが少ない道路を歩く。すずめが喧しくピーだなチュンだの鳴いていた。気持ちのいい朝?なんだろうか。朝と言えば私が中学の時に流行った曲で「朝の空」という曲があった。大ヒット曲でクラスの女子がずっと歌っていたので歌詞は覚えた。唯一まともに歌える曲だ。
「〜♪〜♪〜」
なぜか分からないけれど、精一杯綺麗な声で歌った。これ以上ないってくらい一生懸命だった。喧しく感じたすずめの声も美しく感じるくらい自分の全神経を使って声をあげた。
歌手になりたかった頃の私。それはいったいどこにいってしまったんだろう。未来への希望。道はどこへ続いているんだろう。私はどこへ行きたいんだ?自分に問いかける。
もちろん答えはない。
最後のフレーズを歌い終わろうとしたときだった。気づくと私は学校の門にまで来ていた。誰もいない学校。のはずなのに後ろから拍手が聞こえた。
「うまいねひとみちゃん♪」
「……絵美?」
勢いよく振り向く。私の背後にいたのはまたも絵美だった。恥ずかしすぎて固まってしまった私。声も出ない。
「その曲なら私も知ってるよ。よし、一緒に歌うぞー」
私の手をとり、彼女は歌い出す。
「〜♪〜♪〜♪〜」
ちょっと高めの透き通った声。歌い方は本物にそっくりだった。テレビで一度だけ見た、ミソラユメノ。
「絵美…。あんた何者?」
あんまり似てるので思わず聞いてしまった。ミソラユメノはおばさんだったはず。じゃあなんでこんなに似てるんだ?実は絵美がおばさんだった、そんなメルヘンあるわけないだろ!じゃあどうして?
「知りたい?」
ニコッと微笑む。怪しげな笑顔が昨日の絵美に似ていた。その顔をみて自己紹介カードを書いていないことに気づく。
「私はミソラユメノの娘だよ。歌手、女優のミソラユメノ。その娘。美空絵美☆」
ウィンクをした絵美。
讃美歌を歌うべきはまさしく彼女だった。
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