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女神の玉座  作者: 天海りく
盗賊王の花嫁
32/67


 窓辺に置かれた白い花が月明かりにぼんやりと光って見えた。

 この国では珍しい純白の色をした華奢な指先がそっと、花を拾い上げる。愛おしげに花びらを撫でた手の主である女性は、躊躇いがちに自室を見渡す。

 天蓋付の寝台を中心にすえた広々とした部屋は、吊り香炉から漂う白檀の香りが漂っている。赤と黄が色鮮やかな絨毯、蝶と花を象った硝子の吊り飾り。象牙で作られた小さな虎の置物。大商人である父の趣向で完成された部屋は、どれもこれも高価なものばかりだ。

 なにひとつ不自由はない。望めば父はなんでもあたえてくれるだろう。実際望む必要がないほどに、次から次へと父は衣装も食事も装飾品も最上級の物を用意してくれた。

 だけれど心の底から欲しいと思うものを得ることを、父は許してくれなかった。

 女性は花を黒髪に差して母の形見である翡翠の腕輪だけを身につけて、窓辺に腰掛けて訪れを待つ。

 白い花は婚礼の前に花嫁への最初の贈り物。


――あなたはいつかこの部屋を捨てたことを惜しむでしょう


 いつかはそうかもしれない。だけれど、今この瞬間だけは捨ててしまえると思った。

 窓の下に人影が現れて、女性は迷うことなくその者に向けて手を伸ばし微笑んだ。

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