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「完了?」
──はい。
烏は氷室の側まで飛び去ると、私と同じ様に術を掛けた。氷室もいきなりの事で驚いたらしく、目を回している。
次に塊を見て、くるくると首を回す。塊は例外的な存在の為、術を掛けるべきか悩んでいるのだろう。
「あっ、俺は平気ー。所長と閏日さん見てあげてー」
──それでは完了ですね。
「あの、所長さんと閏日さんには……」
私が聞きたかった問いを氷室が代弁してくれた。するとまた烏は右翼を広げ、所長と閏日さんをそれぞれ指し示した。
──お二人は不死の薬を飲まれております故。
不死の薬……? あぁ“老化が進む”ということは寿命にも直結しているのか。
でも此処でふと考える。所長はインペラトルの事を嫌っているし、長居する事も無さそうだ。幾ら呼ばれたからと言って、術を掛けるものではないんじゃないか……?
「質問が有りそうだね。紅葉」
「術を掛ける必要あります?」
「あるよ。突然時の流れを速めたら、体への負荷が大きいからね」
微笑を浮かべると、所長は長い脚を組む。事務椅子を回転させ、腹を此方に向けると説明を開始する。
「不死の薬はね、時の流れを受けなくなる。つまり老化を防ぐ効果がある。でも薬に頼ってしか永久の命は得られないし、防ぐのは時間だけ。外傷による致命的な攻撃を受けたら死ぬよ。幾ら“不死”でもね──」
そう自嘲気味に嗤うと、他の指先をやんわりと曲げて人差し指で私を指す。“顔を”と言うよりは心臓を狙うような動作だった。
「そして薬に頼ってしまうが為に、純粋な活力を自ら生成出来ない。私が君の武器を使うと刃が脆くなってしまうんだ。まるで“硝子”のように……ね」
『やってみるかい?』と表情が、いや、目が物語っている。それに刃向かうように頭を振り、否定した。大切な相棒を実験台のように使って欲しくはなかったから。
それを見た所長はくるりと椅子を回転させ、烏に向き直った。
「さぁ、行こうか。狸の居場所へ」