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哀愁に浸っていると、突然所長の携帯が鳴った。緊迫した空気を裂くように鳴った為、驚いて飛び上がる。それを見て硝吸鎌が落ち着けるように、髪を撫でた。
大丈夫。いつもの事じゃないか。所長は多忙な人だ。だから、だから..............焦っちゃ.......いけない。
「はい、綾吹です。..............うん。..............分かった」
声が沈んでいく。重く重く、底知れぬ海に沈み込むように。嫌な予感がする。物凄く。怖くなって硝吸鎌の手首を掴む。呼吸が段々と浅くなっていく。鼓動が高鳴る。硝吸鎌が落ち着かせるように腰に手を回し、軽くとんとん、と脇腹を叩く。
所長の電話が終わる。目が闘志に燃えていた。それを見て、私はある事を確信する。
「悪魔崇拝。同士討ちをした人間の死体をバラバラにして.......」
「おい」
青白くなる私を一瞥すると、硝吸鎌は咎めるように所長を睨む。腰に回した手を自分の元へ引き寄せて、威嚇するように唸り声を上げた。
「済まなかった。配慮が足りなかった。では率直に行こう。紅葉」
「はい」
「間違いなく君が苦手とする光景が広がっている。どうする。着いてくるかい?」
所長の目がじっとこちらを見詰めている。判断は私に任せるようで、私が口を開こうとするまで彼が言葉を発することはなかった。
口を開く。閉ざす。死体とは違った意味で、悪辣な光景が広がっている。戻すかもしれない。戦力にならないかも知れない。でも、それでも、所長を一人で行かせる訳には行かない。所長の聖遺物は大変便利だが、それでも。もしもの時は.......。
「足でまといになるかも知れません。でも、貴方の身代わりくらいにはなる。いざとなったら捨ててくれて構いません。私の死後はもう、決まっています。だから」
一度深呼吸をして、硝吸鎌を見る。
「私を、私の魂を、悪魔なんかに渡さないで。鳥兜」
一度目を見開いた硝吸鎌の瞳はチカチカと光っていた。驚きと感激と、そんな興奮の入り交じった顔。それからいつものように、凄惨な笑みを浮かべると、薄い唇を開く。
「仰せの通りに」
硝吸鎌の名前、前契約者から貰った名前、「鳥兜」。まだその名で呼ぶ覚悟はない。けれど、今は、今だけはこの名で呼ぼう。貴方はとても特別な存在なのだから。
「行きましょう。所長」
先日忘れてしまったので、本日投稿させていただきます。
毎日は呼んでくれないだろうなぁ。『鳥兜』なんて。
それは死後の話になっちゃいそう。
追伸
鳥兜の名前の由来ですか?
前任があまりにも重たい感情を込めて名付けてます。
口先なんて建前ですよ。あんなの。
彼にとっては、硝吸鎌は親友であると同時に、最愛の恋人との間にもうけた子供のような存在なんで。




