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瞳だけをぎろりと動かし、持っていた十字で男子生徒の首を“薙ぎ払った”。目を見開いて凝結し、呼吸を止めた私の目に入ってきたのは――。
「えっ…………?」
消えた首から生えて来たのは“腕”だった。めりめり、めりめり、めりめりと、一人の生徒の体から人間が生まれ出る。その狂気に満ちた光景に、胃液が喉元から競り上がる。
手足に力が入らず、そのままぺたりとへたり込んだ。気持ち悪い。吐き気がする。
「おい、赤毛。居るんだろう?」
すると冥鬼の棺が隙間を作る。闇が口を開き、細身の脚が現れ、持ち主の全貌を明らかにする。
「名前があります。気易く赤毛呼ばわりなさらぬよう。不愉快です」
「唐紅が参ってしまっている。頼んだぞ」
眉を顰め、舌打ちをする罅荊の声に耳を傾ける筈も無く、自分の意見だけを主張する。こんな時でも私を気遣うのか……? 馴れ合う事を良しとしない、御前(硝級鎌)が?
硝級鎌は、男子生徒の体を引き千切って出て来た何かに向かって、容赦の無い攻撃を開始する。長い柄で薙ぎ、踏み付け、体自体をバラバラにしようと試みる。
「良いですか、ゆっくり呼吸して下さい」
そう言って跪き、ひんやりとした掌を額に押し付けて来た。その冷たさが、胸に溜まった膿を幾分か浄化してくれる。
言われた通り呼吸をして、意識を安定させる。大分落ち着いた。もう……大丈夫な筈だ。
「有難う……罅荊……」
虚ろな瞳で罅荊の顔を見ると、軽蔑の眼差しで見下された。ゴミを見るような、死にかけの蠅を見るような眼だった。
何時もの事だ。気にする事などない。地面に手を着いて立ち上がると、戦闘中の硝級鎌にまっすぐ目を向けた。
逸らしてはいけない。向き合わなければ、同じ相棒として。
「唐紅、汝の生気、分けて貰うぞ」
そう言うや否や、腕から、脚から、力がすぅっと消えて行く。美しい大鎌は、彼の手によって容赦なく相手の体を切断した。
どっぷりと溢れ出た黒いヘドロが、辺りの床を穢してゆく。その光景を受け、冥鬼が地獄への扉を開く。
爆風と竜巻が体を抜け、棺に食されていく。瞬きをした後には既に清掃は終了していた。
「ふぅ……」
へたり込んで荒く息をすると、黒い足が此方に近付いて来た。蝋のような指がぬるりと現れ、手を差し伸べられたという事実に気が付く。黙って手を取って立ち上がると、褒めろと言わんばかりに擦り寄られた。
「ごめんね、硝級鎌」




