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脳天気な声が唇から戻された。そして果ての無い安堵と、冷静さが戻ってくる。私は深く深呼吸をし、ゆっくりと席から立ち上がった。
静かな足取りで塊の前まで訪れると、じっと顔を見る。
「何ともない?」
「うん。平気だよ」
平然と笑い、手を振る。何はともあれ、この“時間の止まったであろう世界”の例外は、今のところ私と塊だけのようだ。
こんな事が起こるなんて、日常生活では有り得ない。……あくまでも“一般的な人間”の観測だが。だから、その例外である“死体狩り”の仲間達と連絡をとる事にした。
鞄の中から携帯を取り出し、電話帳を開く。まずは所長。繋がるか……。
長い通話音の後、願いは叶えられる事となる。
──もしもし?
「所長……ですか? 本名は……」
──切るよ。
決してふざけて言った訳ではない。時空が乱れている以上、間違った相手に掛かる事だって起こりうる。誰も携帯の向こう側に存在するのが所長であると、証明出来ないのだ。だから無意味かも知れないけれど、確認を取った。もしかしたら、所長が自分の名前を嫌っているという情報さえ掴まれているかも知れないが。
私は手短に此方の様子を伝えた。
「“時”が止まりました。いえ、止まったというよりかは、皆が皆凍り付いたように、誰一人として動かないのです。時計の指針も、蹴り上げたボールさえも」
私は校庭を見ながら伝えた。外では授業でサッカーを行っているらしく、ある一人の少年が、ボールを蹴り上げていた。しかしボールは彼の足を離れ、上空でぴたりと静止している。まるで、写真のように。
──何? そっちも?
所長はさして慌てた様子も無く、平然と問い直してきた。世間話をしているのではないかと錯覚してしまいそうだ。
私は吞気に欠伸をする塊に目配せし、口を開いた。
「塊と私以外」
──あぁそう言えば、紅葉は授業参観だったね。塊が何時も以上に上機嫌で言ってた。
一言多い。まぁ所長に名前の事を持ち出した報復と言えるかも知れないが。だから文句も言わずに黙っている。
此処で一つの共通点に気が付く。私と塊と所長……。今この空間の時間的支配を受けていないのは、“死体狩り”だけだ。と言うことは、氷室ももしかしたら──。
そう思って口を言葉を発そうとしたとき、不意に後ろから抱き締められるような感覚に陥った。




