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だが落ち着いてもいられない。実は一年前にも似たような事があったのだ。まぁ其れは休み時間の事だったが。
血の気が引くのを感じる。幸い、授業中という事もあり、女子達に囲まれる事はないだろう。しかし問題はこの広大な敷地の中で、授業時間内にこのクラスまで辿り着けるかが勝負となる。休み時間に入った瞬間、私は女子の群れに飛び込まなくてはならなくなる。それだけは御免被りたい。
だらだらと背中から冷や汗が伝う。面倒臭さもあるが、肉の波に押し込められ、人の体温を感じる羽目になることを恐れてだ。満員電車の時間を回避しながら|学校(此処)まで来るのに、思わぬ所に穴があった。
私は周りに感づかれないようにそっと溜息を落とした。幸いにも、周りの者達は先生に勘付かれないように息を潜め、大人しくしている。その時だった。
教室の扉が開く。レールの上を丸っこいタイヤが擦れる音がして、コツリ、コツリと誰かが入ってくる。
振り向けない。クラス中の皆が数学教師の標的となっている。仮に後ろを振り向こうものならば、すぐに眼の敵にされるに決まっている。だからもし後ろに存在する人物が塊であるならば、問題が起こらない事だけを祈る事にした。
しかし彼奴が存在するというだけで、ある意味問題を回避するのは不可能に近いので、まずは予兆に気を張る。
少女等のざわめき。耳障りな、黄色い声。顰めたところで無意味であり、鼓膜を揺さぶって仕方がないあの声を頼りにする。私は耳を澄ませながら、教科書と顔を合わせていた。
ざわり、ざわり……。ほんの少し、僅かであるが、きちんと耳に届く。女共の黄色い声。此処で私は確信した。
──現れたのは塊だ。──
そう思った途端に事は起こった。数学教師の手がぴたりと止まる。まだ書きかけの数字が不完全にも黒板に残される。違和感を感じて両隣の席にも視線を送った。
固まっている。まるで石のように。瞬き一つせず、たった今行っていたであろう動作のまま身動ぎ一つしない。
激しい違和感。そろりと立ち上がり、そっと隣人の手に触れる。柔らかなら質感も、生暖かいぬるりとした感触も、其所には有りはしなかった。あるのはコンクリのような硬い感触と、無機質の持つ冷たい温度だけだ。
私は勢い良く振り返り、真後ろに存在に眼を向けた。後ろにいるのはやはり塊だった。今全世界がこの状態ならば、彼奴も──。
「んん? やばい感じー?」
人生、ノリで生きてはいけませんね(´-ω-`)
あの時のあの決断がなければ、別の人生を歩んでいたのではないかと思います。




