塊、参上
朝学校に着いて、数時間後。授業参観日と言うことで、何時もはピッタリと閉じられている教室の扉が、観客が入って気易いように、開け放たれている。廊下を行き交う人々が、ちらちらと此方の様子を観察する。
そんな中で私は只ひたすらに身を硬くし、塊が来ない事だけを祈った。この際、教師に当てられて応えるのが面倒臭いだとか、惰眠を貪りたいだとか、我が儘なんて言わない。其れよりも塊が来たときの方がより一層面倒臭い。
私は教科書を立てて、顔を隠しながら目線だけを廊下に走らせる。勿論、念には念を、と言うことで教師が黒板を向いている時だが。
一限は数学B。数学Ⅱに比べて緩やかな進行を送っている。今は基本的な等比数列の公式を終え、Σ公式を黒板に映している。何やら証明を行いたいらしく、長々とした数式が黒板に描かれていく。
そんな時、教室がざわめき出した。主に女子の黄色い声が空気を走り、漣のように辺りを包む。激しく嫌な予感がする。というか、嫌な予感しかしない。
引き攣った頬のまま、私はさざめきに耳を澄ます。聞こえて来るのは『ねぇ、あれ芸能人?』だの『すっごく格好良い人が学校に来た』だのだ。君達、その無駄に良い視力を勉学に使わないか? そして目が良い者を窓際の席に置かない欲しい……!!。
「静に。今日は授業参観という事で、皆さんは気持ちが浮き足立っているのかも知れませんが、もう高校生なのだから、慎みのある行動をとるように」




