3
にこにこと笑っていた雫が急に後ろを振り返る。目線の先には黒いロングヘアの女子がいた。
制服を着崩し、ハイソックスも下にずり下がっている。しかし、だらしないという感じは抱かない。武士がどんなに衣類を着流しても、不思議と格好良く着こなしているような感じだ。
彼女は欠伸を噛み殺しながら、寝癖まみれの髪を掻く。
「蒼ちゃん、おはよー」
「はよー」
“蒼”と言うのはこの子、空知群青の徒名である。皆曰く、群青だから“蒼”なのだそうだ。
群青は瞳に溜まった涙を拭うと、目を擦った。寝不足のせいか、目が赤く見える。
「寝不足?」
「御覧の通り……」
群青はぐでっと背を丸め、猫背になった状態で会話する。何時も背筋を伸ばしたままでいる彼女に取っては、かなり珍しい体制だ。
彼女は寝癖まみれの髪を指を埋めて掻き回し、欠伸混じりにこう言った。
「いやー、昨日ゲームにのめり込んじゃってさぁ……」
「蒼ちゃんゲームとかするんだ」
「んーするよー? ネトゲとか」
ネトゲって事はネットゲームの事か。あまり馴染みがない分、どういったものなのか分からない。ゲームには変わりないのだろうが。
一人黙って考えていると、群青は人懐っこい笑みを浮かべた。
「そそっ。のめり込むと怖いよねー。あぁ言うのは」
その後、在り来たりな世間話になった。明日の授業参観の事とか、購買に珍しいものが売っているとか、そんな学校という小さな括りの中で話。
高校生の身分において、不況とか国際問題だとかは余り関係のないものだ。深く食い入らなくても、見て見ぬ振りをしても、誰も文句を言わないし、咎めない。学生という身分は、其れが許される。




