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「結構前だから忘れちゃった」
悪戯っ子のように頭を傾ける。さっきのように掻かないのは、また手を洗いに行かされると思ったからだろう。まぁ万一にもそうしたならば、間違いなく洗いに行かせたいだろうが。
「次に豚肉を炒めて。私はその間にタレを作ってるから」
そう言って、オイスターソース、酒、みりんを大さじ一杯。砂糖、しょうゆをそれぞれ小匙一杯混ぜる。
その間にも塊はフライパン内の肉を引っ掻き回し、炒めていた。
「色変わった?」
「まだ」
まぁそうだろう。こんな短時間に色が変わるとも思えないし。聞いたのは念の為だ。私はする事もないので塊の様子を観察する事にした。
エプロン姿で黙って調理をしているところだけを見れば、ただの好青年が真面目に働いているようにも見えなくはない。世の女共が放ってはおかないだろう。
まぁだが中身が中身だ。此処までの奴に付いているのかが問題だろう。
「色変わって来たよ」
「じゃあ、さっき刻んだピーマンと、筍を入れて炒める。それからさっき合わせたタレ……」
そう言いながら、まな板の上に無造作に切られた食材に目をやる。今回使っているまな板が薄手のもので、そのままフライパンに流し込む事の出来るもので良かった。と考えながら、油の弾けるフライパンに投入。それからタレも回し入れる。
一瞬にして火花のように油が飛び散り、乱反射が始まった。それからしばらくフライパンの中を掻き回すと、完成した。
「はい、座っててねー」
私の型を軽く掴むと、そのまま台所から追い出そうとしてくる。塊は何時もそうだ。
まぁ、今回は手伝うことも特に無かったし、大人しく任せる事にしよう。台所を離れた私はスマホを操作する。調べるべきものは勿論、好きな作家のSNSである。
好きな作家――それはつまり“秋本理子”の事である。現代を代表する人気作家で、ついこの間“岩波先生と美しき悪魔たち”のアニメ化という情報を耳にした。
岩波先生と美しき悪魔たちは、高校教師の日常をコメディータッチで描いたものである。……最も普通の高校教師で在るはずが無いのだが……。
今時のラノベらしく、主役の高校教師である岩波信夫がモテまくる。所謂ハーレムと言う奴だ。まぁ、モテると言っても、岩波先生を取り巻く悪魔的女子高生の秋本理子、八木睦月、星野芽衣だけなのだが。
因みに秋本理子は、秋本先生の高校時代をモデルにしているらしい。同姓同名なのはネーミングセンスがなく、名前一つを考えるのに相当な時間を費やすからとの事。
私は早速秋本先生のサイトをチェック。また更新されている。




