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「お帰りー」
所長が事務椅子を回転させ、此方を向く。長い脚を組んで、黄昏ていたようだ。
閏日さんは何を考えている訳もなく、古びたロッカーに凭れ、目を細めた。
「ただいまです」
「たっだいまー」
「ただいま戻りました」
三者三様挨拶をし、それぞれ定位置に着く。私はそのままにしてきたパイプ椅子に後ろ座りをし、塊と氷室は所々に綿の出たソファに腰掛ける。
何時もの黄昏時。主に死体を狩り終え、安定と化した昼下がりだ。私は死んだ魚の目で所長を見る。
「まさかあんな所が在るなんて知りませんでしたよ。後この世界の事も」
声に棘が混ざっているのは、仲間内で秘密にされてきた事の当て付けだ。別に死後の話をされようが、この“私達が住んでいる世界”以外にも世界が在るなんて言われようが、日常に支障を来しはしないために、どうでもいい。
故に、問題は其処ではない。もう少し、彼等から信頼を得ていたように思えていたのに、手酷く裏切られた気分だった。
私はむっとした表情で、所長を睨む。閏日さんには逆効果な為、後でうんと優しくしよう。
「御免。勝手な言い分だが、混乱させたくはなかった」
「たかだか此処以外にも世界があるだとか、悪魔が存在するだとか言われて慌てる程、私達は柔な神経してないですよ」
抑も其れよりももっと苛烈な事を強いられているのだから。塊と氷室を見ると、二人とも取り乱した様子もなく、冷静だ。
ゲームでしか体験しないような、死体狩り。世に出回って人気な物も数多くあるけれど、其れとは大きく異なる点がある。
――死んだら其処までだ――
んな物騒な日常を経験し、新たな、別に日常がひっくり返るようなものでもない要素を話されたところで驚く事もない。
私は背凭れの鉄パイプの上で腕を組み、更にその上に顎を乗せた。双眸は恐らく死んでいる。
「ねー所長、お呼び出しって此れで終わり? これ以上何も無いなら帰っていい?」
塊がソファに踏ん反り返り、如何にも偉そうに頭部の後ろで腕を組んで、幼子の口調で問い掛ける。顔にでかでかと“退屈”と書かれている。
正直私もやることが無いなら帰りたい……。死体を狩らなくて良いなら尚のことさっさと帰って休みたい。




