1 帰還
私や氷室、塊がもう少し探索したいと言ったが為に、来た道を引き返している。所長や閏日さんは来慣れているからという理由で、先に事務所へと帰宅した。そして、三人だけでは不便だろうと気を利かせてくれた御蔭で、今、案内役の死神が一人に着いてくれている。
彼だか彼女だか分からない中性的な容姿に、闇を凝縮したローブ。それが歩くたびに地で蠢く。
“案内役”と言っても、戻りたくなったら何時でも戻れるようにとの配慮であり、建物の説明は一切受けていない。抑も説明すべき点が殆ど無いのかも知れないが。
「こんなにも部屋が多いのには、何か理由があるのですか?」
「そうですね……。理由というか……」
氷室の問いに、死神が首を傾ける。その間にも歩行が止まる事はなく、好き勝手に見物させてもらっている。
「一応、死神達の根城ですから、休息所にもなってはいるのです。ですが、ほぼインペラトルの趣味、で御座いますね」
趣味という域を超えた、荘厳な建物。ヨーロッパのある地域、ゴシック建築の美しい街並みを連想させる。内部も本格的で、教会の礼拝堂を思わせるような、気高さがあった。
不意に、死神は閃いたように口を開く。
「いえ、此処は休息所であるが故にさして変わりませんが、此処は死語の裁判も兼ねております。つまり裁判所のようなところは御座いますよ」
振り返り、 御覧になりますか? と笑顔で問われた。
あぁ、そう言えばインペラトルも言っていたな。裁判を執り行うと……。でも恐らく、その裁判と言うのは天国か地獄に人を分かつものなのだろう。
天国に行く人間を見るのはいい。けれど、地獄へ墜ちる人間を見るのは少し……心苦しい。
そう思って髪を搔き乱す。遠慮しておこう。
「お止めになりますか?」
ぽってりとした唇が鷹揚に動き、問う。顔には疑問。
私は黙って頭を振り、否定の意を示す。それを見て、微かに顎を動かした。二人の反応を見てみると、顔に異議を立てる様子はなかった。
「左様で御座いますか。ではこのまま見学を続けますか?」
「じゃあ、帰ろうかな。御二人は?」
塊が頭の後ろで腕を絡め、課かとを立てて振り返る。顔には秋晴れの微笑。でもきっと何も考えてはいないのだろう。
「私は構いませんよ」
「私も」
するりと塊から目を逸らすと、窓からの景色が良く見える。鈍色の石畳と、黒塗りの古ぼけた大門。それから海原のように何処までも続く荒野。時間の経過を示さないこの場所は、何時まで荒れ果てていた。
「それでは事務所へとお連れ致します」
死神の背筋が丸まり、一礼する。顔を上げると同時に視界が霞み、爛れたように風景が溶け出す。一度瞬きをすれば、既に其処は死体狩りの事務所だった。
連続刑事ドラマの一室を思わせるような、古臭い事務所。空気が黄ばんで見える……。
「お帰り」




