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眼を逸らすことが出来ないまま、私は凝視する。其れはインペラトルが瞬きするまで続けられた。
「はい、終了だ。では試しにコレは見えるか?」
「……っ」
インペラトルが差し出した掌には、黒い……心臓のようなものが乗っていた。スプラッタや惨殺が苦手だと言ったのに、質が悪い……!!
思わず強く眼を瞑ると、穏やかな声が耳を通過する。
「見えているようだな。すまないな、紅葉。これは悪魔の心臓だ」
それから宥めるように、頭を撫でる。まるで傷付いた子供にでもするように。
私が恐る恐る眼を開くと、既に手は隠され、後ろに回されていた。顔には少しだけ憂いの帯びた顔。
「すまないな。もう大丈夫」
顔には笑顔が浮かんでいた。昼に見るような、穏やかで暖かい、温もりに満ちた顔。
振り回されてばかりの私は疲弊した顔で見返した。恨むつもりも、憎むつもりも無いけれど、疲れる人だ。
私は元の席に戻ると、すっかり冷え切ってしまった紅茶を啜る。冷めても旨い。
「では皆にも順に入れていこうか」
そう言って、私達一人一人に“悪魔の可視化”を入れていった。入れている最中、辺りは沈黙に包まれていた。水を打ったように静かで、誰一人口を開く事無くぼんやりと宙を見据える。
私は欠伸をして、何を考えるまでもなく、放心していた。
全員の目に施しが終わった後、インペラトルは席に着き、また口を開く。
「これで話しとやらは終わりだ。他に何か質問がある者はいるかな?」
静かな現状にもう一度目を細めると、彼は立ち上がる。
「では、解散‼」




