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インペラトルと目の合った氷室は、唇を引き結び、黙って頷く。それから顔の右面を覆う前髪を指で耳に掛けると、説明を始めた。
「私の左目は実を言うと、死体を見ることが出来ません。しかし後衛という事もあり、其処まで気にした事もありません」
「見えてなかったの?」
「はい」
氷室は苦い顔をして頷く。
確かに指摘されてみれば、氷室は最初事務所に訪れていたとき、前髪の分け目が逆だった気がする。恐らく死体を見ないようにする為だろう。けれども死体狩りの仕事をする事になった故、見える方の目だけを晒していたのか……。
「其処で、だ。成功するかは分からないが、紅葉と氷室に改めて見えざる眼を与えたいと思う」
「えっ、見えざる目って死神が与えていたの……?」
てっきり生まれ付き見える者が決まっていて、死体狩りになるのかと思っていた……。
ぽかんと口を開けていると、所長が苦々しい顔立ちで頬杖を着き、真っ黒な溜息を吐き出す。
「そうだよ……。つまり私達の平穏は此奴等に奪われたって事だ」
なる程……それで死神の長であるインペラトルの事を嫌っているのか……。個々の死神ではなく、その差し金たる長を。
確かに、死体狩りになった時にそんな事を言われたら、間違い無く恨んでいたかも知れない。けれども硝吸鎌との出逢いや、事務所の皆と出逢えた事だって、この目がなかったらきっと赤の他人な訳で……。
「でも皆と出逢えた事もひっくるめて、差し引き零。それに自分がやらなかったら、また他の誰かが犠牲になる。その事を考えたら憎むに憎めないのよ。ノエルさんは」
閏日さんはくしゃっと表情を歪め、少年のように笑った。当然の事ながら、不愉快そうな雰囲気は感じられない。私も同じ気持ちだ。
対して所長はそっぽを向き、むくれた顔をしている。でもインペラトルが放ったような暗黒の雰囲気は出ていないので、憎めない範疇に留まっているらしい。
おっと話が逸れてしまった。きちんと自分の気持ちを伝えねば。
「インペラトル。残念ですが、私は見えざる目を戻すつもりはありません。見えていない方が個人的には戦い易いのです。それに──」
過去に犯した罪を思い出し、ぐっと唇を噛み締める。良いんだ、これで。後悔は……ない。
「そうか。では氷室はどうだろうか?」
「あっ、御願いしたいです」
あっさりと引き下がり、氷室に話を振る。声を掛けられた氷室は真っ直ぐに背筋を伸ばし、返事をした。




