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ヴォルの回答に、私達は深く頷いた。対してインペラトルはころころと笑いながら、右手をひらり、ひらりと振る。
「まぁ、好きなように呼んでくれ。ハドロンでも、インペラトルでも、狸爺でも」
「流石に“狸爺”は……」
氷室のぼそりとした落とした呟きに、所長が晴れ晴れしい笑顔で頬杖を着く。余りにも良い笑顔過ぎて、軽く引きそうだ。
「良いんだよ~。しょっちゅう呼んでるしね。でっ──」
不意に笑顔が消えて、無表情になる。インペラトルを一瞥すると、ヴォルが注いだ紅茶を流し込む。まるで気分を落ち着けるように。そうして長く溜息を着くと、前髪を掻き上げた。
「本題にさっさと入って貰いたいのですが。余計な事を剥ぎ取って──ね」
「あぁ。だがその前に予備知識を教えてやらんとな。この世界の在り方について、お前達は何処まで知り得ている」
『何処まで知り得ている』と言った途端、所長の両目が鋭く光った。並の人間を容赦なく平伏させるような、威圧的な眼光。その場の空気が一瞬にして凍る。
……基本的に、所長は秘密主義だ。大事な話も物事が迫って来てからしか言わないし、教えない。そんなに頼りにならないのだろうか……? そりゃ……落ちこぼれだけど……。知り過ぎて巻き込まれる事もあるけど……。
私のむくれた面を見た閏日さんが、にっこりと微笑む。相変わらず男を落とす為だけに作られた、蠱惑的な微笑だ。
「うーん……。専門用語の嵐で、混乱しちゃうのよねぇ。皆だってテストもしないのに、そんな事覚えたくは無いでしょう?」
まぁ……確かに。登場人物や専門用語が多い物語は、それだけで疲れてしまう。抑、物語の進行が掴み難い。
教えられないのは不本意だが、テストもしないのに記憶力を使いたくない。面倒臭い。
インペラトルはざっと皆の顔を見回すと、少しだけ首を傾ける。
「宜しいか? ではこれから私が言うことは、聞き流してくれて大いに構わない。緒戦は繋ぎだ。良いか? 聖」
「だからその名は……。良いですよ。それで」
あからさまに嫌そうな顔をすると、思いっ切りインペラトルから顔を背ける。対してインペラトルはにこにこと笑い、その反応さえ楽しんでいるようだった。
「ではヴォル。アレを……」
「畏まりました」
するとヴォルは何処からともなく紙芝居のようなものを出してきた。紙芝居と言っても、普段目にしているようなものではなく、その1,5倍サイズのもの。恐らく遠くの者にも見えるようにする配慮だろう。




