1 王、ハドロン・チェルノボグ
「お帰り」
氷室達より幾分遅く帰った私達を、インペラトルはにこやかに迎えてくれた。最も、硝吸鎌の一件があるために顔を合わせ難い事この上ないのだが。
私がもとの席に着くと、ヴォルがティーポットを持ち、此方に近付いて来た。ポットの口の先からは湯気が出ていて、熱々である事を主張している。
ヴォルはティーカップの取っ手を指に引っかけ、カップから少し離れた所から注ぎ込む。琥珀色の液体が細いカーブを描き、波紋を作りながら満たしていく。
「お待たせ致しました」
そう一礼すると、ソーサーにカップを戻し、インペラトルの元へ戻って行った。
カップを持ち、鼻に近付けると、芳醇な香りが胸一杯に広がるのが分かる。ほっこりとした気持ちをそのままに、一口含むと嫌な渋みなど微塵もなく、深いコクが喉を抜けて行った。
伊達に紅茶の事を語ってるだけじゃない。プロレベルだ。
ちらりとヴォルを見ると、にこやかに微笑んで此方を見ていた。その微笑みが何処か満足そうだ。
「して、全員揃ったところだ。改めて自己紹介でもしておくかな」
そう一呼吸置くと、インペラトルは指を組み、真面目な表情で言った。
「私の名はハドロン・チェルノボグ。黄昏の集いの死神達を統括する、言わば長のようなものだが……まぁ気軽に接してくれ。畏まった扱いはどうにも慣れない」
言い終わる頃にはそんな威厳のある雰囲気は形を潜め、初めて会った時のようにフランクな口調へと変化していた。苦笑いを浮かべ、気の良い好々爺のようだ。
ん……? 待てよ?
「あれ、本名“インペラトル”なんじゃないの?」
塊の質問に私も同意。ヴォルも所長も閏日さんも皆、彼の事を“インペラトル”と呼んでいた。
「いえ、“インペラトル”と言うのは称号です。ほら、学校の先生を苗字省略の“先生”と呼ぶのと同じ事ですね」




