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「紅葉様はインペラトルの事をどうお思いですか?」
「…………主導権を渡しているようで、実は彼の手の名かで躍らされているような……つまり策士……?」
インペラトルに心酔する彼の前で、出来るだけ悪口は言わないように心掛けたが、なかなか上手くいかない。会って数時間程度だし、余りにも彼の事を知らなさ過ぎる。
でも彼は静かに笑って頷いた。
「狡猾…………ですからね。でもお優しい方ですよ。撒いた不幸の種と同等の対価を相手に払います。そして底知れない愛を与えます」
そう言えば彼は『ヴォルも硝級鎌も孫のようなものだ』と言っていた。あの言葉に偽りなし──か。
私達が歩いている廊下は何処も同じような作りになっている。木目調の壁に嵌まる、数メートルもある半円窓、深紅の絨毯、それが終わりなく続いている。こんな所を歩いていて、ヴォルは迷わないのだろうか?
「着きました。中へどうぞ」
ヴォルは板チョコのような彫刻を施した扉を開き、手を向ける。一歩踏み出すと、引き出し戸棚がびっしりと並んでいた。インペラトルの執務室は本で埋め尽くされていたが、此処は引き出しで覆われている。近くに寄って見てみると、一つ一つの戸棚にラベルが貼ってある。
唖然として見ていると、後ろから声が聞こえて来た。
「驚きましたか?」
声に愉悦が孕んでいる。振り返ると悪戯っ子のように口を歪めていた。
「凄いね。こんなに沢山」
「半ば私の趣味と化しております」
“内緒”と言うように口の前に人差し指を当て、『しぃ-』と息を吐き出した。それから鼻歌でも歌うように手を伸ばし、一つの正方形の引き出しを開けた。中に入っているのは枯れ草のようなもの。茶葉かな?
虫が発生すると言う理由で、箱に生身のまま入れる人は少ないと聞くが、なんせ此処は“私達のいた世界ではない”。死んでいる魂が集まっている場所なのだ。
其処まで考えて、引っ掛かる事が一つあった。
「ねぇ、ヴォル。此処は死んでいる魂が集まっていると聞いたのだけど」
「そうですよ」
『時間が早く進む』という概念に捕らわれ、大切な事を忘れていた。塊との一件で頭が一杯になりつつ、和解して、平和ボケが進行している。こんな自分が憎らしい。そもそも私が死体狩りになったのだって──。
「紅葉様?」




