1 頭を冷やす
「で……飛び出して来たはいいけど」
どーしよう。混乱に身を任せて、徘徊すること数分。城の一部のバルコニーのような所にいる。見えるのは笑えもしない荒野と、紫がかった空。
此処に来るまで他の死神とすれ違う事もなく、ずっと一人きりでいられた。お陰で大分頭も冷めた。
常に冷静でいようと心掛けているのに、どうにも上手く行かない。『首を落とされた』なんて私達からすれば日常じゃないか。それなのにまだ慣れないなんて。
自己嫌悪に続く自己嫌悪。いい加減前を向けと背中を押し出されそうだ。
「紅葉様?」
振り返ると一人の青年。ヴォルだ。彼は手ぶらのまま目を見開いている。……紅茶を注ぎ直しに行ったのではなかったか?
訝しんでいる目に気が付かれたのだろう。彼は少し困ったように笑うと、訳を話した。
「すみません。頭を冷やす事を兼ねて出て参りました」
「そう、奇遇ね。私もよ。後様付けはしないで」
そう言うとふるふると頭を左右に振って否定した。目が割とガチなので、反抗すると面倒臭そうだ。
彼はにっこりと微笑むと、これからの事を話す。
「茶の準備に向かう所なのですが、御一緒致しませんか?」
「是非」
まだ戻りたくは無かったし、もう暫く彼と話がしたい。断る理由が在るはずもないので、お供する事にした。
ヴォルは小さく手招きすると、長い廊下を歩き始めた。
隣を歩き始めると、ヴォルの方から口を開く。
「インペラトルは……ですね。私の恩人なのです」
「恩人……?」
「はい」
ヴォルは目は夜の海を見ているかのように、とても穏やかだった。出逢った日の事でも思い出しているのだろう。私は黙って耳を傾ける。
「だから……絶対に許せないのです。害を与える者が」
主にとても忠実なのだろう。いざとなれば仲間の、いや、自分の身さえも投げ打つ事を厭わないだろう。そして後悔もしない。
羨ましいと……思う。大切な一つにだけ集中し、他の物事に頓着しない彼が……。そうなりたい。




