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当然だ。だってこの空間に硝級鎌が来ること事態、誰も予期出来なかった事実なのだから。そう、一人を除いて。
インペラトルは企みがちに微笑んだまま、何も答えない。
「後は上手く皆を誘導させ、時間を稼いで紅茶を冷めさせる。ヴォルは冷めた紅茶を出すような、そんな無礼な真似はしないだろうからね。そして聞かれたくないヴォルを退場させた後、紅葉を誘導した」
最もその必要などなく、上手く皆が立ち回ってくれたようだが。
しかし此奴のお陰で皆は傷付き、この場を離れていった。全くとんだ狸である。
六杯目を飲み干すと、真っ赤な舌先が唇を舐った。
「貴方の狙いはなんだ? こんな無駄な茶番を用意してまで、貴方は一体何がしたい?」
「硝級鎌が今、満たされているのか知りたかった。其れと紅葉に知らせる為だよ。過去に彼奴が何をして、何をされて来たのか」
笑みが消えた。好好爺のような雰囲気が薄れ、冷ややかな指揮官の表情になる。その目には絶対零度の冷気があった。
だからって……もっと穏やかなやり方があったのではないだろうか。
「硝級鎌が要智にしたことを、紅葉にもやって欲しくないだけだ。満たされていなければ、何れ亀裂が入る。荒れていた彼奴が要智の魂を抜き取ったようにね」
目は笑っていなかった。鬼のように恐ろしく、厳しい。
「私に協力するという事は、身内になるのと同義なんだよ。後になって化膿するぐらいなら、今の内に消毒液をかけるなり、切除するなり、何でもして、無かった事にする」
手厳しい言葉と共に最後のティーカップに手を掛ける。タナトスでもやろうとか言っておいて、あっさり全て飲み干している。
彼の表情は強張っていて、仄暗い闇が灯っていた。
「硝級鎌の全てを受け入れられなければ、互いに破滅へと向かうだけだ。そうやって再起不能になる位なら、こんな事、造作もない」
「で、試練はどうだったの?」
閏日が蠱惑的な目で問い掛ける。吸い込まれそうな黒が真っ直ぐにインペラトルに向けられている。
彼は閏日の問いを受けて、漸く穏やかな表情に戻った。合格といったところか。
「大事にしていたようだね。彼処までするのはきっと、心がある程度修復されたて来たからだろう」
しかしまた直ぐに手厳しい表情に戻って言った。
「ただこんなのはまだ序の口だ。あの子がどれだけ耐えられるか。見届けなければならない」
「狸は考え過ぎなんだよ」




