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「安心しなさい。私は“死なない”」
その言葉に目を見張る。何故だろう……肩の力が一気に抜けて、あの熱の移る恐怖から解放されたような気がした。
彼は死神とは思えないような穏やかな笑みを浮かべた後、手を引いた。
「触っても構わないか?」
「はい……」
ぎこちなく頷くと、もう一度手を伸ばして頬に触れようとしてくる。その時だった。インペラトルの細い腕を、骨ばっていながらもしなやかな男の手が食い止める。吃驚して、彼は顔を見る。
「硝級鎌……」
「嫌がっている娘に狼藉を働くのは感心しないな。狸……」
硝級鎌はあたかも不機嫌極まりないと言わんばかりに、彼を睨む。其れに対して僅かに目を見開くと、またゆったりと微笑んだ。
永年生きていると、大抵の事は笑って済ませるようになるのだろうか……?
さて、此処で前に紹介した罅荊と硝級鎌についての説明を入れておこう。罅荊と硝級鎌は“聖遺物”と呼ばれる死体を狩る為の道具である。
“聖遺物”と一口に言っても、形、能力共に大きく異なり、罅荊の場合は振ると棘が逆立つ鞭、硝級鎌の場合は十時から刃を合成する大鎌と違いが見られる。
しかし道具と言っても、人間の姿を形作っているものは“精神体”と呼び、死体狩りの相棒のような存在。意志疎通をする大切な相棒である。
そして今現れているのは、硝級鎌の精神体である……。相手を凍り付かせるような美貌の持ち主だが、性格は天上天下唯我独尊、気紛れに使い手である私にキスをし、必要以上にべたべたする……。中身は幼子とさして変わらない……。でも……大切な相棒だ。
「久し振りだな。硝級鎌。いや……鳥兜と呼んだ方が良いかな」
私が常に使っている呼び名の“硝級鎌”とは普通名詞、つまり人間が道具を呼んでいるのとさして変わらない。野良猫に、『猫』と呼び掛けているようなものだ。
しかし“鳥兜”とは固有名詞。人間の事を『人間』と呼ぶのではなく、“個人”の方の呼び名だ。
そして硝級鎌曰わく、『興味のある者以外には呼んで欲しく無いらしい』……。
「貴様にその名を許した覚えはない」
地の底から響くような、ドスの利いた声。一般人なら殆どが身を竦ませ、身を縮ませるような。しかし彼は『そんな事は知らない』と言うように、微笑を崩さない。
近くで見ると良く分かるのだが、圧倒的にインペラトルの方が上だ。硝級鎌の方が押されている気がする。
そんな時、この場に居る誰でもない声が響き渡る。
「御茶をお持ち致しました。インペラトル、でしゃばった茶目は……」




