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「会いたくなかったけどね、狸爺」
閏日さんはにこやかに、所長は仏頂面で挨拶を交わす……。正直所長のは只の嫌みなのだが……。
そんな事も気にせず、“インペラトル”と呼ばれた男はにこにこと笑っている。まるで子供の強がりを軽くあしらうかのように。
にしても……何処が“爺”なのだろう……? 見方によっては所長よりも…………若い……。
「はい、皆注目ー。狸爺です。お年は?」
「さぁ……もう何億と……いや……? うん……」
所長のギンギンに冷えた双眸を諸共せず、彼は上目遣いに目を動かし、考え込む。
「そうだなぁ。百年は待って貰わんと」
「私達は兎も角、紅葉達は生きてないと思う。いい年だよ」
「そうか、では忘れてしまった。何せ随分と昔の事だからな」
インペラトルはころころと笑いながら、髪を撫でた。触り心地の良さそうな艶やかな髪だった。
「あれ……手袋なんてしてました?」
口調も視線もとても素っ気ないが、節々に相手を気にかけているのが分かる。憎めない相手にする対応と酷似している。
彼はすっと目元まで手を持ってくると、一際嬉しそうに語り始めた。
「ヴォルとタナトスが贈り物としてくれたのだ。丁度、お前が前に報告に来た時に買いに行ったんだ。可愛い奴等だろう?」
「あっそ。良かったですね」
『大して興味も無い』と言うように彼は端的に返事をした。ついでに手袋からも目を逸らす。
視線を外されたインペラトルは、次に私達一人一人に目を遣る。何だろ……人によって表情が僅かに異なった気がした。
塊に対しては憐れみ、氷室に対しては懐かしさ、私に対しては……罪悪感…………。何故、そんな表情をするのだろう……。
でも其れは一瞬の出来事で、直ぐに穏やかな笑みへと変わっていた。
「何時も助かっている。有り難う」
礼の言葉と同時に頭を深く下げる。滑らかで、水にも似たしなやかな動きだった。それからゆったりと顔を上げると、贈り物だと言う大切な手袋を外し始めた。何をするのかと行動を見ていると、孫にでもするように塊の頬に触れ、頭を撫でてゆく。
順調に氷室へと続き、遂に私の番となった。彼はきゅぅっと目を細めると、すすっと私に歩み寄る。白い指先を頬に伸ばしてきた。その動作を見た途端、背筋が凍る。熱が移る、とろりとしたあの生温さが伝わる……!! そう思って目を強く瞑ると、彼は言い聞かせるようにこう言った。




