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振り返ると首を横に傾けて微笑した。基本形が笑顔なのではないかと疑いたくなる程の微笑率……私も見習わねば……。
そう思って両手の指先で頬をマッサージする。
「もっと怖いのかと思ってた」
頬から手を離すと、私はぼそりと呟いた。出来るだけ女の耳には届かないように小声で言った筈なのだが、彼女の耳にはしっかりと聞こえていたようだ。僅かに目を見開いたまま、顔を見る。
今から言い訳しても逆に見苦しいだろう。
「いや、命令口調だったり、無愛想だったりするのかと」
「死神は皆、人間が好きですよ。それに死体の始末を手伝って貰っている方々に、無愛想な態度も失礼かと」
なる程、私が住んでいる世界にも、含むグズな野郎は腐る程いる。特に人から受けた恩に感謝もしないで、のうのうと過ごしている奴。私も含めて見習わねばならない。
長く連なった客室のような扉を抜け、室内版の渡り廊下を通過して、漸くインペラトルとやらの元に辿り着いた。
想ってはいたが、べらぼうに広い……。迷子にだけはなりたくない。
女は高さ数メートルも有りそうな重厚な木の扉を軽くノックし、叫ぶ。
「お連れ致しました。くれぐれも出過ぎた茶目はなさらぬよう」
すると馬鹿でかい扉の端の方から、軋むような音が聞こえてきた。
──キぃぃーイ──
独りで扉が開いた。私達が揃って入ろうとするのを女は腕で阻止し、様子を見るように中を覗き込んだ。
「大丈夫でした。ささっ、お入り下さい」
所長、閏日、塊、私、氷室の順で入る。
案内されたのは大きな執務室のような所。茶色を基調とした室内に、朱色の絨毯。壁という壁は本で埋め尽くされ、本棚と化している。其処の中心には、ざっと二十人分の椅子と、巨大な楕円テーブル。その奥には執務を全うするための机がぽつんと置いてあった。
纏めよう、有るものは本、テーブル、椅子、机。上げてみると極めて少ない……!!
「やぁやぁ、良く来た良く来た」
ゆったりとした口調と共に、彼は現れた。
年は二十代前半と言った所。見ようによっては所長よりも若く見える。異様な程に白く透き通った肌に、真夜中の髪、瞳は目尻が深く切れ込まれており、怪しい紫を保っていた。
硝級鎌が身を凍らせる美しさなのだとしたら、彼は雅な貴族の美しさだった。
「お久し振り、インペラトル」




